2012年4月13日金曜日

東京湾臨海コンビナートが危ない! ここにも安全神話が


私のブログで何回かとりあげた、地震防災工学の日本の第一人者である濱田政則教授の新書、『液状化の脅威』(岩波書店 2012)を読みました。

濱田さんは日本学術学会の会員として、どちらかというとこれまで保守的な立場で原発推進派と見做されることが多かったとご本人から伺っています。しかし3・11を経験されて、ロスやスマトラの地震災害の実態を御覧になりながら、「わが国でマグニチュード9規模の地震が起こらないと考えるのは、まったく科学的根拠のない単なる思い込みであった。長年にわたって地震防災分野の調査研究に携わって来た者の一人として慙愧に堪えない」とあとがきで記しておられます。

私は数度個人的に教授の研究室をお訪ねしたり、川崎での集会でお目にかかったのですが、日本の原発に関してははっきりとよくないと断言されました。これまでブログで取り上げた内容を参考までに下に記します。教授は川崎では与野党を問わず、市会議員の学習会で講演をされています。後で書きますが、市民と政治家、企業、専門家が一緒になって災害対策を話し合おうとする私たちの姿勢を激励してくださっています。

著書では、まず液状化とは何かから説明されます。
「地震前には砂の粒子が互いに連結し、この連結によって地盤自体の重さおよび地盤の上に建設されている構造物の重さを支えている。これが地震の揺れによって砂の粒子がはずれ、ばらばらになって水の中に砂の粒子が浮いているような状況になる。このように地盤が水と砂とが交じりあった液体のような状態になることを液状化現象と呼んでいる」そうです。

ところが「世界で液状化に関する研究が始められたのは1964年の新潟地震がきっかけ」で、「それ以前に造成されていた埋立地盤や構造物にはほとんどの場合液状化の影響が考慮されていない」という実態だそうです。即ち川崎を含めた東京湾の埋立地はほとんで、地震による液状化の危険性も知らずに造られたということなのです。

「はじめに」のところで濱田教授は、「大都市圏の湾岸地域、特に海域地震時の安全性は地震防災対策の盲点とも言える課題である。自治体の防災点検は埋立地とそこに建設されている構造物や護岸については行われているが、その前面に広がる海域の安全性の検討はほとんで行われていない」と断言されます。怖いですね、みなさん、知ってました?

教授の主張は、東京、千葉、神奈川が一緒になって取り組むことと、「自治体間の密接な連携が不可欠であり、政治、行政、民間企業、地域住民および研究者が一体となった取り組み」の必要性ということです。私はこの点に関しては教授のご意見に全面的に賛同し、その実現に向けた住民運動と行政への働きかけを行って行きたいと願っています。

濱田教授はアカデミックな世界にいらっしゃりながら、元々は建設会社にお勤めで、実際に地震防災の工事現場に長くいらしたのです。浮島から市内につながるトンネルの設計にはご自身が関わり、古くなったトンネルには既に水漏が見られることから、地震の際の危険性に対しては誰よりも熟知されているのです。

第5章の「東京湾コンビナートが危ない」は読者の皆さんに必ず読んでいただきたい箇所です。液状化対策がなされていない埋立地の上には、「数多くの重油・原油などの危険物施設、液化天然ガス等の高圧ガスさらには劇物タンクなどが建設されて」おり、「東京湾岸臨海部の埋立地にあるこれらのタンクの総数は5000基以上になると言われています。」

著書の中では地震災害防止のための工学的手法が具体的に記されており、実際に地震対策として工事をした場合の費用、そしてその費用の捻出の仕方まで述べられています。その分野の研究者にとっては必読書であると同時に、政治家や市民にとっても必要な情報だと思います。例えば、川崎で護岸が地震によって横滑りしないようにするためには200億円くらいの費用がかかり、それは「川崎市の石油コンビナートが産出している揮発油にかかる国税、いわゆる道路特定財源として使用される・・・年間約3900億円」で「臨海部埋立地の地震補強に投入することはできないのか」と述べられています。

3・11の地震の時は川崎で観測された地表面の最大加速度は150ガル程度だったのですが、それでも護岸の横滑りがあり、液状化の跡が見られたそうです。東京湾北部の直下型地震が起こった場合は、その数倍の400-500ガルになることが予想されるとのことで、それは最新の政府の発表と合致しています。そうなれば網の目のように張り巡らされた臨海部の地上、地下のパイプは損傷は免れることはできないでしょう。


岸辺のすぐ傍に乱立する数百の石油タンからは、地震の長周波によってタンクが大きく揺れる被害、地盤の液状化の影響によってタンクそのものが破損するような被害が予想され、大量の油が海上に流れ出ることになるでしょう。それによって東京湾の船の運航は禁止され、川崎に設置された首都圏の物資の輸送施設などは完全に使用できない状態になり、経済的にも首都圏に大打撃を与えることになると記されています。

教授は陸上への影響については詳しく記されていないのですが、海上に流れ出た油は運河を介して、また鶴見川、多摩川を遡上して、川崎市内に流れ込み、油の海になりそれは火災につながるということは間違いないようです。教授は、「コンビナート火災が近隣住宅地に飛び火し、大規模な住宅火災に発展することになる」と書いていらっしゃいます。

国・神奈川県・川崎市は現在、このような災害が予想されるのに、なんら具体的な対策がとれないでいます。縦割り行政の所為もありますが、3・11までの「安全神話」が崩れたことの認識が希薄だと言うしかありません。

3・11で起こった様々な「複合被災」問題に関わる住民は、今一度、地震・津波によって自分たちの住む地域社会がどのようになるのか、その災害対策は十分なのか、検証する必要があると思います。そして行政に任せるだけでなく、私たち住民が横の連絡を取り合い、東京・川崎・横浜で一緒になって災害対策を検証する必要があるのではないでしょうか。瓦礫問題ですでにその連携の兆しは見え始めています。そこからさらに問題意識を深め、確認し合いましょう。地震はいつ来るのかわからないのです。それは自分自身、そして自分の家族が生き延びるためにどうしてもやらなければならないことだと、私は考えています。

参考までに:
3・11のときの千葉のガスタンク爆発は他人事ではない(2012年3月2日)
http://www.oklos-che.com/2012/03/blog-post_02.html

津波への備えのない、エコ発電都市川崎の実情を目撃(2011年9月6日)
http://www.oklos-che.com/2011/09/blog-post_06.html

「隠された東京湾炎上」ー川崎は想定外の地震でどうなるのでしょうか(2011年8月17日)
http://www.oklos-che.com/2011/08/blog-post_17.html

エコ発電都市(環境都市)川崎の陥穽(2011年6月28日)
http://www.oklos-che.com/2011/06/blog-post_28.html

川崎臨海部に地震による異変が起こったのか? ー日経新聞川崎版より(2011年6月10日)
http://www.oklos-che.com/2011/06/blog-post_10.html

講演:東日本大震災をどう受けとめるかー日本の地震防災工学の「権威」の濱田教授(2011年6月9日)
http://www.oklos-che.com/2011/06/68-20071020093-2003320053-199320091.html

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