2011年5月25日水曜日

「想定外」は嘘だった?!

原子力の専門家は、メルトダウンのことも、地震で冷却配管などが損傷を受けていたこともわかっていました。しかし東電側がデータを発表しないので公表しなかっただけのことです。4月23日の

田中三彦さんの講演趣旨を確認ください(「脱原発フォーラム「原発事故について、テレビが教えてくれないこと」に参加して」:http://anti-kyosei.blogspot.com/2011/05/blog-post_23.html)。

「放射線物質の放出流失は津波によって電力供給がストップし、冷却すべき装置が稼働しなかったからとされていますが、実は、地震によって配管が原子炉圧力容器が破損し冷却材喪失事故というのを起こしていた可能性があるのですが、ことの実態が、地震発生後6時間のにわたり一切データがいまでもまったく公表されず、わからないというのです。」
「東電や原子力保安委員会が想定外の津波を強調するのは、地震で原子炉圧力容器につながっている配管や圧力制御室が破損したことが判明すれば、これは他の原子炉との直結する問題になるからだそうです。」

田中三彦著『原発はなぜ危険かー元設計技師の証言』(岩波新書 1990)は今回の福島の事故を「予言」しています。私はこの本を読んで、事故は起こるべくして起こったということを心底理解しました。「格納容器はまったく役立たず、FCCS(緊急炉心冷却系-崔)などの緊急冷却設備なども無力化するような劇的な冷却材喪失事故を安全評価のために想定することは、原発の建設を不可能にする」と述べ、津波のために防波堤を高くするような処置では根本的な解決にいたらず、「自然に挑戦する」原発そのものの存在に疑問を呈します。

田中さんは日立の原発設計に関わっていらしたのですが、冒頭、そもそも東電に納入した福島の原子炉は「欠陥品」であること、東電側にも政府にも知らせず一企業が独自の判断で何の基準もないところでかろうじて原子炉のゆがみを矯正した秘話を明かします。そして中性子の活発な動きに耐えられるような金属や溶接はないということを学問的に説明したうえで、にも拘わらず、日本の原子炉は実質的にアメリカの機械学会のASMEⅢという規格に基づいており、それは考えられ限りの精密な理論で作られているそうなのですが、毎年更新され厳しくなる基準そのものが大きな矛盾を露呈します。

今では40年前の原子炉などは「安全性という視点から国は決して許可しない」はずですが、その原子炉が今日多数運転されている“現実」があるのです。そしてそのギャップを埋めるには「新しい技術で古い原発の安全性を見直すことこそ、電力会社と国にあずけられた基本的なしごとであるはず」なのですが、あまりにも精緻になったASMEⅢの理論を理解し、実質的に問題点を解決していく体制になっていない(第三者の存在不在、東電側からの資料を公開しない閉ざされた体質)というところで、この配管の破損が行われたと見られます。

今回の事故は「想定外」の大きさの地震と津波が来たというような、自然災害であるかのようなキャンペーンがなされてきたのですが、実際は、日本の原発業界の実態、原発そのもののもつ問題点などきめ細かく事故の原因を探る必要があります。「失敗学」の権威が座長になって、聖域なしに事故原因を調べることになったのですが、どこまで踏み込み調査するのか、私には疑問です。安全性を突き詰めたときに、「原発の建設を不可能にする」とまで田中さんに言わしめた問題点にまで踏み込めるとは思えないからです。

悲観的ですが、日本、韓国、中国、アメリカなど世界の国々は原発(改善)開発、建設を国策として進めるでしょう。今日の日経新聞からそのことを読みとれます。東芝の社長は「原発受注計画数年の遅れ」る見通しと述べていますが一方、アメリカのIAEA大使は「原発は温暖化ガスを排出せず、競争力のある価格で大量の電力を供給できる。オバマ大統領が約束した通り、米国は今後も原子力エネルギーを重視する」と答えています。韓国は、「(全発電量の36%を占める現状を)2030年までに60%に引き上げる計画で、基本政策は揺るがない」、「韓国の新型原発は価格競争力もあり、安全性も高い。近く他の国々からも受注できると信じている」と自信満々です。

アメリカの原発産業へのテコ入れはビルゲイツが個人資産数千億円を東芝に投資したことからも、今後のビジネスになると踏んでいるようですし何よりも核兵器開発と連動しています、韓国は日本の失点をビジネスチャンスとして窺っているようです。世界の主要国の政財界が福島原発事故の後、原発をより安全なものにすることで原発を進めると明言した以上、それに対抗できるかどうか、これは各国の市民・住民たちがどのように振る舞うのかで人類の将来が決まるのでしょう。為政者はまたぞろ、私たちの理解を深めるためと称して徹底的なキャンペーンを張ることでしょう。

一方、ソフトバンクが「大規模太陽光熱発電所 構想」を発表したことが朝日、日経でも伝えています。ビルゲイツの向こうを張って自然エネルギーに立ち向かうということで、これ自体はおおいに結構ですが、田中さんは著書の最後で興味深いことを書かれています。太陽エネルギーを活用するということでもその中に、パッシ―ブ・ソ―ラとアクティブ・ソ―ラがあるというのです。前者は「自然の恩恵を享受する」と言う意味あいで、後者は太陽をエネルギー源としてだけ見ていると解説します。

これは私がブログで指摘した(「原発の技術が根底的に問われるわけ―『徹底検証 21世紀の全技術』を読んで」http://anti-kyosei.blogspot.com/2011/04/blog-post_30.html)、大量生産、大量消費、大量廃棄という資本主義社会のあり方を問うことなく、その価値観、ライフスタイルをそのままにしていいのかという問題です。大量生産、大量消費、大量破棄の時代の寵児の孫正義をそのまま肯定するわけにはいかないようです。

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