2008年4月3日木曜日

悲しいお知らせ、今、確認すべきこと

みなさんへ

「在日」の運動の良心、リーダーとも言うべき李仁夏牧師が入院され
ました。川崎教会を引退された後、名誉牧師として公害の街のど真ん中に
住まわれ、結果としてはそのことが遠因となって肺の病から倒れられ、
今は無意識の中で治療を受けられているとのことです。李先生のご回復を
心から願います。

李先生は、川崎の地で牧師として、また教会が設立した社会福祉法人
青丘社の理事長として、全身全霊をあげて地域の「在日」の問題に
取り組まれました。

李仁夏牧師の『寄留の民』は、「在日」の神学としては不朽の名作であり、
「在日」神学として「在日」の教会は勿論、日本の教会における必読書で
あると確信します。昨今、キリスト教会が社会の中で弱者の立場に立つ
ことの存在意義を問うより、「霊魂の救い」を表に掲げた教会勢力の拡大
に奔走しているとき、特に李仁夏牧師の追い求めてきた信仰理解は注目
され、追体験され、それを乗り越えていく視点が求められる所以です。

4月10日に横浜国大の加藤千香子さんの講義の中で、日立闘争が
取り上げられ、当該の朴鐘碩が日立闘争と日立入社後の自分の生きてきた
過程から見出した意味性について話すことになったということは昨日、
ブログで報告をしました。

この日立闘争は、まさに李先生の支えがあってはじめて可能であったと
言っても過言ではありません。生意気盛りな私や、将来への不安から
「問題児」であった朴鐘碩が日本人青年と一緒になって日立闘争に取り
組むのに、李先生はある時は表に立ち、またある時は、私たちの背後から、
祈り、支えてくださったのです。そこから川崎でのすべての実践が
はじまりました。

日立闘争の後の、指紋押捺闘争、地域での諸活動、川崎市との折衝など、
まさに李先生なくしてはありえなかったものであったと私は思います。
「共生」を掲げ、自分たち少数者の願い、訴えが多くの人に感動を与え、
それが市当局まで巻き込んだ大きな流れになったのだと李先生は確信
されていたのでしょう。

キリスト者である李先生は、その歴史の流れの背後に神の意思を見て
おられたのだと思います。自分もカルヴァンのようにキリスト者として
政治に参加したいと本気で思われ、外国人市民会議の設立に奔走され、
第1、2期の議長を務め、川崎市長の個人的な信頼をも得てきた
のでしょう。

私は李先生の信仰、模索、具体的な諸活動を尊敬します。
今年の6月に上野千鶴子さん、伊藤晃さん、加藤千香子さん
と一緒に、私たち「在日」が当事者としてこの40年生活の中で模索
してきたことを記した本を出版し、そこでは、「多文化共生」の問題点
とともに、「共生」運動の提唱者、実行者である李先生に対する批判の
箇所もあります。しかしそれらの批判は、「共生」の道程があったから
こそ成り立つ論議であり、その必然性、それを可能にせしめた李先生の
最大限の評価が根底にあるということを、ここに明らかにして、皆さんと
確認すべきだと、私は思います。

新自由主義という世の中を李先生が賛成されるはずがありません。
格差社会の激化が愛国心によってカモフラージュされ、個人がないがしろ
にされる社会をなんとかしなければならないと考えておられたであろう
ことは、私は十分に理解します。

しかし、悲しいことに、「多文化共生」はそれらの社会矛盾を隠蔽する
ような働きをするようになってきています。これは李先生の意図したもの
ではないということは明らかです。しかし時代は、その「多文化共生」と
いう言説を自分の陣営に入れそれを骨抜き、形骸化しようとしています。
私たちの出版もその社会の傾向に対する警告です。

李先生は昨年の、「共生」を考える研究集会にも参加され、開会の挨拶を
されました。自分が批判される対象であることをわかったうえで、
それでもなおかつ、問題点は一緒になって考えるという生き方を貫徹された
のです。私は李先生の勇気、生き方に心から感謝するとともに、最大の敬意
を表します。

李先生への批判、「共生」批判は、私たちがこの矛盾ある社会でどの
ように生きればいいのかを模索するのにどうしても経なければならない
過程であり、李先生はそのことの意味を十二分にご理解されていたと
確信します。だから、李先生は、私への最後の電話で、勝久(スング)も
がんばりなさい、と話して下さったのでしょう。

私は、「在日」として民族主義を乗り越えること、開かれた社会を求める
ことを出版のなかであきらかにしました。李先生もそのことを支持されると
思います。そういう意味では、私は李先生の不肖の弟子、「息子」であった
のです。不肖の「弟子」である私は、李先生の本来の意思を引継ぎたいと
心から願います。

李仁夏牧師のご回復を心から祈り、今の社会をどう見ればいいのか、
じっくりとお話を伺い、私たちの今後のことで多くの示唆を受けたい
ものです。




崔 勝久
SK Choi
Skchoi7@aol.com
090-4067-9352

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