2011年9月4日日曜日

高木仁三郎の遺作『原子力神話からの解放』(講談社)を読んで

私は3・11以降集中して原発関係の本を読みました。「原発体制を問うキリスト者ネットワーク」の読書コーナーにそれらの感想文が載せられています。http://wwwb.dcns.ne.jp/~yaginuma/report9.html

高木仁三郎のこの本は、2000年8月に出版して、同10月に帰らぬ人になられたので、遺書と言っていいと思います。実際はこの後、『原発事故はなぜくりかえすのか』(岩波新書)が出版されていますが、これは病床での口実筆記で実現されたもので、ご本人はゲラをご覧になっていなかったと思います。本当にひ
とつひとつ、私たちが原発と対決できないようになった、その根にある神話を丁寧にかみ砕くように、そうではないんだよと説明してくれます。

上記の本からはいずれも多くを学びましたが、私は高木仁三郎の本書は、原発に関する教科書として多くの人に読まれるべき、また原発反対者が絶えず戻るべきところであると思います。技術の発展が著しい現代においては私たちが知らなければならない知識や、さらに深めて考えるべきことは多くあるとでしょうが、こ
の高木仁三郎の遺書は原発が存在する限り、間違いなく名著として残るでしょう。

高木のこの本の中で、彼は近く大きな原発事故が起こることを確信しているように感じます。まるで3・11を予言しているようです。「パンドラの箱は閉じることができるのかー結びに代えて」のところで高木は、多くの神話がいかに間違っているのかを懇切丁寧に明らかにし終えたうえで、このままでは大きな事故が起こるのは必然と思いながら、最後の警告をします。

「このへんで核の時代に終止符を打ち、現存する核兵器やプラトニュムや放射性廃棄物を、知恵を合わせて厳格に管理していくことに努め、より平和で安全なものへの文明を展開していく努力をすれば、まだ間に合うのです」。やることはやってきた、言うべきことは言ってきた、しかし問題は解決しなかった、後はもう
これしかないではないか、これが私が言える最後の言葉なのだという、気持ちなのでしょう。

彼が原発を推進するために作りあげられた神話と見做すのは、以下の点です。
1.「原子力は無限のエネルギー源』という神話
2.「原子力は石油危機を克服する」という神話
3.「原子力の平和利用」という神話
4.「原子力は安全」という神話
5.「原子力は安い電力を提供する」という神話
6.「原子力は地域振興に寄与する」という神話
7.「原子量はクリーンなエネルギー」という神話
8.「核燃料はリサイクルできる」という神話
9.「日本の原子力技術は優秀」という神話

高木の記したことは特殊日本的なものではなく、原発建設を国策としている国々では同じく、「原発の安全神話」が浸透してていると思って間違いないでしょう。そうでないと、国民が真実を知っていたら、そのような危険なものを承諾するはずがないからです。韓国をはじめ世界中で翻訳して出版してほしいものです。

にもかかわらずどうして3・11以降においてもその神話が形を変えて生き延びているのでしょうか。徐京植は藤田省三の詩を紹介しながら、「安楽全体主義」という概念を紹介しています。http://www.oklos-che.com/2011/08/blog-post_31.html

飯田哲也は宮台真司との対談で、高木を尊敬すると言いながら彼とは距離を置き、硬直した原発推進派と反対派のあり方を批判して、自然エネルギーの普及で実質的に脱原発を実現しようとします。http://www.oklos-che.com/2011/08/blog-post_28.html

「福島において、3・11以後も、その根底にあるものは何も変わっていない」とする『「フクシマ」論 原子ムラはなぜ生まれたのか』(開沼博 青土社)の問題提起は大変挑戦的にです。

しかし私にとっては高木の遺書は、上記の著者のいかなる主張よりも説得的です。私は「脱原発・反原発」の政策の実現を一日も早く実現させなければならないと改めて、強く思います。欧米においては原発は斜陽産業に既になっているの(日本でも同じ)ですが、それでもアジアに今後も集中して建設されるようです。

その主犯は日本と韓国であり、中国・インドという大国が関心を示し虎視眈々と進出をねらっています。その背後にいるのが欧米の先進国なのでしょう。すべての国は電力の資源の問題をあげていますが、明らかに、原発は核兵器の開発とつながっています。核兵器を作ればつくるほどプラトニュームが必要になり、これまで第二次世界大戦の戦勝国が核を独占して他国の所有を禁止しながら平和利用という形で原発開発を推進してきた構造を高木はしっかりと分析します。

原発が世界の平和の問題と結びつきながら解決されないのは、原発が先進国の植民地支配の構造を反映し、国民国家の本質と関係するからだと私は考えていますが、どなたかこのあたりの研究をされている方をご存じないですか。小熊英二と李鐘元が韓国で講演すると聞いていますが、このあたりのことをどのように説明するのか、それぞれのお国の事情はあるだろうが、まず原発は止めなければならないと踏み込むのでしょうか。

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