2007年10月2日火曜日

「共生」批判 企業と「人権」運動体(1)ー朴鐘碩

「共生」批判 企業と「人権」運動体(1)

生活現場である組織を「共生」批判することは、誰もが生き方を
迫られます。しかし、自分の足元を見つめることは、人権運動の
基本です。また、人間性を求めることは、イエスを語るまでもなく
「孤立」することです。
 
就職差別再発予防のために組織された東京人権啓発企業連絡会
(以下、人企連)は、「東京に本社を置く企業を中心に、同和問題・人権
問題の解決を目ざして活動」し、120社近くの企業が加盟しています。
(http://www.jinken-net.com/jinkiren/jinkiren.html)
'94年日立、'95年日本電気(NEC)、’96年富士銀行、’97年ソニ-、’98年
三越が会長役(任期1年)をしています。

戦前、日帝は「枕木一本に朝鮮人一人」と言われるくらい多くの
朝鮮人を強制連行し、鉄道・土木建設工事現場で過酷・危険な
重労働・低賃金で酷使しました。戦後、朝鮮人を就職差別して
いた旧国鉄は民営化されて、東日本旅客鉄道となり人企連に
加盟しています。

 人企連は、「差別図書である『部落地名総鑑』の購入、採用に
あたっての差別選考等の反省を契機として、それぞれの企業が
差別体質の払拭」を訴えています。
活動内容は、「同和問題、人権問題に対するトップ層の自覚と認識を
深めることを目的」としています。「より質的に高い企業内啓発担当者
を養成し、毎年度、会員企業の新入社員を対象として、日比谷公会堂
で約2,000人を集め、講師には経験豊かな方々を招聘して講演と
啓発映画による合同研修会を開催」しています。

 当会の役員は、世界人権宣言中央実行委員会、部落解放基本法
制定要求国民運動実行委員会、反差別国際運動(IMADR)
日本委員会、部落解放研究所、東日本部落解放研究所等の会長、
副会長、理事に就任し、また賛助会員、法人会員になって、「人権」
運動体とも深く繋がり、「あらゆる差別の撤廃」を謳っています。
こうした人権組織は、行政、企業、運動体、連合傘下の組合と
一体となった「人権啓発」集会にも名を連ねています。

 ’96年12月2日、言論界、経財界の著名人が中心となって、
日本帝国主義がアジアに侵略した歴史的事実を歪曲・隠蔽する
ため、「『新しい歴史教科書をつくる会』(以下「つくる会」)創設に
あたっての声明」が出ました。朝鮮半島を始めアジアに侵略した
天皇制日本の軍隊による韓国人女性への陵辱は、彼女たちの
勇気ある証言によって明らかとなった、にも拘わらず、この声明は、
「『従軍慰安婦』強制連行説を安易な自己悪逆史観」として捉え、
アジア侵略・犯罪の歴史を正当化する、という戦争責任の反省
など全く感じられない許し難い内容です。

続いて12月20日、「歴史教科書に対する声明」が「正しい歴史を
伝える国会議員連盟」から出ています。
「つくる会」賛同者として、経済界から人企連企業なっている
経営者が名を連ねています。
 小冊子によれば、人企連は、「今後の企業内研修においては、
差別を見抜く感性を磨き、差別解消に向けて確実に実践し得る
社員をより多く育成することが課題であります。
 さらに、その成果を自社内のみにとどめず、関連企業、関係先
等に幅広くその輪を広げていくことも肝要です。

また、国際社会において大いに叫ばれている自由、平等、平和は、
日本国憲法に謳われている精神でもあります。世界の経済的
発展の一翼を担っている日本の企業として、その立場をしっかりと
自覚し、人権尊重の精神を自らのものとすると共に、その実現に
向けて努力していくことが今後の新たな課題の一つでもあります。

 人権尊重は人類普遍の原理であり、また世界共通の価値観
でもあります。我々はこの際一人ひとりの基本的人権は、侵される
ことのない永久の権利であることを改めて確認することが大切
。そして、人権尊重が世界の潮流となってきた現在、国際化時代に
対応し得る企業体質の構築に向けて、私たち一人ひとりの
意識改革-『内なる国際化』-の実現に取り組むことが必要です」
と差別解消、人権尊重を訴えています。

 では、何故、人権啓発、差別体質の払拭に取り組む人企連の
経営者が、何を意図して「つくる会」声明の賛同人として名を
連ねたのか?当時、以下の12社が経済界から「つくる会」声明
の賛同人となっています。
  相田 雪雄(野村証券KK常任顧問)
  上野 公夫(中外製薬KK会長)
  淡河 義正(大成建設相談役)
  岡本 和也(東京三菱銀行専務取締役)
  櫻井  修(住友信託銀行取締役相談役)
  鈴木三郎助(味の素KK取締役名誉会長)
  山本 卓眞(富士通KK会長)
  友国 八郎(大阪商船三井船舶株式会社相談役)
  後藤 千秋(株式会社大林組専務取締役)
  坂野 常隆(清水建設株式会社取締役相談役)
  渡辺 晴郎(丸紅株式会社常任顧問)
  広瀬 駒雄(株式会社大京取締役副社長)
(「東京人権啓発企業連絡会を糾弾する!」1997年7月31日
朴鐘碩資料集)

日帝のアジア侵略戦争によって朝鮮人は強制連行され、侵略に
利用した国旗・国歌を教師たちに現在も強制しています。国旗は、
企業のセレモニ-にも必ず登場し、企業社会で日常的に屋上、正面
玄関のポ-ルに掲揚しています。

川崎市は、「運用規程」で外国籍職員を差別し、ガス抜きと
呼ばれる外国人市民代表者会議も発足しました。また新たに
ポールを設置し、国旗を常時掲揚し、改憲を求める阿部市長は
「外国人は準会員」と発言しています。そして「つくる会」が歴史を
歪曲したように、市は人権資料から日立就職差別裁判を抹消しました。
これは経団連が低賃金で外国人労働者を求め、組合員の声を無視
するガス抜き組合との「共生」、「つくる会」への賛同の動きと完全に
合致します。

ジャ-ナリスト・梶村太一郎氏は、アジアへの侵略、「従軍慰安婦」強制
連行の事実を歪曲した「つくる会」を「『つくる会』の許しがたい
『日本優越史観』」と題して、「彼らには人権意識が全く欠落して
いるため、犯罪事実を否定することが被害者に対する第二の迫害で
あることに気付かない。・・あまりに自己中心的な精神的退行と幼児化
を体現している」と酷評しています。

オリンピック、ワ-ルドカップサッカ-などの国際試合で日本人青年たちが
日の丸を広げ、顔に貼って熱狂しながら応援する姿も日常茶飯事
となり、厳しい批判を浴びた映画「プライド・運命の瞬間」のスポンサ-
である中村功東日本ハウス会長、財団法人日本サッカ-協会ヘッドコ-チ
であった岡田武史監督も「つくる会」に名を連ねています。

西川長夫氏が書いているように「政治権力が民族をシンボル
として操作している。権力イデオローグは、目的達成のために
民衆を動員する手段として民族の存亡を揚げて大衆にアピール
する。民族が“下から”形成される反面、“上から”巧みに操作
され」ています。サポ-タ-もアスリ-トも、自分ために応援、競うのでは
なく国家のためにやるように「共生」 (強制)されていきます。

「つくる会」賛同人として名を連ね、その人企連経営者が役員として
君臨する人権団体と企業の関係は、「共生」という癒着です。
人権組織は、役員が「つくる会」に賛同した事実をどのように受け止
めているのでしょうか?「共生」は、人権団体・運動体を包摂し、
強者が弱者を選別し抑圧する思想です。

オフィスで働く人たちは、日常業務に追われて勤める会社、経営者が
何をしているのか?相対的に考えるゆとりすらありません。
会社(組織)が不祥事を起こしても他人事のように傍観できるのは、
幹部によって情報が完全に遮断・隠蔽されるからです。外部から抗議
を受けたり、不祥事が暴露された時に初めて現場労働者は、経営者
の理念・哲学・思想・姿勢に気付きます。しかし、職場で不祥事、企業
犯罪について話し合う、自由で柔軟な雰囲気は全くありません。不祥事、
犯罪の後始末(教育)を押し付けられるのは、なにも知らされない
労働者です。「組合は経営者に根本的解決を会社に求めた」という
声を聞いたことはありません。

経団連に加盟している多くの企業は、朝鮮人を就職差別し青年たちの
夢、人格、命を奪ってきました。戦前、朝鮮人を酷使した企業は戦争責任
を問うこともしません。ちなみに朝鮮半島が日帝の植民地となった1910年
に創立した日立製作所は、2010年に1世紀を迎えます。財界は、
「自由、平等、平和」を謳う日本国憲法改正を諮る政府の動きに便乗して
いるようです。

国旗・国歌を拒否する教師たちが厳しい処分を受けていますが、
企業内組合は会社・侵略戦争で利用した国旗掲揚、国歌斉唱を企業が
実施しても黙認している状況です。組合は、表面的な「平和・人権・共生」
を無言のスロ-ガンにしているだけです。そう言えば野口武利連合静岡会長
も「つくる会」の賛同人になっていました。

私は、人企連の会長役をした日立製作所三田会長、金井社長に
公開質問状、人企連に抗議文、公開質問状を提出しましたが、回答は、
「1.『新しい歴史教科書をつくる会』への賛同者は、個人としての行為で
あり人企連としては会員各社のトップであれ、一般社員であれ、個々人の
思想や行動に関して、それをとりあげてどうこうする立場にないという
ことでコメントは差し控えたい。従って文書による回答は行わないこととする。
2.尚、補足しますが、人企連としてこの様な問い合わせに対していちいち
回答していたら収拾できなくなる恐れがある為、回答できない。」という
人企連の設立趣旨に反する内容でした。就職差別事件を起こし、差別
解消・人権啓発に取り組み、開かれた明るい職場を目指す日立製作所
の経営方針にも反します。

「偽装請負」を厳しく問われた御手洗経団連会長は、「当社としても
人類との共生が企業の理念です。人類との共生というのは人を大事
にしろということでしょう。」(偽装請負・朝日)と語っていました。
格差社会である現在、企業社会の「共生」論理も明らかに強者の
思想であり、弱者を虐げ、労働者を分断し、失業者を生み、切り捨
てます。労働者の抑圧を前提にした「共生・差別解消・人権尊重」の
スローガンで企業イメージを取り繕います。
企業社会は、オカシイことはオカシイと自由にモノを言うこともできません。
労働者の人間性、人格を破壊する要因は、職場にいくらでもあるのに、
経営者はそれを指摘せず隠蔽します。

人間としてのアイデンティティを維持できない、個性を発揮できない
状況です。技術早期開発と利潤追求の裏で差別が再生産され、
働く人間の個を潰している現実と開かれた経営組織を目指す
という矛盾を企業はどのように止揚し、経営に反映するのか?
人企連は、本当に「差別を見抜く感性を磨き、差別解消に向けて
確実に実践し得る社員をより多く育成」しようとしているのか?
利潤に繋がる個性だけでなく、働く人の人間性・個が本当に
生かされるためにはどのような組織にすればいいのか?
など根本的に見直すことが経営者とって最大の課題です。

10原則からなる経団連企業行動憲章の前文で「国の内外を
問わず、人権を尊重する」と宣言し、「従業員の多様性、人格、
個性を尊重するとともに、安全で働きやすい環境を確保し、
ゆとりと豊かさを実現する」原則も書かれています。
最後に「本憲章に反するような事態が発生したときには、
経営トップ自らが問題解決にあたる姿勢を内外に明らかにし、
原因究明、再発防止に努める」とも宣言しています。従って
経営者は率先垂範し、積極的に従業員の人権を擁護しなければ
なりません。そうなると組合員の声を反映しない企業内組合の
必要性と存在意義はなくなり、高額組合費も給与天引きされ
なくてすみそうです。これだけ読むと内外から人権後進国と
非難された日本は、経・財界も利潤追求一辺倒から本当に
「人権尊重の経済システム」に移行しているのだろうか?と懐疑的に
なります。

「一個人が、体制を支配する権力機構(『共生思想』)に平気で異を
唱え得るようにすること、これこそが、袋小路にはまり込んで
おかしくなっている社会、企業、組合、学校、運動体を救う切札に
なり得る」(千葉県教育委員会総合批判の試み・第1章)のです。

朴鐘碩 2007年10月1日

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