2010年9月5日日曜日

崔承喜っていう伝説のプリマ、知ってます?

残暑、お見舞い申し上げます。なんと京都は39.9度だったとか!みなさん、くれぐれも体調にはお気をつけください。

直木賞作家、西木正明の『さすらいの舞姫ー北の闇に消えた伝説のバレリーナ・崔承喜』(光文社 2010)という900頁を一気に読みました。平凡パンチの編集であった著者が、川端康成との三島由紀夫の「事件」に関するインタビューで初めて川端が絶賛する戦前の朝鮮人バレリーナのことを聞き、そこから取材をして書き始めたとのことです。

私はしかしその崔承喜のことは、生前の父から聞いたことがあったのです。一度だけでしたが、その名前はずっと記憶していました。「アジアのイサドラ・ダンカン」とされる彼女のことは、父の言葉の所為か、その後の断片的な情報と共に妙に生々しく記憶に残っていました。しかし今、本を読み終え、不思議な気持ちになっています。

終章にあるように、もともと彼女が住んでいたのが、ソウル支庁に近い、参鶏湯(サムゲタン)料理で有名な土俗村は私がよく行く店であったこともあり、また何よりも、その本から「解放後」の朝鮮史、何よりも朝鮮戦争後の北朝鮮の政治状況が手に取るようにわかります。そして日本、中国の私のよく知る文化人・政治家とも深く関わった、歴史に翻弄された芸術家であるということがあまりに切実に迫ってくるのです。私の尊敬する周恩来が「アジアの至宝」と彼女の亡命に力を貸したことも妙に納得です。当分、彼女の夢を見そうです。

日本や中国ばかりか、アメリカやヨーロッパの当時の最も著名な人たちが絶賛してやまなかった崔承喜の、クラシックバレーと朝鮮の舞踊をひとつにしたモダンバレーの水準の高さとその美貌、私は必死にYOUTUBEで検索しましたが、映像はなく、ただ写真とレコードになった肉声を聞くのみでした。西木正明の小説がどれほど事実に基づくのか、彼の歴史観、思想、想いで書かれたものかの判断は慎重にすべきだということは言うまでもありません。

私はその本を読んでまったく関係がないのに、私の同世代の「在日」が民族的アイデンティティを求める中で社会主義国の「北」に限りない「幻想」を抱いたことを考えてしまいました。勿論、韓国政府のでっち上げもありました。しかし実際に、日本の「拉致事件」と同じ時期、「拉致」を実行した「北」のシステムに乗って「北」に行き韓国に渡り逮捕された「在日」は、民族の英雄として朝鮮史に残るということで済ませることができるのか、彼らは崔承喜を英雄視しながら結局は「殺害」した「北」の実態に対して、どうして観念的な理想を抱いたのか、その解明が必要だと痛感します。それは日本の戦後の左翼運動の総括とも関係するような予感がするのです。

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