2014年9月9日火曜日

原発メーカー訴訟の始まりの事実経過と現在の問題

「原発メーカー訴訟」という、原発事故におけるメーカー責任を問うた世界初の裁判は全世界が注目するものです。しかし海外の原告が3000名になる日本の裁判史上初めての訴訟である故、まだ東京地裁は、原告を確定できないでいます。私たちは年内に裁判がはじまるものと考えています。

しかし原発メーカー訴訟を提案し、世界39ヶ国から3000名の原告を集めるのに努力し、北海道から九州まで原発メーカー訴訟とは何か、それはどのような問題なのかを在日の視点で話してきたことが、「メーカー訴訟を利用して民族差別運動をしようとしている」と批判されるようになりました。私は混乱を避けてはやく裁判がはじめることを願い、事務局長を辞めることを表明しました。事務局内部の調整と海外の原告への説明を終えた段階で正式に辞任いたします。

私は混乱を起こしたことを会員の皆さんに謝罪しました。私の人徳の無さを深く反省しています。しかし同時に在日である私が「原発メーカー訴訟」を提起し、その事務局長として活動しているということを意義深いことと喜んでくださった方も多くいらっしゃいます。ドイツでそのようなお言葉をいただき、どれほど勇気づけられたかわかりません。韓国の世界に誇るオルガナイザーとして活躍された故、呉在植さんはなによりも喜んでくださることと思います。

この問題は組織内部の問題にとどまらず、ある意味、日本の現状を象徴することでもあります。私はこの一文を誰かを批判したり自分の立場を訴え、正当化するために公けにするのではありません。原発体制とは何かをさらに深く探り、来るべき社会に向かって多くの方と歩みをともにしたいという思いでこの一文を公開いたします。今年から始まる「原発メーカー訴訟」に注目し、ご支援、ご協力いただけますようにお願いします。



       原発メーカー訴訟の始まりの事実経過と現在の問題
                                201499
         崔 勝久(「原発メーカー訴訟の会」/ NPO法人NNAA/事務局長)

原発メーカー訴訟の原告の三分の二にもなる海外の原告がどうしてこんなに多いのか、実は、東京地裁が委任状の信頼性に不信を抱いたため、原告訴訟代理人 弁護士 島昭宏の名前で海外の原告が多い理由を説明する「報告書」を東京地方裁判所 民事24部宛に、2014616日に提出しています。島さんの名前で書かれていますが、私との共同作業で役割分担をして書いたものです。添付しました。

そもそもどのようにしてこの原発メーカー訴訟がはじまったのか、どうして海外の原告が多いのかご存知のない原告が多いと思いますので、まずその事実経過をお読みください。明日の事務局会議では議論することが多く、私がこれまでの事実経過と現在の問題を話す時間はとれないでしょう。ですからこのような形で情報発信することを御理解いただければ幸いです。

1 本事件提起へのきっかけ
この集会後、NNAAより当職に対し、原発メーカーに対する訴訟についての依頼があり、準備が開始された。(「報告書」から引用)

(1)   崔から島弁護士に代理人依頼、そのときの依頼内容
NNAAの事務局長であった崔が島弁護士に対して、原発体制をなくす運動を全世界的に展開するために、できるだけ裁判を長く伸ばすための理論構築をお願いしました。そこから原賠法の憲法違反だけではなく、原賠法そのもの基づく、「求償」を逆手にとった「未必の故意」という概念を島さんが見つけ出し、そして裁判全体をノー・ニュークス権(No Nukes Rights)という「原子力の恐怖から免れて生きる権利」という闘いのキーワードを生みだしてくれたのです。

(2)弁護団が無償で代理人を引き受けてくださった経緯
当初全世界でⅠ万人の原告を集める予定でした。私と島さんの間で交わした弁護士の報酬(着手金 3万円)を支払うためにも、最低、数百人は日本国内で集めないと(海外の原告は無料ですから)弁護士への報酬は支払うことはできず、夏が終わってもまだ数十人という状況であったため、私はその事情を記した「緊急のお願い」というメールを多数の人に送り、原告になるか、サポーターとして寄付をしていただきたいというお願いをしました。

報酬があるということを知らされていなかった弁護士からは自分たちは報酬なしで弁護活動をするという申し入れを島弁護士を通してしてくれ、今に至っています。ドイツの環境団体から指摘されたのですが、代理人に一銭の報酬をだすことのできないことを大変、申し訳なく思っています。また無償で代理人になってくださったことに心から感謝しています。

(3)「原発メーカー訴訟の会」設立のいきさつ
1万人の原告を獲得する目標を掲げたのですが、島弁護士は日本人が100名やそこらの数では、中国人・韓国人が日本への反発の為に原告になっていると週刊誌などで問題にされるため、そのような声は裁判への影響があり「原告が集まらない場合には、提訴はしませんし、訴状も提出版までの完成はさせません。」また日本人原告が韓国人原告より少ない場合は、提訴はできません。そこだけは、はっきりと申し上げさせていただきます。韓国人の集団が、日本のメーカーを訴えた、という構図になれば、この訴訟の意味は完全に違うものになってしまい、必死になって作った訴状が無意味になるからです。昨今のヘイトスピーチ等の右傾化の状況を見れば、みなさんもそう思われるのではないですか?」。

そこで二人で話し合い、日本の原告を1000名以上集めることを約束し、「原発メーカー訴訟の会」を201392日、NNAAの主要メンバーが中心となって1000名の日本の原告を集めるために規約を作り、島弁護士にも副代表になっていただき設立したのです。

(4)島弁護士からのクレーム
島さんは、「訴訟の会」で東京、大阪、名古屋、北海道での講演会のたびごとに、私がNPT(核不拡散条約)体制や、植民地主義、在日問題に言及することに、そのような左翼用語は自分も退くし、若い人はもっと退くので事務局長の立場で発言しないでほしいと何度もクレームをつけてきました。

私は講演では、原発体制は戦後日本が国家戦略として、経済復興・成長を目標にして作りあげたものであり、それは同時に外国人の排除と表裏一体であることを説明しました。また、どうして在日の私がメーカーの責任を問題すべきだと言いだせたのか、それは在日であるという理由で試験に通った青年の入社を拒否した日立との裁判闘争で完全勝利した「日立就職差別闘争」や地域活動の経験から、児童手当など法律で日本人に限定すると規定していること自体が差別であるという認識を持つようになり、川崎で児童手当の国籍条項を撤廃した経験をもつからです。私の話を聞いて島弁護士に、あれが「訴訟の会」事務局長の言うことかとクレームした人もいると島さんは言っています。

しかし私の話を聞いて原発体制を作り上げた戦後日本がどのような社会であったのよくわかった、原発体制がいかに差別の上でなりたっているのか、また世界がどのような構造になっているのか知らせていただいてあっりがとうと言う人もいました。そして原発立地地域となった日本の地方(周辺)や、日本が海外に原発輸出することが植民地主義だと説明したら、そのような単語に違和感を持っていたかもしれない人も納得してくれたという、多くの経験を私はしています。

ですから、在日の経験から、たとえ原賠法でメーカー責任を不問にふすということが明記されていても、それはその法律が問題だと言うことができたと話してきました。日本の脱原発運動はメーカーの責任には触れて来なかったのです、原賠法があるのでしかたがないという理解でした。そしてメーカーの責任を問うべきではないかという私のeシフトのMLでの投稿にたいして、可能性があると意見を出してくれたのが、島さんだったのです。

(5)島発言の撤回と謝罪を求めます
私は「メーカー訴訟」は徹底して裁判闘争に全力をあげながらも、同時に、法廷外では、ノー・ニュークス権をキーワードにして、反原発を掲げる人たちとの国際連帯運動を広げようと考えてきました。「訴訟の会」は弁護士と協力しあいながら徹底して裁判にだけに集中し、国際連帯運動はメーカー訴訟を支持・連帯しつつ、別途やっていけばいいのだと思います。原告約4000名の大多数は、反原発を掲げる市民による国際連帯運動に賛同するでしょう。

このように考えれば、私と島弁護士との対立点は何もありません。私たちは島さんの法廷闘争を支持、全面的に協力します。ただし、島さんの考えとは違う人、島さんの発言内容に批判する人に対して原告を辞めることを求めたり、私の事務局長としての活動を評して「原発体制の根幹は差別だと内外に訴え、自身のライフワークである民族差別闘争を成し遂げるための手段として原発メーカー訴訟を利用するなどということは言語道断です。」とする発言は私の全人格否定です。それは、私の「訴訟の会」での活動とこれまで一緒に活動してきた人への侮辱です。この発言の撤回と謝罪を求めます。

島さんの「ロック魂を信頼」するとされる三木卓さんは「島さんは崔さんに対して公の場で言い過ぎたと思います。限度を超えた発言だったと思います。崔さんと民族差別問題に人生をかけて取り組んでいらっしゃる方に謝罪されるべきだと思います」(#1309「島さんへ」)と書かれています。事前に私の代理人を辞任すること(結果として私を原告からはずすことを意味する)を「決定」していた弁護団は、私の活動と講演内容を「裁判を民族問題に利用する」と断定しているわけですから、今後一緒にやっていくためにもこの謝罪と撤回は必要不可欠です。すべての前提です。

(6)私は即時辞任の要求には応じられません
私は事務局長と役職を辞めることを事前に公表し「混乱」を起こしたことについての謝罪をしました(#1230)。しかしそれはこれまでの「訴訟の会」の混乱に対して、私の辞任で「混乱」が収まるのならばという判断から決断したものです。しかも破廉恥罪でも横領でも、刑事問題でもないのに、なぜか島弁護士たちは私の即時辞任を要求し、それが飲まれないならば再び、私の代理人の辞任を実行するかも知れません(8月27日の「事実経過」における島発言のように)。なぜ、そんなに急いで私を排除したいのでしょうか。それは、私の行動・発言に対する一方的な恣意的解釈(民族問題のために裁判を利用する)に基づき、私を排除することで訴訟の会の発展の阻害要因をなくすという考えがあり、私の即刻辞任を求めているのです。

しかし私は、初めての総会までに「訴訟の会」立て直しのための「規約改正」などの難題に「原発メーカー訴訟の会」弁護士と共同で取り組み、責任を全うして辞めることを決意しています。海外の原告(39ヶ国、4000名全体の三分の二)への連絡実務も残っており、それは恐らくわたしでないとできない仕事でしょう。

また、これまで「訴訟の会」事務局で一緒に汗を流してきた仲間も、「混乱」の責任は自分達にもあり、私だけを即時辞任に追い込むことはできない、私と行動をともにすると発言しています。私たちは、「メーカー訴訟の会」の実務を無責任に途中でなげだすことはできないのです。私は9月25日からの1週間、台湾でNNAF(No Nukes Asia Forum in Taiwan)に参加します。多くの海外からの原告も参加します。今後の国際連帯運動の広がりの為に私はしっかりと自分の役割を果たし、来年の活動につなげたいと考えています。

(7)みなさんはどのようにお考えですか?
アメリカ、韓国、ドイツから続々と島さんの強権的な、自分の過ちを一切認めないやり方を批判するメールが寄せられています。しかしこれは島さん個人への避難中傷と見て原告を辞めるようにという態度を見せればますます事態は混乱します。批判を受ければ、誠意を持って話し合いをすればいいのです。

みなさんはどのようにお考えでしょうか。私は「民族問題のために裁判を利用」しようとしたのでしょうか、私を一日もはやく事務局長を辞めさせることが「訴訟の会」の発展のために必要だとお考えですか。私のマイノリティとしての在日の、戦後日本のあり方を問う具体的な内容を知ることがそんなに嫌なことですか。みなさんの意見をお聞かせください。その意見が多いのであれば、私は即刻辞任に応じます。

注:
ここに記された内容は9月6日に、「原発メーカー訴訟の会」のメンバーに送った内容を修正したものです。



    原発メーカー訴訟の会の原告、サポート会員及び弁護団のみなさんへ

はじめに:私の辞任の理由
「弁護団の要求は、あなたが訴訟の会を代表する立場から引いて、いち原告ないし、いち事務局員になるという一点です」。これは島さんから送られてきたメールからの引用で、私はそれを全面的に受け入れることを表明し、みなさんに島さんと私の和解の朗報をお知らせしました。

私はその「弁護団」からの申し入れを受けないと私の原告の代理人を引き受けない、即ち、私を原告から下ろすという「脅迫」に屈したのではありません。先ず何よりも、この間の「混乱」の責任を取るべきだと考えました。私たち4000名を超える原告が提起したメーカー訴訟を実際に軌道に乗せ、世界の人たちと一緒になって、原発事故におけるメーカー責任をあきらかにしていくことで、原発をなくす闘いを進めることを最優先すべきだと判断したのです。その意味で島さんとの和解を心からうれしく思います。

いみじくも、魚ずみさんがMLに投稿されたメール(#1225)の中でこのような疑問を出されています。「もし、私が 事務局長になったとしたら私は、原発は人権問題と差別問題があるのだ、と発言出来ないということなのですか?」。この問題は私の辞任とはまったく違う次元で、全会員が「訴訟の会」のあり方の問題として考えていただきたいと思います。

.「訴訟の会」のあり方は「訴訟の会」で話し合い、決定すべき
「原発は差別の上でなりたっている」という私の主張は、このメーカー訴訟の中で取り上げるべきではない、触れるべきではない、それは運動を拡げていくのに障害になると「弁護団」は判断したようです。まず第一にどうしてその「弁護団」の意見が即、事務局長の解任要求あるいは原告代理人の拒否(事務局長を原告からはずす)という手段につながるのでしょうか。これはあくまでも「訴訟の会」のあり方をめぐって会員間で話し合うべきことではないのでしょうか。

2.「訴訟の会」は裁判だけに関わっていればいいのか?
「原発は差別の上でなりたっている」という私の主張は、戦後日本のあり方を根底的に捉えなおそうということをマイノリティである在日の立場・視点から述べたものです。
それは当然のこととして、メーカーの事故責任を免責する原子力損害賠償法を強要した世界の構造(NPT体制)と関わります。国内における地方(周辺)差別、被曝労働者、
格差社会、戦争への歩み、ヘイトスピーチ、そして何よりも福島の切り捨てと関係します。植民地史支配の清算ができていないという意味で海外の被爆者2世とも連帯すべきでしょう。ノーニュークス権(原子力の恐怖から免れて生きる権利)を私たちは裁判で主張しているからです。「ノーニュークス権」は単なる裁判の為の言葉ではなく、また大きな運動を作るためのシンボルではありません。それは世界の被ばく者との連帯運動をつくるキーワードなのです。

国内で1000名を超え、海外では3000名の原告が自由にそれらのことを話しあい、原発を生みだした根本問題について知見を深め、実際の国際連帯運動につなげるべきではないのでしょうか。私はそれは「訴訟の会」がやるべきことだと考えました。基本的には、裁判のことは委任した弁護士に任せ、私たちは運動に邁進すべきなのではないでしょうか。だから裁判の情報しか要らないという原告には、別のMLを作りました。柔軟に二本立てで「訴訟の会」で運営しようと考えました。「弁護団」が判断した内容ははたして「訴訟の会」として承認できるのか、これは「訴訟の会」で議論し決定すべきことではないでしょうか。

3.マイノリテイの発言を封じて国際連帯運動ができるのか?
私たちの裁判の最大の特長は、そもそも原告が39国、約4000人にも及ぶ、国際的なものであるということです。ですからAP、ロイターをはじめ世界的な通信社が全世界にこの裁判のことを報道したのです。一方、日本のマスコミの取り扱いは酷いものでした。国際連帯運動を掲げることが「訴訟の会」の最大の特徴であり、課題でもあると思います。

国際連帯を掲げる「訴訟の会」の事務局長が日本のマイノリティである在日であることは私は象徴的であると考えています。しかしマイノリティの立場・視点からこの裁判の意義を説くことが、日本での運動の障がいになるという判断はどのように考えるべきでしょうか。できるだけどのような立場の人をも巻き込んだ大きな運動にすべきだという建前によって、日本社会が歴史的な課題としてもっている多くの課題を黙認する、差別の実態を隠蔽する可能性があるということを直視すべきでしょう。マイノリティの発言を封じる運動体がどうして国際連帯運動を展開できるのでしょうか。

4.新たなMLを作り、徹底して議論しませんか?
以上の3点を「訴訟の会」会員間で話し合っていただきたいと思います。MLではそのような議論をすべきではないと意見もあります。私たち事務局が二つのMLを作ったような、私の問題提起を議論し合うMLを作ることにみなさんはどう思われますか?



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