2009年6月15日月曜日

日本学術会議主催講演の意外な結末

日本学術会議主催講演の意外な結末

6月6日(土)、「グローバル化する世界における多文化主義:日本からの視点」をタイトルとする日本学術会議主催の公開講演会があり、私たちは4名参加し、つぶさに日本学術会議の実態を見ましたので、その報告をいたします。

8月にバンコックで開かれるアジア社会科学協議会連盟(AASSREC)第18回大会に向けて、その「大会への日本からの報告をより充実したものにすることを目的」とすると、開催趣旨に記されています。4名の講師が選ばれ、ある意味でアジアの社会科学研究者に向けて、日本の社会科学の水準を世界にお披露目する内容を公開したことになります。

講演の内容は以下の通りです。
・「“多文化共生”の問題と課題:日本、西欧を視野に」(宮島喬 法政大学教授、日本学術会議連携員)、
・「日本在住外国人にかんする法制度」(近藤敦 名城大学教授)
・「“多文化共生における労働市場・労働力移動」(井口泰 関西学院大学教授)
・「“多文化共生社会における教育のありかた」(佐久間孝正 東京女子大学名誉教授)

いずれも日本国内だけでなく海外で発表されることを意識した、日本の「多文化共生」を賛美するより、その問題点は何かをあきらかにしようとした、短時間でしたが熱のこもった内容のある講演であったと思います。

「多文化共生」がいずれも学問的には英訳がない(即ち、日本独自のもの)ということをしっかりと認識させられました。この指摘は伊藤るりさんが学術会議で講演された内容と重なると思われます。
(http://anti-kyosei.blogspot.com/2009/02/blog-post_09.html)

「多文化共生」が地域の中から生まれた運動と概念ということを最も強調されたのは、井口泰教授でした。地域の中にリアリティがあり、政府が指針を出さないのであれば、(自分がアドバイザーをしている)外国人集住都市会議で先にだしていきたいという意欲まで示されていました。しかし私には、地方自治体の公務員が中心となっているその「外国人集住都市会議」でどれほど、外国人住民の声が反映される形で運営されているのか、わかりません。

4人の講演の中で、私が最も注目したのは近藤敦教授の発言で、在日外国人研究者に門戸を閉ざす、日本学術会議は世界の同類の会議に比して問題があるということを明確にされたことです。

しかし日本学術会議の内容を知るようになったのは、質疑応答と最後の閉会挨拶での「出来事」です。私が「意外な結末」と記したのはそのためです。まず、質疑応答の最後の最後に宮島教授が「重大な問題提起がありました」と前置きして話されたのは、「日本学術会議そのものが在日外国人研究者を排除する国籍条項をもっているというのは、宮島教授の発題の趣旨とはちがっているのではないか」という(私の名前を記した)質問に対して、「違います。国籍条項の問題は学術会議の委員会の中でも発言しています。学術会議としてどのような取り組みをしようとするのかは閉会の挨拶で(今回の公開講演会主催の責任者である、第一部人文・社会科学部長の広渡専修大学教授から)説明されると思います」と話されました。

広渡教授は挨拶の最後でその問題に触れ、「忸怩たる思い」と心情を吐露され、日本の学問研究が日本人だけでなりたっているわけではないという事実の上で、ご自分も学術会議の国籍条項は問題であるという認識を示されました。しかし同時に、今、外国人研究者を会員にするのであれば民営化すべきという声があがっていることを公に話されました。

これは何を意味するのか、収益構造の全くない日本学術会議を民営化するということは、経済基盤として今回の後援をした日本経営工学会、日本システム学会、日本セキュリティ・マネジメント学会など企業と関係の深い学会がその中心になるか、自然科学系の医学や情報学などさらに企業との関係が深い第二部(生命科学)部門、第3部(理学・工学)部門が企業からの支援を得て学術会議を運営するというのでしょうか(まさか!)。

外国人研究者を会員にするということを学術会議(事務局及び政府・官僚)がそれほど嫌がっているのは、学術会議会員は、国家公務員になると法律にあるからです(詳しくは私が事務局とやりとりした10通のメールの分析をご覧ください。http://anti-kyosei.blogspot.com/2009/06/blog-post_09.html)。事務局の誠意ある迅速な反応で示された回答では、外国人研究者は会員になれない理由をあげています。それは、「当然の法理」という内閣の見解があるからです。

民営化の「脅迫」をされているところで事務局が準備しているのが、「友会」という外国人用の特別な会員を作るというものです。これは川崎市が「外国人市民代表者会議」などで創作した「外国人市民」という概念、住民基本台帳を「改正」して今度は「外国人住民」とするという政府の方向性と軌を一にするものです。いずれも外国人を一定の枠にいれてあたかも日本人市民、日本人住民と同じといいながら「二級市民」という枠の中で処理しようとする発想だと思われます。

これで日本学術会議のもつ問題点がはっきりしました。民営化の路線をとって、外国人研究者を会員にして学術会議も民主的になったと内外に示すのか、国籍条項はそのままにして、「当然の法理」を問うことなく折衷案として「友会」という枠に外国人研究者を押し込めるのか、民営化案を粉砕し同時に国籍条項も撤廃するのか、この3案のなかで決められるでしょう。

いずれにして今準備されている(誰がどのような基準でメンバーが決定されるのかはわかりませんが)委員会で審議決定され、それを幹事会が承認したら、総会にかけるというのですから、そこで日本学術会議総体の思想の水準が明らかにされると思います。ここはどういうことがあっても、日本の右傾化を阻止し、内外ともに開かれた社会にするために、210名の会員、1900名の連携会員のみなさんにはがんばってもらいたいものです。

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