2012年9月4日火曜日

世界は福島4号機をどう見ているのかーフランスの新聞記事より

Facebook 仲間の東和史さんから紹介された、フランスのヌーヴェル・オプセルヴァトゥ―ル紙の記事です。記事の内容は、A.ガンダーセンさんの講演の内容と一致します。いずれも福島4号機の危険性について記しています。東さん、ありがとうございます。
                             崔 勝久
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仏ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール誌「福島の最悪事故が起こるのはこれから?」

フランスのル・ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール誌は、ドイツのシュピーゲル誌と同様非常に評価の高い政治社会誌ですが(ル・モンド紙などと共に日本の大学仏文科研究室がよく購読しているくらいです)、その雑誌が四号機の冷却用プールについて長い本格的な記事を掲載したことはかなり深刻で、私自身非常にギョッとしています。これもまた購読用記事でした。以下のリンクから冒頭部分を読み、記事を購入することができます。

 Le nouvel Observateur ”Fukushima : et si le pire était à venir ?”

*****記事和訳*****

(雑誌表紙「FUKUSHIMA あなた方にまだ隠されていること」)

福島:最悪事故が起こるのはこれからなのか?  

この事実を口にする者は皆無、あるいはわずかだ。日本の原子力発電所の中心部には実は、新たな地震が起こった場合破壊的な力を持つ爆弾が眠っているのだ。本誌の日本特派員が報告する。

ヴァンサン・ジョヴェール記

それは小さなプールに過ぎない。それでいながら地球規模の破壊力を秘めている。水を満たした深さ11メートルのコンクリート製のその四角い容器には、使用済みの燃料棒がみっしりと詰め込まれているのだ。高い放射性を持つ燃料棒264トンである。「冷却用」と呼ばれるこのプールは、かれこれ一年半、福島第一原発のぐらぐらになった四号機建て屋の地上から高さ30メートルの位置に横たわっている。防護する頑丈な屋根も壁もない。ただの白いビニールの防水シートに覆われているだけ。

この現状が孕む危険は計り知れない。台風(八月末からその季節が到来するのだが)や新たな地震の影響でプールの水が空っぽになったり、あるいはプールが崩壊したりなどしたら、引き起こされる惨事はおそらく人類史上例を見ない規模のものになるだろう。264トンの核燃料が直接空気にさらされた場合、チェルノブイリ事故の少なくとも10倍に及ぶ放射能を大気中に放出する可能性がある。それは現代日本の終焉を意味していると言う人々さえいる。少なくとも北半球全体が長期間に渡って深刻な汚染を受ける大惨事である。

センセーショナリズムに過ぎない? あるいは反原発運動家達が大惨事を妄想しているだけ?残念ながらそうではないのだ。データを分析したまじめな研究者のほとんどが、世の終わりの如きシナリオに取り憑かれている。北澤宏一教授は、昨年9月まで日本の名高い科学技術振興機構(JST)の理事長を勤めていた。グリーンピースの一室とは話が違う。その敬意に値する人物が2011年3月11日に起こった原発事故について今年大々的な委託調査を指揮した後、次のように語った:「私は何百と言う証言を聞いた後、福島原発の最悪事態が訪れるのはこれからかもしれないのだと確信しました。それは四号機のプールのせいです。新たな事故はいつ何時起こってもおかしくない。しかもそれは私の祖国そのものを脅かすものになるかもしれないのです。」そして「今後数週間強力な台風が福島原発を直撃しないことを祈っています。」と付け足した。

ビル・クリントン政権下エネルギー省の上級官吏を勤めたロバート・アルバレスは最初に警鐘を鳴らした一人だった。「地震または別の出来事によってこのプールが被害を受けることになったら、放射性火災大惨事が発生し、チェルノブイリ事故の10倍の量のセシウム137が放出されるだろう」と彼は認める。ここで福島原発事故で放出されたセシウムはチェルノブイリの6分の1に過ぎなかったことを確認しておこう。言い換えれば、フランスの物理学者ジャン・ルイ・バデゥヴァンが「まるで精神力のみによって支えられている」かのように見えると言うこの冷却用プールが倒壊することになったら、2011年3月の60倍の規模の事故を引き起こすことになるのだ。前回の事故は原発周囲20キロ圏16万人の住民の恒常的避難を必要とした。その60倍の規模の事故の意味は想像を絶する。

京都大学原子炉実験所に勤める小出裕章氏は、とりわけ日本人にとってはもっと恐ろしい意味を持つ比較を行っている。「もしも四号機建て屋にある冷却用プールが倒壊するようなことになったらとてつもない量の放射能が放出されることになります。慎重に推測しても広島原爆5000発分になるでしょう。」
我々の知る限り、誰も小出氏の意見に異議を唱えた者はない。

フランスの専門家達も同じような悪夢のシナリオを、既に一年以上も前から危惧している。公共機関である放射線防護原子力安全研究所(IRSN)の研究者オリヴィエ・イスナールは、2011年7月7日、東京のフランス大使館に宛てて冷却用プールの「損失」の意味について次のように書き送っていた:「現場の周囲1キロ圏内には人間が立ち入れないくらいの高い放射線量を持つ破片が拡散するだろう」「我々が想像したシナリオによれば(そのような事故)は(原発)の周囲60キロ圏の緊急避難を必要とすることになるだろう」。福島原発事故直後の日々、そのような素振りはおくびにも出さなかったものの、日本政府は実はもっと悲観的だった。当時の首相菅直人が最近明らかにしたところによると、2011年3月15日4号機建て屋が爆発した後、東京の住民3千万人を避難させる計画が秘密裏に検討された。何週間もの間首相は真剣にその可能性について考え続けたと言う。
 
今日、新しく交代した政権と原発を経営する私企業である東電(東京電力)は、冷却用プールは制御下にあり、倒壊のリスクは去ったと保証する。このような保証は、昨年までは世論を鎮めるのに十分だった。しかし今ではそうはいかない。日本人は長年に渡る盲信の後、原子力という支配機構に対する信頼を失った。2012年に実施された二つの調査委員会は、原発関係者達のウソ、怠慢、恥知らずぶりの根深さを暴露した。そのあまりの深刻さに、多くの人々は、東電と日本の責任者達がいったい彼らが主張している通り最悪のシナリオを回避するための対策を取っているのか、そもそもそれだけの能力があるのかを疑うようになっている。

日本の原子力責任者達の態度の真摯さに対するこのような疑いは、最近の調査によって明るみになったとんでもない実情をもとにしている。ひときわ衝撃的だった例を挙げよう。7月に国会で公表された報告によると日本政府はその必要性を認めていながら、東電に十分な耐震措置の建設を強制することを器用に避けてきたのだった。そのような耐震設備は2011年3月の事故を小規模に抑えていたかもしれないのだ。

教訓になる話である。2006年新潟(本州西海岸の街)で大きな地震が起き、スマトラで激しい津波が起こった後原発監査局はより厳しい規制の設定を手掛けはじめた。特に海岸沿いに立地する(福島第一原発も含める)原発に十メートルを越す津波を防止する防波堤を建設することが計画された。しかし秘密裏に打診を受けた東電はむずかった。新たな規制に準じる設備には800億円が掛かる、高すぎるとこの私企業は悲鳴をあげる。何よりもそのことによって東電は多くの訴訟に負ける危険があったのだ。

責任者に宛てられた極秘メモの中で東電は、1970年代から原発周辺住民に「人命を危険にさらしている」と言う理由によって告訴されていることを説明している。しかしこれまで原発の安全設備が不十分であることを証明出来た者がひとりもいなかったことから東電に有罪判決の下されたことは一度もなかった。しかしもしも新たな耐震及び対津波基準が設けられるようなことになれば原告側が正しかったことを認めることになると東電は書く。新たな追跡が行われ東電にとって何百億と言う損失を招きかねない。

監査委員は恐ろしいほどあっさりとこの言い分を前に引き下がってしまった。「専門家達ははじめ津波対策を速やかに完成させるべきだとしていた。遅くとも二年後の2009年まで。つまり2011年3月の事故前の期限だ。」と国会調査を組織した宇田左近氏は語る。「しかし行政は期限を2016年にまで延期してしまった。その上これまでの訴訟や今後の訴訟に論証を与えないため、新たな耐震基準の実践を任意のものに変更してしまったのだ!」

何故私企業である東電に対して日本国家はかくも唖然とするほど寛大なのか? そして何故マスコミや専門家達は口を噤んでしまったのか?「理由は簡単です。日本では原子力の非軍事利用に関して政府、監査局、電力会社、主要な地方行政、 多くの主要メディア、そして幾つかの有名大学の間に完全な癒着関係が存在するのです。」と説明するのは元日本学術会議会長で医学教授の黒川清氏である。「我々はこれを”原子力ムラ”と呼んでいます。」

癒着とは? (フランスの)EDF社とアレヴァ社を兼ねた存在である東電は原子力監査局の幹部全員に「天下り先」を提供している。そのために彼らは東電に対して口うるさく言わない。また東電は与党の会計をたっぷり潤しているので、党も見返りとして東電に何も強要しない。日本中のほとんどの「中立」とされる原子力研究所は東電から資金を大盤振る舞いされているため、日本の原子力の絶対的安全性を証明する研究しか生まれない。原発受け入れを承認する市町村には補助金がたっぷり賄われるので、場合によっては起こりうる不都合に対しても何の不平も唱えられない。

一方マスコミの多くは最大の広告費出資者である東電の世話になっている。そのようなわけで四十年間原子力発電の危険を訴える記事を見ることは非常に稀だった。2009年永遠の野党だった民主党が政権を取ったものの、東電支配は変わることはなかった。何故なら東電の労働組合は、左派中道のこの政党の政治資金最大のスポンサーなのだ。2011年3月11日の事故まで日本一影響力のあるこの企業のスキャンダルに満ちたふるまいを告発する勇気のある官僚、大臣、科学者あるいはジャーナリストがほとんどいなかったのにはこのような理由があるのだ。

しかしここ数ヶ月間、この「血の掟」は存在しなくなった。少なくとも今までよりも弱くなった。「原発ムラ」の最もどす黒い面が白日の下にさらされるようになったのだ。「日本国民は国家と東電が癒着しているせいで深刻な事故の管理が出来なくなっていること、そしてその無能ぶりを隠すために彼らが危機の間ずっとウソをつき続けていたことに気付きました」と語るのは日本最大の日刊誌朝日新聞の元編集長船橋洋一である。事実、東電には何一つ備えがなかった。マスク、放射能防護服、放射能測定器、すべてが不足していた上に、危機管理マニュアルは行方不明になっていた。

どのみち完全な電源喪失のケースなど予期されていなかったのだが。しかし実際にはそのような事態が発生したのだ。事故の場合に幹部が避難することになっていた防空壕はエアフィルターが備え付けられていなかったために使い物にならなかった。それだけではない。 東電は被害を受けた三つの原子炉の現状について嘘をつき続け、ようやく三ヶ月経った後にメルトダウンを認めた。一方政府の方は放射能雲の進路を明かさなかったため、安全な場所に逃げる代わりに汚染の激しい場所に逃げてしまった人々もいた。

”原子力ムラ”はまさか今日もなお同じ間違いを犯し続け、これほど深刻な嘘をつき続けているのだろうか?ほとんどの人がそのことを疑っていない。「確かに2011年3月11日以来、多くの原子力関係責任者がポストを失いました。しかし今のところ誰一人法的に罰せられていないうえ、ほとんどが別の大企業に復職しています。つまり彼らの後継者達は、何も恐れることはないことを知っているのです。このような誰も罰せられることがないシステムなど今でも信頼など出来ません。特に懸案の冷却用プールが制御下にあると彼らが主張している点についてはなおさらです。」と語るのはJSTの元理事長北澤宏一教授である。

2011年6月、東電は四号機プールの床を何百トンもの鉄筋コンクリートで補強した。これで十分な強度なのだろうか?4月26日、アメリカの上院議員でエネルギー委員会の有力メンバーでもあるロン・ワイデンは深刻な報告を発表した。オレゴン州から選出された民主党議員であるワイデンは、福島原発視察から帰国後、ヒラリー・クリントンに正式に次のように書き送ったのだ。「この膨大な放射性物質と使用済み放射性燃料の貯蔵が今後地震が発生した際に表している危険はすべての者に関係する憂慮すべきテーマである。冷却用プールの破壊によって放出される放射能は数日のうちにアメリカ西海岸に到達する可能性がある。」「つまり米国の安全にとって決定的な問題を表しているのである。」

日本の最も大きな同盟国であるアメリカから問題視された東電は、二日後自称最終声明なるものを発表した:「我々は四号機建て屋が地震によって倒壊することのないことを断言する。」しかしプールが耐えうる地震の強度に関する具体的な言及はなかった。批判はさらに膨れ上がる。地震学者達は、福島原発はほぼ毎日のように地震に見舞われていることを指摘する。特に彼らが強調するのは、3.11の大地震によって原発の真下に位置する活断層が再び活性化されたことである。今後三年間の間に再び巨大地震が発生する可能性が高いと彼らは言う。

不安の声を静めるために東電はPR活動を組織した。五月中旬環境大臣が三人の選ばれたジャーナリストを伴って冷却用プール付近を半時間ほど訪れ、何も心配することはないと保証した。しかし日本やアングロ・サクソンのマスコミは批判の手を緩めない。5月25日、東電は二度目の声明発表を余儀無くされた。同社は、耐震強度を測るためのレーザーテストを(ようやく)実施したと発表したのだ。 その結果「冷却用プールは3.11地震と同規模の地震にも耐えうる」と主張する。しかし現状打破にはいたらない。その晩大手放送局であるTV朝日が放映した長大なドキュメンタリー番組は、大災害の危機が実在すること、またこれまで東電がその事実を覆すに足る信頼出来る事実を何一つ示してきていないことを見せつけたのだ。それに対して東電は「プールのコンクリートの壁は厚さが1.8メートルありますから万全です」と答えた。

このような東電の論議はもっとも慎重な専門家さえも説得できずにいる。IRSNの原子力安全課所長であるチエリ・シャルルは、立場上事故の危険について軽々しい発言を行う人物ではない。その彼が先月6月16日、雑誌『Enviro2B』のインタビューに対して、冷却用プールが耐えうるのは「小さな揺れ」だけであると答えたのだ。福島で新たな災害が起こるかどうかは未だによく信じられているように”格納容器中心部のレベル”にあるのではなく、”プールのレベル”に掛かっているのだと彼は語った。そして危険はどのような場合に起こり得るのかという質問には「非常に強度な地震による揺れが起こった場合」。東電の主張をはっきりと否定したのだ。

最悪の事態を避けるためにはなるべく早く264トンの非常に高い放射性を持つ燃料をプールの底から運び出し、即座に安全な場所に移さなければならない。その方法はあるのか? 東電は奇跡の解決策が見つかったと言う: それは高さ70メートルの巨大なクレーンを建設し、何百トンもするコンテナを使って1535本の放射性燃料を移し替えるという措置である。マスコミを安心させるために、7月18日に燃料棒引き出しテストが実施された。引き出されたのは2本の・・・ 非放射性燃料棒だった。しかし実寸大での作業実施プランははっきりしないままだ。最新のニュースによれば建設はまだ始まっていないと言う。そして建設が終了するのは早くとも・・・2013年12月。なぜこれほど時間がかかるのか? それは高濃度の放射能汚染をした場所でのこれほどの実験には前例がないからだ。東電はこれを順調に実施できるのだろうか?誰にも答えはわからない。

またプールから取り出すことに成功したとしてもこれほど危険な放射性廃棄物の扱いについても何もわかっていない。東電が所持する技術はたった一つ。それは再処理である。しかもそれもまだ完全にはマスターできていない。 日本の北部に位置する六ヶ所村に、アレヴァ社の協力の下20年来、ラ・アーグ再処理工場のコピーが建設されている。しかし何千億円もの建設費用が掛かっているにも関わらず未だに機能していない。この施設が稼動するのを待つ間に、日本中の冷却用プールが使用済み燃料でいっぱいになってしまっているのだ。つまり四号機プールの264トンを引き受ける余裕はどこにもない。

アレヴァ社社長リュック・オルセルは4月にラ・アーグがこれを引き受けることを提案した。しかしそれは社会党と緑の党連合が大統領選挙で勝利する前のことだった。同連合政権下ではおそらくこの問題に関する日仏の合意はあり得なさそうだ。残る解決策は地下への埋蔵である。これまで日本の責任者達はこの方法を拒否し続けてきたが、事故から一年半が経過した8月14日、日本政府はこの措置に対する検討を開始したこと、そして廃棄物を埋蔵する候補地を探し始めたことを発表した。しかしバーチャルなクレーンにしろ、埋蔵仮説にしろ、ファイルが停滞状態にあることには変わりない。そして日本の責任者達は福島に毒を撒き散らす燃料棒をどうしていいのか未だにわかっていない。

世界の原子力大国はどうしているのだろう? 米国、ロシア、そしてフランスは介入しないのか?5月初め、国連の事務局長潘基文に対して70のNGOが、逼迫するこの計り知れない危険に関して世界中の人々に警告を発するよう書簡を送った。彼らは国連が日本政府に国際支援を受け入れるよう強制することを求める。日本は今までのところ五月雨式にしか支援を受け入れていない。書簡の文面は元外交官松村昭雄[訳注:村田光平の間違いか? 松村氏は元国連職員] の手により、大勢の日本の名士が署名している。

8月13日、さらに国民的英雄が一人加わった。福島原発元所長吉田昌郎である。彼は今、癌と闘っている。2011年3月彼は上司のバカげた指示を無視して原子炉に海水を注入させた。設備が損傷を受けることを恐れていた東電にとっては大迷惑なことだった。吉田所長はこの英断によってもしかしたら「核の冬」から祖国を救ったのかもしれない。彼は誰よりもよく東電の無能ぶりと、また四号機冷却用プールの現す危険を知っている。精根尽きたこの勇気ある人物もまた、今日世界に向かって助けを求める声をあげているのだ。彼の声はいつになったら聞き入れられるだろうか?



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