2010年12月14日火曜日

自由主義経済学を根底的に批判する本を読んで

『世界経済を破綻させる23の嘘』(徳間書店、原題は「23 things they do not tell you about capitalism」2010, by Ha-Joon Chang)をお薦めします。この30年間、世界を席巻してきた新自由主義政策を支えてきた自由主義経済学の価値観、問題点を徹底的に、しかも脚注をつけることなく優しく説明したいい本です。表紙にはマーティン・ウルフ、チョムスキーやスティグリッドからの賛辞があります。世界的にも注目されている新鋭の学者のようです(参照、http://www.youtube.com/watch?v=whVftuVbus )。

日本語タイトルは何か、やすっぽい感じがしますが、中身は濃く、経済学の学者としての見識と社会をよくする意欲をもつ著者の、人間としての質の高さを感じますし、実際、この本から多くのことを学びました。

最初のページには「本書の七つの読み方」として、読者の問題意識に応じた読み方を記しています(私は、それは不要だと思うのですが)。そして「経済の「常識」を疑ってみよう」という「はじめに」に続いて、23個の「常識」として、例えば、「市場は自由でなければいけない」、「インターネットは世界を根本的に変えた」、「富者をさらに富ませれば他の者たちも潤う」、「教育こそ繁栄の鍵だ」などということに対して、それは真実ではないと、具体的な例証を挙げながら反論します。そして最後に「世界経済はどう再建すればいいのか」として8個の原則を明示します。

今年の5月のブログで「『経済学は人間を幸せにできるのか』の斎藤貴男は大丈夫か?」(http://anti-kyosei.blogspot.com/2010/05/blog-post_20.html)と書きましたが、この著者は、自由主義経済の影響で一般の人が常識として受け入れている価値観を、歴史的に根底的に反論、批判し、政府による政策の重要性とその原則を明らかにするのです。

なるほどと思ったことはいくつもありますが、「貧しい国が発展できないのは起業家精神の欠如のせいだ」のところで、小額の金を妥当な金利で貸す(マイクロクレジット)でノーベル賞を受賞した、バングラデシュのユヌスがどうして「うまくいかない」のかと知り、驚きました。しかし説明を受けるとその通りで、小額のお金で牛を買ったり、携帯電話を貸すビジネスをはじめても、多くの人が同じようにし始めるともう利益を上がられなくなる(合成の誤謬)という現実に直面せざるをえなくなります。結局、「「起業家ヒロイックな個人」という神話をはねつけ、起業家精神を集団的に発揮させられる制度と組織をつくりあげる手助けをしなければ、貧しい国々が貧困から抜け出し、その状態を維持することは決してない」のです。

ここから想像できるように、著者は資本主義経済においては、この30年の自由主義経済が誤っていると断言し、政府による金融規制を強調しながら、社会保障の充実(しかしそのあり方は各国の状況に応じて異なる)、公正な社会実現は、「私たちの目標、価値、信念次第」と具体的なことは読者に投げかけます。経済は専門家でなければわからないのでなく、食品や環境と同じように、普通の市民が「活動的経済市民権」を行使して、「重要な原則」と「基本的事実」を把握すればいいというのです。

「脱工業化」という「常識」にも著者は批判的で、インターネットやサービスを過大評価しているとしながら、ものづくりの重要性を強調します。そこで「研究開発」と「職業訓練」の重要性を彼は何度も取り上げています。

私は川崎のことを思い浮かべました。工業化ということで素材・装置産業を推進して臨海部を作ってきた産業政策を見直し、中小企業がものづくりを続け生きて行けるようにするには、地方政府が中小企業と一緒になって(資金援助をして)、研究開発の機関をつくるしかないと、再確認しました。この点は川崎の中小企業が研究開発を今後継続して自力でやっていけると思っているのか、自分たちも一緒になりながら地方政府の支援を受けて研究開発機関を作ってほしいと思っているのか、確認していきたいと思います。

「伊藤部長との対話を求めてー臨海部と中小企業の将来について」
http://anti-kyosei.blogspot.com/2010/11/blog-post_24.html

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