2016年3月23日水曜日

どうして私たちはメーカー訴訟をはじめたのかー原発の製造及び輸出は憲法違反を主張

いよいよ、メーカー訴訟の口頭弁論が本日、東京地裁ではじまります。
GE、日立、東芝の被告原発メーカーは必死になってこのメーカー訴訟を終わらせようとしています。東京地裁が、はたして、福井と大津地裁の稼働停止の判断に継ぎ、メーカーの責任を明らかなするような判断をするでしょうか。あるいは、まだまだ私たち原告には法廷で原発メーカーの責任を明らかにしていくことがあるのに、審議を打ち切り、結審を宣告するのでしょうか、予断を許せません。

本日2時半からの口頭弁論において私は、原発メーカー訴訟の会・本人訴訟団の事務局長として、どうして私たちはメーカー訴訟を提起したのかについて陳述します。事前にその陳述の内容を公開します。

私たちの主張は大きく、次の3点です。
1.原発の製造・輸出は憲法違反である
2.東電と被告メーカーとの原発製造のビジメス契約は「公序良俗」に反し、無効である
3.原発メーカーは過酷事故によって精神的損害を被った人たちへの賠償責任がある



 (1)第5準備書面
原発メーカー訴訟の会・本人訴訟団の事務局長、崔勝久です。
昨年私たちは、メーカー訴訟における請求内容を記した、第1準備書面を東京地裁に提出いたしました。


私たちは代理人をたてず、約40名の原告が、「代理人」の役割をする選定当事者を選び、どのような気持ちでメーカーを提訴するようになったのか、原発メーカーが福島事故の責任をとらなくていいというのはおかしい、その思いをまとめて第1準備書面にしました。それに対する反論が被告3社から今年1月27日にだされましたが、私たちの主張の仕方に当惑されたのか、一つ一つの主張に誠実に対応されてはいませんでした。私たちは改めてこちらの主張を整理した第4準備書面を3月9日に提出しました。


(2)第6準備書面

本日は口頭弁論の場で、私たちの主張を要約して説明いたします。スライドに書き表した内容が第5準備書面で、それに新たな資料を加えて法廷内で陳述する内容を文字化したのが第6準備書面ということになります。第6準備書面の最後に裁判長にふたつのお願いを述べさせていただきます。


(3)東京新聞記事
これは高浜原発の運転停止を命じた大津地裁の仮処分決定を伝える記事です。再稼働の流れに抗する画期的な判決ですが、その中で、このように注目すべき内容が記されています。

「過酷事故対策」の項です。「福島事故の経過からすれば、不十分であったことは明らか」であり、東電と旧通産省原子力・安全保委は「対策が実際に必要であるとの認識をもつことができなかった」と記しています。しかしその事故を起こした原発を設計・製造したのはほかならぬ、被告原発メーカーです。

(4)9割が脱原発
従って、圧倒的に多くの人は、もう原発は要らないと思い、原発の製造と輸出は憲法違反であることを司法の場で明らかにしてほしいと願っているのです。2012年の夏、野田政権が実施したパブコメでは、約8万9千件のうち87%が「0%」を選びました。そして2014年4月に安倍内閣が閣議決定した、エネルギー基本計画をつくる際のパブコメでは、脱原発を求める意見は9割を超えていたと、朝日新聞の小森敦司記者は最近の著書で公にしています。



(5)憲法の前文
憲法の前文は、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利」を高らかに謳っています。従って、今日的には、過酷事故によって人々の人権を剥奪し、潜在的核兵器への活用によって、「安全保障に資する」と原子力基本法で位置付けられた原発を製造し運転すること、輸出することは憲法違反であり、その原発を推進することを前提にする原賠法は、明らかに違憲立法であるというべきです。


(6)原発訴訟の根源的な問題提起をした準備書面を東京地裁に提出
私たち本人訴訟団の思いを三つの主張にしました。

1)確認すべき第一は、原発の製造・輸出は憲法違反であり、原賠法は違憲立法、ということです。
原発の製造は、当初の目的が「人類の福祉と平和」であっても、世界的には過酷事故をこの30年で3回も起こしました。特にこの日本において3・11福島事故を経験、目撃した人たちの多くは、原発が地域を破壊し、個人の生存権を脅かしたということは骨身にしみてわかっています。

2)次は、原発ビジネス契約の違法・無効です。
原発はいつでも過酷事故を起こす危険性を内包しており、そのような原発の設計・製造を明記したビジネス契約は、今日においては反社会的であり、民法90条の「公序良俗」に違反し無効な法律行為であるということです。
言うまでもなく、そのビジネス契約とは、東電と各被告メーカーとの間で締結されたものです。被告代理人から数日前に準備書面を受け撮りましたが、この点に関する反論は一切、なされていません。完全に無視されています。


3)その3、被告メーカーは、本件過酷事故に起因して発生した精神的損害に対する賠償責任があるということです。原発の設計・製造、メンテナンスに関わった被告メーカーは、この過酷事故の責任から免れることはできません。



(7)「精神的損害」とは
「精神的損害」は、被告代理人が言うように、「単なる不安感」、「漠然とした恐怖感」として軽く扱われていいものなのでしょうか。私たちがいう「不安」と「恐怖」は、「恐怖からの自由」として実現されるべき人類の課題であり、最も重要な基本的人権に関わる問題であり、「精神的損害」は過酷事故発生による具体的な出来事に基づいたものなのです。



(8)「精神的損害」に関する東京地裁の判決
「精神的損害」に関しては、平成9年4月23日の東京地裁でこのような判決がありました。「恐怖感とか不安感なるものは、・・・それが単なる主観的危惧や懸念にとどまらず、近い将来、現実に生命、身体及び健康が害される蓋然性が高く、その危険が客観的に予測されることにより健康などに対する不安に脅かされるという場合には、その不安の気持ちは、もはや社会通念上甘受すべき限度を超えるものというべきであり、人の内心の静穏な感情を害されない利益を侵害されたものとして、損害賠償の対象となるのが相当である」と述べています。



(9)10の「精神的損害」の要因例
私たちはスライドに示したように、過酷事故によって発生した「精神的損害」の具体的な要因例を10項目上げました。この中には触れていませんが、甲状腺癌になった子供やその親たち、昨年末までに80人以上自殺した人とその近親者、子供を抱えて単身自主避難している母親たち、いまだ避難所に暮らす孤独な老人たち、海で漁のできない漁師、お米を作っても売れない農家の人たちなどの精神的苦痛のことも当然、考慮すべきでありましょう。

「いわれなき精神的苦痛の受忍し難い喪失感」、安全神話崩壊、継続する汚染水、低線量被曝、使用済み核燃料の問題、原発が潜在的核兵器として利用される問題、原発輸出によって海外の人々への加害者になることなどなど、原発事故及び原発の存在そのものによる「不安」と「恐怖」によって精神的損害が発生する例は、数限りなく、地域を問わず、全世界で見られます。



(10)被告原発メーカーの原賠法による免責はありえない
原賠法による、原発メーカーの免責は許されるべきではありません。以下、四つの理由を上げます。
原賠法そのものが違憲立法であること。

原賠法の「責任集中」制度は実質的に崩壊していること。
原賠法は原子力事業者の「責任集中」と「無限責任」を謳っていますが、「支援機構法」によって政府から東電に支援されたお金は、「相互扶助」という名目で各電力会社が国に返済をしています。このお金は当然のこととして電気料金の中から支払われています。

原賠法に「精神的損害」の記載なし
原賠法の「原子力損害」は、放射能の実害について書かれており、「精神的損害」の記載はなく、「精神的損害」は、原賠法の「原子力損害」には該当しないのです。

「相当因果関係論」の絶対化の誤り(その1)
被告代理人はそろって「相当因果関係がある損害は、精神的損害を含め、すべて『原子力損害に』該当する」と主張し、原賠法のメーカーの免責条項によって、精神的損害に対しても、メーカーは一切、免責されるというのです。



(11)「相当因果関係論」の絶対化の誤り(2
①「精神的損害」は事実に即した判断を
現在福島においては、「精神的損害」への賠償の対象が、「相当因果関係」によって一定の地域に限定されています。しかし実際に「精神的損害」を被ったと訴えている人々に対して、恣意的に決定された放射線量の基準を適応するのでなく、人々が原発事故によってどのような精神的損害を被ったのかということは事実に即して具体的に判断されるべきです。

②民法709条(メーカーの過失)と製造物責任法の適応

そうすると、福島以外の地域や国外にまで損害賠償の領域が広がります。東電はもちろん、被告原発メーカーの責任は免れえません。そのときに適応される法律は、原賠法ではなく、民法709条(メーカーの過失)と製造物責任法であることは言うまでもありません。


(12)分離裁判のお願い
第一は、分離裁判の決定です。原告弁護団と私たち本人訴訟団は、被告メーカーの責任を問い、精神的損害に対する賠償を求めるということでは目的を同じくし、同じ原告として「相補い合う」主張をしています。

しかし、原告弁護団は、原賠法が原発メーカーの免責を謳うことで違憲とするものの、適用違憲として、その原賠法を根拠にした精神的損害の賠償請求を主張します。即ち、本件事故に対する原発メーカーの責任を問うが、原発製造・輸出そのものは許されるべきではない、違憲であるという主張していないのです。


原発は過酷事故がなくとも、存在そのものが人々の健康を害し、自然を汚染し、潜在的核兵器へと利用されます。ですから、私たちは原発そのものの製造及び輸出は違憲であると主張したのです。原告弁護団と私たち本人訴訟団とは精神的損害賠償の根拠が異なり、根本的な主張の違いがある以上、裁判長に両者の分離の決定をお願いします。


(13)被告メーカーらに釈明権の行使を
最後は、被告メーカーに対して、裁判所が釈明権の行使をしていただきたいということです。私たちが裁判長に提出した求釈明書では、3社に様々な疑問への回答を求めていますが、被告メーカーはこぞって回答を拒否しました。

被告メーカーには原告の疑問に対して答える企業としての道義的、社会的責任があるのではないでしょうか。被告GE社は答弁書にあったように、原発ビジネスとは直接的にも間接的にもまったく無関係なのでしょうか。日立、東芝は過酷事故の起こる可能性を本当に認識していたのでしょうか。そうだとすれば東電とはどのような契約を締結していたのでしょうか。


私たちの被告メーカーに対する疑問はたくさんあります。特に「契約」に関することは、「公序良俗」違反と、本件事故による賠償責任に関わることです。公正な判断のために裁判所からあらためて、被告3社に対して誠実に回答をするように釈明権の行使をお願いいたします。

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