2012年5月3日木曜日

震災がれきの広域処理問題についてー九州の飯塚市市長への要請書

震災がれきの問題は脱原発・反原発運動をしているグループの中においても意見が分かれています。日本政府は、福島ではなく、岩手や宮城のがれきのうち20%を日本全国で広域処理しようとやっきになっています。それに対して、札幌市長のように確固たる姿勢で受け入れ拒んだ地方自治体も少なからずあります。

一方、東京や、神奈川県・横浜市・川崎市といった首都圏にある地方自治体の首長はなんとか受け入れたいという態度です。しかしそもそもそのゴミ・ガレキを受け入れる法的根拠は何なのかということはまったくあきらかにされていません。ゴミの受け入れは地方自治体が独自で決めることになっているのです。

放射線量は福島を除いた関東一円と同じようなものだから、「絆」によってお互い助け合っていこうというような雰囲気になっています。ここは「絆」論に流されず、そもそも地方自治体における住民主権とは何か、ごみ処理はそもそもどのような問題であったか、しっかりと考えていきたいと思います。玄海原発プルサーマル裁判を支える会の事務局長の友人から送られてきた飯塚市市長への要請書を公開します。  崔 勝久


震災がれきの広域処理問題について問題点及び情報の共有化を求める要請書

2012年4月2日

飯塚市市長 齊藤 守史 様 

 
 私たちは、震災がれきの受け入れ問題については、公開、科学的法的根拠のある情報、を原則に議会や県、市町自治体、市民の間で十分に議論していく必要があると考えています。
 受け入れを決める判断は、市町であり、地域住民であることは、私たちも承知しています。多くの県民の間では、安全かどうかよく分からないという声を聞きます。不安を持っている人が多いのではないでしょうか。場合によっては、感情的に議論されているようにも思えます。
 情報不足、科学的根拠のない情報での議論は、不毛であり、感情的やりとりは対立を生みます。まずは、行政、議会、市民の間で、問題点や情報の共有化を図るようにすることが一番求められているのではないでしょうか。
 問題の解決の手順は、問題点の抽出~課題の整理~対策という手順で行うのが常道です。そこでまず、問題点はなにか、どのような情報が不足しているかを整理する必要があると思います。
 皆さま方の意見、考えあるいは不足している問題点なども出していただき、情報の共有化が市民に広がる第1歩になればと願っています。
 

1.「広域処理」の決定過程の情報公開--意思決定/政策立案過程の正当性
「広域処理」を決めた環境省の「災害廃棄物安全評価検討委員会」の議事録が公開されておらず、秘密にされており、「広域処理」の理由が全く不明だということです。地元で処理するのがいいのか、わざわざ遠くまで運ぶ必要があるのかそもそもの議論が公開されないのでは、検討にすら値しないというべきです。
 生命の根幹にかかわる重要な問題が、密室で議論されていることは認められないと誰しも思う所だと思います。
 環境省に対して議事録の全面公開を求める必要があります。

2.有害・危険物質の処理――放射性物質だけでないがれき処理
放射性物質を含まない震災がれきであっても、産業廃棄物、化学物質、重金属が含まれています。アスベスト、ヒ素、六価クロム、PCB等が含まれています。国の不十分な調査ですが報告されたものです。特別管理産業廃棄物に該当する化学物質、重金属は、完全に分別できません。一般焼却炉では、産業廃棄物の処理に対応していません。
 ここに震災がれきの処理の困難さがありますが、これまでの法律に従って有害物質は処理されるべきであります。有害なものが含まれているかどうかは受け入れる前に調査されるのは当然であります。有害物の事前調査を処理前にきちんとしているかどうかは、がれきを受け入れるかどうかにかかわらず、地元で処理する8割のがれきにも関係する重要な問題です。
 
3.放射性がれきの責任
 復興の妨げになっているのは、「大量のがれき」ではなく、東京電力がまき散らした「大量の放射性物質」です。震災がれきを汚染した放射性物質の所有者は、東京電力である以上、処理の責任は、東電にあるのは当たり前のことです。
東京電力が引き起こした放射性物質による大気、水質、土壌の汚染に関して、環境基本法の8条事業者の責務は適用されるのであり(環境基本法の国の解説)、廃棄物の適正な措置が東京電力に求められています。  
国だけの責任を問うことは、私たちの税金、責任で処理することを意味します。
放射性物質の処理の責任は、どこにあるのでしょうか。

4.放射性物質は、封じ込め、拡散してならないことが原則――国際的合意
放射性物質を含む廃棄物は、国際的合意に基づいて管理すべきであり、国際原子力機関(IAEA)の基本原則で言えば、拡散を防止して集中管理すべきです。東電に返却すべきものです。
放射性廃棄物を広域に焼却すると、気化した放射性物質は気流に乗り、国境を越えて汚染が広がります。広域処理を進めるならば、日本は、地域だけでなく地球規模で環境汚染の責任を負うことになります。封じ込めることが原則です。
 
5.搬入前の現地での放射性物質の検査方法の妥当性と基準値の検証の必要性
搬入前に現地で放射能測定があるということのようですが、その方法が適切かどうか見極める必要があります。安全性アピールのパフォーマンスとして、がれきに空間線量計をかざし、上昇が見られないと主張されることがありますが、がれきの汚染度は空間線量計で測定できません。大きな目安は、放射性物質が降りそそいだ土壌の汚染具合で判断すべきです。本来は、がれきそのものを計測すべきです。
また、がれきの放射線量の基準値をどこに置くのかも問題になります。環境省が発表している薪ストーブの薪と灰の調査結果が2月24日報道発表されています。岩手、宮城、福島、茨城、栃木、埼玉、千葉県の65カ所を調査したものです。薪で検出下限値20ベクレル/kg前後(検出限界)以下でも灰からは、100ベクレルを軽く超える値が出ています。濃縮されるからです。焼却処分の場合は、がれきそのものの基準値を決める必要があります。

6.焼却場でのバクフィルターで気化した放射性物質を補足できない
 国立環境研究所の資源循環・廃棄物研究センター長の大迫政浩さんは、週刊誌「アエラ」で「煙突から放射性物質は出ません」と言っています。しかし同時期に「月刊廃棄物」という専門誌のインタビューで「今まで市町村の焼却炉で放射性物質とか放射能の汚染物質をいうものを燃やしたことはありません」、「国立環境研究所といえども、それについての知見とかノウハウはありません」、「したがって、本当に取れるのかどうかはというのは、今後の課題です」。矛盾している研究者という他ありません。フィルターで99.99%除去できるという話が広まっていますが、本当でしょうか。
 気化したセシウムの原子直径は、0.53ナノメートルに対して、フィルターの目は、100ナノメートルです。つまりフィルターはザルのような状態です。
調査、確認が必要です。

7.焼却炉の汚染は、焼却灰の取り出し、フィルター交換時や解体時に作業員の被ばくを招く危険性の対応
誰が被曝の責任を負うのか、放射線管理技士の資格が必要な作業になる場合があります。防護策を明確にする必要があります。
 議会、県で対応策を調査する必要があります。

8.焼却炉が放射性物質で汚染された時の維持管理、解体の費用負担
誰が払うのか今の段階で決まっているのでしょうか。
 調査、確認が必要です。

9.セシウム以外の危険な核種の拡散も招く
 福島原発から100キロ以上はなれたつくば気象研究所で、沸点が4877°Cのテクネチウムが検出されています。それより沸点が低い、ストロンチウム、プルトニウム、ウラン、テルル等が当然気化して大量に放出されています。
 放射能汚染されたがれきの放射能測定で、α線核種やβ線核種等セシウムより毒性が高い上記の核種の検査はされていません。がれきの受け入れ、焼却はそれらの核種の拡散をも招き、広い範囲の周辺住民の健康を危険にさらします。
 セシウム以外にどのような核種の汚染ががれきにあるのか検査が必要です。国にしているのかどうか調査、確認をする必要があります。

10.国の基準は矛盾――100ベクレルを超えれば放射性廃棄物となり厳重な管理が必要
 環境省は、昨年6月放射性セシウム濃度が8000ベクレル/kg以下は、一般廃棄物最終処分場(管理型最終処分場)に埋め立て処理を認め、8月には8000ベクレルから10万ベクレル以下の焼却灰についても一定の条件下で埋め立て処理をすることを認めました。
 しかし、原子炉等規制法ではセシウム137が100ベクレル以上であれば、放射性廃棄物として低レベル放射性廃棄物処理施設で長期間、厳重に保管することが求められています。国際原子力機関(IAEA)の国際的基準に基づいています。現在、原子力発電所の事業所内から出た廃棄物は、100ベクレルを超えれば、低レベル放射性廃棄物処分場で厳格に管理されています。ところが、原発の事業所外では、東京都など8000ベクレルで埋め立て処分しています。
 国は、8000ベクレルという基準を、十分な説明も根拠の明示もないまま、広域処理に適用しています。
 この点は、国に安全基準を作ってくれという要請ではなく、原子炉等規制法と矛盾する基準値の説明と根拠を求めるべきではないでしょうか。
 最近、受け入れるにしても、多くの自治体で100ベクレルを基準とするような動きがあるのは当然のことです。
 調査、確認が必要な重要な点です。
 
11.浸出処理施設で放射性物質は除去できるかどうか
群馬県伊勢崎市の処分場では、1キロ当たり1800ベクレルという国の基準より、低い焼却灰を埋め立てていたにもかかわらず、大雨により放射性セシウムが水に溶けだし、排水基準を超えた事件がありました(徳島県環境整備課の回答)。
以前、佐賀県武雄市の杵藤クリーンセンターで、最終処分地の底に穴があき、がれきを全部出して補修した経緯があります。また、浸出水処理施設ではセシウムが取れないことも分かっています。水と接触しないようにしないといけません。一般廃棄物最終処分場に屋根はなく、河川の下流側、海は、当然汚染されることになります。
除去できるかどうか調査、確認する日強があります。
※浸出処理施設:廃棄物の最終処分地は屋根がないために底にたまる保有水を浄化して河川等に放流する施設。
 
12.がれき処理の進まない理由
 被災自治体からは様々な声がでています。樋渡武雄市長が何度も行ったという陸前高田市の戸羽市長は、「市内にがれき処理専門のプラントを作れば、自分たちの判断で今の何倍ものスピードで処理が出来ると考え、そのことを県に相談したら、門前払いのような形で断られました」、「環境省に言うと県から聞いていない」等規制を盾に前に進まない。県、省庁の壁があるから復旧が進まないと言っています。
 伊達勝身・岩泉町長は、「現場からは納得できないことが多々ある。がれき処理もそうだ。後2年で片付けるという政府の公約が危ぶまれていると言うが、無理して早く片づけなくてはいけないだろうか。山にしておいて10年、20年かけて片付けたほうが地元にカネが落ち、雇用も発生する。
 もともと使っていない土地がいっぱいあり、処理されなくても困らないのに、税金を使って全国に運び出す必要がどこにあるのか」といっています。
 一方、仙台市は、神戸市の職員と学者の知恵を借りて、がれきの処理に取り掛かりました。極力分別資源化を進めることを基本方針としています。2013年末までに処理するめどを立てています。がれきの処理は、「人」、「物」「技術」、「お金」の条件があれば地元でできることを証明しています。市町村で置かれている事情は様々です。
 震災がれきの80%は、被災地域で処理することになっています。なぜそこの所が進まないか、そここそ調査する必要があります。20%を広域処理で解決できたとしても、80%が進まないと先には進めません。
 現地の実情を調べる必要があると思います。

13.広域処理の必要性
 がれきの広域処理が必要な背景として、「災害復旧の足かせになっているという指摘があります。セルコホームによるアンケート調査(朝日新聞2012年2月6日)では、優先すべき課題として、複数回答で「雇用」が78.8%、「原発事故収束や被害補償、放射性物質の除染」が64%、「住宅」が60.9%となっていて、がれきの処理が震災からの復興の大きな妨げになっていないことがわかります。
 自治体として優先的に応援できることは何か考える必要があります。
議論の必要性があると思います。

14.広域処理の社会的妥当性
 受け入れる、受け入れないで被災地と受け入れ側の感情に不要な溝を作り、対立する構造を作っているのは、国とマスコミです。そうではなく、公平に情報を共有化し、開かれた議論の場で冷静に検討し、対応すべき問題です。石原知事のように専制的、独裁的に物事を進めるのは問題です。
 地元の現状、実態を踏まえた議論、情報交換を通じて、様々な支援策が検討されるべきにもかかわらず、がれきの広域処理については、一方的に決められ押しつけられようとしています。国会議員もマスコミも、環境省の閉鎖的体質、隠蔽体質こそを本来批判すべきです。1番目の問題がそうです。
 広域処理の地方自治体への半強制は、地方自治の本旨をうたう憲法に反し、団体自治、住民自治という原則を定めた地方自治法に反します。
 何が問題なのか、問題点についての情報を共有化することが何より重要です。
どのように考えておられるのでしょうか。
 
15.広域処理で誰が利益を得るのか
 東京都では、がれき処理に、東京電力の子会社、東京臨海リサイクルパワーが3年で280億円もの受注をしています。
 静岡県島田市市長桜井勝郎氏は、桜井資源株式会社(産廃業)の元社長です。利権がからんでいると疑われも仕方がありません。被災地岩手県山田町は、女川原発から北の方で、一番早く福島原発事故による放射性物質が流れてきた方向にあります。
 受け入れる量は3年間で1.5万トンです。静岡全県の想定の25倍という大量の受け入れ量です。誰が利益を得るのでしょうか。
 JR貨物も、がれき輸送に全力を挙げる考えを示しました。島田市への搬入を始めています。やる気満々です。JR貨物会社の復権をかけています。
 いくつかの議会で受け入れ決議をされているのは、すべて善意でのことでしょうか。がれき処理では、利権で動いている実態が出てきています。
 原発が、原子力ムラの利害関係者で推進されてきたことと同じ構図が出てきているのではないでしょうか。税金が使われているのであれば、透明性が求められています。
調査、確認が必要だと思います。

国は、福島原発事故後、放射能被曝の安全基準を根拠もなく引き上げてきた経緯があります。居住の安全基準を1ミリシーベルトから20ミリシーベルトに、食品の安全基準を370ベクレルから500ベクレルに引き上げてきました。目的は東京電力の賠償額を抑えるためとしか考えられません。人や子どもたちの命を守るためであれば、安易に引き上げることはできません。
 これらの経緯を考慮すれば、震災がれきの処理についての安全基準は、自治体と地域住民が自主的に判断して決めるのが当然です。
 判断できる情報が少ないと市民誰でも感じていることと思います。市、議会自ら調査し、確認して、その上で持ち寄って各自治体で取りまとめていく必要があると思います。県も、調査していく義務があります。
 その上で次の課題~対策が出てくる手順になっていくのではないでしょうか。今は問題点を調査し、整理していくことが必要だと思っています。
 その上で、環境省からの説明を求めることになるのではないでしょうか。

 以上の問題点について市、議会として調査・検討され、地域住民に科学的で正確な情報を説明、提供をしていただくよう要請します。

要請者


玄海原発プルサーマル裁判を支える会・飯塚の会
代表 奥野 聡一郎


  
 
 

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