2011年7月26日火曜日

反原発の学者、小出裕章を読んで ー現実的ってなんでしょうね。

昨日、今日で、反原発を貫いてきた小出裕章を立て続けに2冊読みました。『原発はいらない』(幻冬舎)と『原発のウソ』(扶桑社新書)です。勿論、超多忙な彼に新たに本を書く余裕はないでしょう。出版社が彼の講演などからそれぞれ1冊の本を作ったものです。

しかし「脱原発」ブームに便乗してアジるような論調ではありません。申請すればギネス記録になるだろうと本人も言うほど、万年助手に甘んじてきた人で、この40年、ひたすら原発をなくさなければならないということを一学者として訴えてきた人です。3・11の福島原発事故ではっきりと可視化されてきたことについても、どうだ、やっぱり自分たちの言ってきたことが正しかっただろうというような驕りはみじんも感じませんでした。むしろ、あのような事故を起こさせてしまった、自責の念を何度も書いています。

恐らく世渡りが下手で、学生時代から純朴な人だったのでしょう。それはオリンピックで東京が変容して下町の趣がなくなるのを目のあたりにしてもうここには帰ってこないと思ったり、自分でも保守的だというような全共闘時代のノンポリ学生が、女川原発の反対運動をする住民から、そんなにいいもんだったら(原発を)仙台にもってけと言われて納得し、そこから原子力の平和利用がもてはやされる真っただ中で、原発に疑問を持ち始めたということからも窺い知れます。

こんなことを言ってもひとがおかしいと思うだろう、こんなことは言ってもそうはならないだろうということを知りながら、どうしても言わざるをえないという心根の学者なんでしょう。例えば、福島の野菜が放射線で汚染されていればがそのまま数値で表し、子供たちには食べさせないで、60以上の放射能の感受性が弱くなっている世代が食べればいいじゃないか、そうしないと一次産業は全部だめになるというような発言です。とても現実的な提案とは思えません。60歳以上の原発の現場に熟知している人間が、ボランティアで被曝されても現場に行ってやれることをやろうという呼びかけに応じるような人なのです。

たまたま私の友人がFBで、民族学者で政府の「復興構想会議」委員をしている赤坂憲雄のことに触れていたので、毎日新聞のインタビューを見ました。人受けすることをねらって発言するというより、自分がフィールドワークで出会ったひとのことを思いながら、東北地方の「復興」のことを考えているんだなということがよくわかる考え方の持ち主のようです。「原発なき世界に向けて踏み出すとき。その一歩として、福島では原発に別れを告げる。イデオロギーではない『脱原発』、そこからしか福島の再生はあり得ない。」しかし長期的なロマンを語りながら彼の原発の認識は世俗的で現実的です。「国家として直ちに脱原発は無理でしょう。しかし、古い炉から順に廃止し、安全性が確認された原子炉を運転する『猶予期間』に、太陽光や風力などの研究開発を進め、供給量を増やすことは可能です。」 http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110722dde012040048000c.html やっぱり、出世する学者は現実的です。

今すぐ原発をやめても、火力発電の7割のキャパで水力発電と合わせれば全く問題ないと言い切る小出は世渡りの下手な人なんでしょう。「安全性が確認された原子炉」なんて、どこにあるんだ、小出ならそう言うでしょう。今の日本人の使うカロリーを半分にして70年代のときに戻そう、それでも世界から見ればまだまだ豊かなんだよ、電力が万が一足りなかったらそれに合わせる生活をすればいいじゃないか。そこには誰に対する媚びも配慮もありません。ただ学者として信じるままを語っているのです。本人も書いていますが、その姿勢は宮沢賢治を彷彿させます。「世界ぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はありえない」、宮沢はそう書いているそうです。

現実的な東北地方のあり方を「復興構想会議」委員として提案するにはむつかしさもあるでしょう、そんなことを言ってもやれることからやるしかないではないか、もっと現実的になろう、その中でロマンのある具体案をきっと実現させるから・・・赤坂ならそう言うのかもしれません。実は私もタイプとしてはそのタイプの人間です。しかし私は小出の発言に心惹かれます。今すぐ全部、原発を止めればいいじゃないか、一体、どれだけの人が苦しむと思っているんだ、事故がいつ起こるかわからないんだよ、自然をこれ以上汚していいのか・・・。

実は来年の春には日本の原発はとにもかくにも定期検査ということですべてが止まります。何が起こるかもわかりません。案外、小出の言うことが理想的なんでなく、もっとも現実的であることが実証されるような事態になるかも知れません。この世のことは人間にはわからないのです。彼は、人間という種が生き残る価値があるのか、という最も根源的な問いを秘めているように思います。私は小出の主張に基本的に賛同します。やはり、原発は全部、すぐに止めるべきなのです。違いますか?

0 件のコメント:

コメントを投稿