2011年8月1日月曜日

「海を越える原発問題ーアジアの原発輸出を考える」シンポに参加して

本日日曜日の午後1時から5時過ぎまで、素晴らしいシンポがあり、その企画の問題意識の的確さに感心しながら、海外の発題者の、地道に民衆の中で運動してきた者だけが醸し出す落ち着きと、自信にあふれたメッセージを聴くことができました。主催は、「早稲田大学アジア研究機構アジア平和研究所」です。

講演者はィ・ホンソク、韓国「エネルギー正義行動」代表、ヌルディアン・アミン、インドネシアイスラム組織幹部、ソッサイ・サンソーク、「タイ市民による非核ネットワーク」コーディネーター、そして日本からは「環境・維持社会」研究センターの田辺有輝さんでした。司会は早稲田の村山吉敬さんです。しっかりと準備された発題で、各国の原発の状況とそれに反対する民衆の動きが手に取るようによくわかりました。

まず韓国です。韓国は四つの地域に集中して原発が建設され、21基が運転中で、13基が建設中あるいは建設予定です。原発は全発電量中で30%ほどですが、それを2030年までに約60%に上げ、全世界に80基の輸出をする計画です。新規の原発建設予定の20%をとると李明博大統領は豪語しています。自ら指揮をしてUAE(アラブ首長国連邦)と昨年契約を取り、国を挙げての大騒ぎだそうです。現地から地上波のライブ中継をし、それを記念して国の休日にするとか。

現在は濃縮ウランを海外から輸入して、再処理は認められていません。それらを一貫して調達できるように開発費も日本の2倍ほど投入して準備に入るそうです。再処理は日本が認められたのに、どうして韓国はだめなのかという論理でプルトニュームではなくウランを取り出すということで世界をと国民を説得しようとしています。北朝鮮の反発を考えると、韓国の手前勝手な要求をアメリカは認めるのかどうか。原発後進国(日本もそうですが)の韓国は国威をかけて原発の開発と輸出に邁進するようですが、来年の選挙で大統領は変わるので、ドラスティックな変化を見せるのか、まったくわかりません。しかし今のところ、日本が再稼働をする、輸出もするとなると、韓国で脱原発の運動を展開するのはむつかしくなるという李さんの正直な感想でした。

UAEとの契約は200億ドルという金額でその半分を韓国は融資するのですが、その大半は海外からの借り入れを起こすことになります。その金利は、韓国より国際的な評価が高いUAEなので、高く借りて安く貸すという「逆ザヤ」になることが問題になり、またUAEへの軍隊の派遣とからめての契約条件であったことが明らかにされています。しかし「商業目的の派兵」と李大統領は突っぱね、98%のエネルギー資源を輸入に頼る韓国にとっては原発はなくてはならぬもの、車とITに次ぐ新しいビジネスモデルにするという意気込みで国民を説得しようとしています。国民の多くは日本も3・11までそうであったように、被曝労働者の問題、使用済み核燃料の問題、地震の怖さについてはほとんど知らされていないものと思われます。「低炭素グリーン成長」と名付けられているとか。

李さんはアジアで原発を止めれば、世界が止まるといいう情勢分析をして、逆にそれだけむつかしいといういことであり、自国での反対運動を強化するしかない、そのためにも日本や世界からの情報は大切で、「原発なきアジアのために連帯」することを呼びかけていました。

インドネシアの代表はイスラムの指導者でもあり、まさに地元住民と一緒になって考え、行動を共にしてきた人のようでした。原発に対する恐怖感を国民は持ち続け、政治家の言うことはこれまでの経験からいくらいいことを言っても信じないそうです。大きいプロジェクトには大金が動き、政治家は賄賂、汚職でいい目をするのだろうと見ぬいています。彼ら指導者のすごいところは、原発の反対運動と並行して生活そのもを見直すことをやろうとしていることです。ウラマーというイスラムの指導者たちは、原発を「ハラム」(イスラム教で禁止されたもの)と採決したというのです。原発のプラスもあるが、マイナスもあり、総じてマイナスの方が多い、「益」より「正義」を優先させ住民の生活に立脚した立場に立ちきろうとしているということでしょう。ヌルディアン・アミンさんは、イスラム教の指導者であっても、カトリック、仏教界の人たちとも手を組み、一緒になって歩もうとするすごいオーガナーザだと感じました。

最後にタイの女性ですが、日本に来てあまりの「便利さ」を求める日本社会に驚いたと言います。どうして手であければ済むのに、電気でドアを開けるのですか、命を大事にする宗教の教えから自然を敬うことを最優先しなければならないと毅然とした態度で日本社会のあり方に対してそれとなく問題を投げかけてくれました。タイの大手スーパ3店でタイの県全体の電気使用量よりも大きく、一体、誰のために、何のために原発をやろうとするのか、原子力の一番の平和利用は、原発をやらないことだと言うのです。なんというシンプルで、力強い言葉でしょうか。タイの田舎のダムの問題から運動を始めたという彼女は決して形而上学的な言葉でなく、実際的で、民衆の心を掴む言葉を話す女性のようです。

3人の指導者の説明から日本を含めての共通点がありました。(1)正確な情報が国民に伝えられていない、(2)住民の反対運動は無視し強権でつぶす、(3)エネルギー危機を声高に唱え、原発で解決をするという神話を浸透させている、という点です。

最後に司会の村井さんは、アジアにおいて反原発・脱原発の革命を起こすという言葉で結ばれました。その一見きざな言葉が決して浮き上がって聞こえないほど、3人のアジアの活動家の言葉が現実的で力強いものであったのでしょう。私は彼らと現地で再開したいと心から願いました。おそらくそこには、単に反原発の運動の仕方だけではなく、そもそも民衆運動とは何かという根本的なものがあるはずです。

韓国の李さんには、彼が組織化した「核なき社会のための共同行動」(http://
nonukes.kr)にキリスト教団体がいくつも名を出していて、その人たちとも会いたいということを伝えました。今の大統領の動きを見ていると、日本以上に反原発の運動は厳しいでしょう。徹底した批判にさらされることを覚悟しないとダメなようです。彼らとも学習会や講演会を通して日本の実情を正確に知ってもらい、韓国の脱原発の動きに私たちの「ネットワーク」が寄与できることは何か、そしてそれをどのようにして日本の脱原発運動に還元していくことができるのか、しっかりと考え協議して行動に移したいと思います。

2 件のコメント:

  1. 崔さん

    いつも楽しみに拝見しています。
    ご報告ありがとうございました。
    素晴らしいシンポジウムだったんですね。
    世界に目を向けてらっしゃる崔さんは凄いです。
    勉強になりました。
    これからもよろしくお願いいたします。

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  2. 河野 恵子2011年8月5日 15:06

    空も海も世界につながっています。

    日本は世界中に放射能をまきちらしているのだと思います。

    推進派の人たちはその責任をどう感じているのでしょう。

    その想像力も失っているのだと思います。

    ぜひ、世界の脱原発の同志と手を結びましょう。

    日本の政治家は外圧に弱いようですし。

    ~まず私は英語の勉強だわ~

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