黒崎輝『核兵器と日米関係ーアメリカの核不拡散外交と日本の選択1960-1976』(有志舎)という本を読みながら、表に出た声明文や政治家の言葉の背後に隠された「事実」を解き明かすこの本にまるでサスペンスのような興奮を覚え、隠された歴史の解き明かしの面白さを堪能しました。
この本は、日米の安全保障条約を前提にして本当に日本が核の攻撃を受けた時にアメリカは相手国に核攻撃をすることを日本に保障し、そのことで相手国に核兵器による日本への攻撃を思いとどまらせる抑止力になるのか(=核の傘)、それとも日本は独自に核開発をするのがいいのか、また日本の非核三原則+アメリカの「核の傘」に入る宣言を合わせた四原則はどのようにしてでてきたのか、この背後の歴史をアメリカで公開された資料を基に丹念に分析した学術書です。
著者の黒崎さんは、核をめぐる具体的な日米の政治家の考え方、国家の中の様々な動き(世論や政党)、日米を巡る特に中ソの動き、それらの要素が絡む中、表に出てくる公式声明文や条約批准に至るまで(また声明文がだされてもその裏にある密約の存在)の過程を分析しながら、日本が安保と4原則によって何故、自ら核開発することを断念し核不拡散条約(NPT)を批准するに至ったのかという歴史を明かしてくれます。
安保反対闘争の中心にいた社会党はもはやなく、今、安保条約の破棄とNPTからの脱却を主張する動きはまったくといっていいほどなくなりました。そして復活した自民党は憲法を「改悪」し、自衛隊を国防軍に改編しようとしています。それらの動きは3・11以降、原発ゼロを確約した民主党に代わり自公が政権を奪取してから加速度的に進められています。石原・橋下を中心とした維新の会やみんなの党は自民党と近づき、それらの保守連合体は衆議院だけでなく、7月の参議院選挙でも多数を占めるでしょう。
そのとき大陸間弾道ミサイル試験と核実験を成功させた北朝鮮に対して日本は今後どのような対応をしていくのか、そのことを予想するのに、60-70年代の核不拡散条約批准をめぐる日米、中ソの外交の歴史を紐解いた本書は多くのヒントを与えてくれるような気がします。
この本は最後の章で北朝鮮のことを取り上げ、その動向が60-70年代の中国に似ている点、似ていない点を取り上げています。しかし現在のことには触れるのですが、2006年
発行のこの本は当然のことながら、2011年の福島事故のことには触れていません。予想だにされていません。
北朝鮮との拉致問題を解決し、核実験を止めさせるのは簡単です
http://www.oklos-che.com/2013/02/blog-post_22.html
従って著者が3・11を経験してこれまでの考え方を大きく変え、核兵器の製造を禁止する代わりに核の平和利用として核保有国が非核保有国を支援していくスキームが、結局核の平和利用の象徴である原子力発電によるプルトニウムの増加で潜在的核保有国になるという矛盾を抱え、NPOに拘束される国家レベルでは非核を求めることは困難という認識に至り、反原発の市民の国境を越えたネットワークによる国際連帯運動に対して大きな期待をかけるというようになっていくのです
2013年2月13日水曜日
市民の脱原発のネットワークをー「脱原発で市民連帯、核軍縮へ」
http://www.oklos-che.com/2013/02/blog-post_13.html
同じ社会主義国家同士の絆を誇った中ソ間での争いが決定的になる中、核不拡散条約を広めようとする米ソに中国は反発し、大陸間弾道や核実験を成功させ、戦争を辞さないと米ソに刃を向けました。これは中米の接近に対して、アメリカに刃を向け大陸間弾道ミサイルと核実験を繰り返す北朝鮮と同じです。敢えて中国と北の違いを探せば、先制攻撃を巡る意見の違いです。
興味深いのは、日米で協力して核実験を繰り返す中国に対抗していたのですが、結果、アメリカは台湾と日本に一切秘密にして中国との接近を図りキッシンジャーやニクソンが中国を訪問し、あれだけ日米の安保条約を非難していた中国に対して、安保条約があるから日本の核開発を止めることができるという認識で両国は一致するのです。それを受け、日本は田中角栄が訪中し日中の国交回復を果たします。そして四原則を公のものとし宣言します。
従って尖閣の問題があっても、中国からの核兵器での攻撃についてはさすがの右翼も口にしません。そういうことはないということを前提にしているのです。それはひとえに日中の国交回復がありそれを元に時間をかけ経済や文化、一般の人々の交流を進めてきたおかげです。
ということから推測すると、まずはアメリカがいかに表面的には北に対して強硬な姿勢を示していても、元NBAのバスケットボール選手が訪中して金正恵と歓談していることからして、裏で米朝の接触があり、アメリカは自分たちの利益のために米中の時と同じように、北との関係を劇的に進める可能性があります。
北朝鮮が不可侵条約も破棄し、休戦協定も無視する構え見せはじめ、一発即発の状況に見えます。今の時代、あの朝鮮戦争が繰り返されるのでしょうか。アメリカ軍は北の核施設だけを破壊するのでしょうか、そうではなく、もし北が実際の攻撃を仕掛けてきたら、それこそ待ってましたとばかり、一斉に北を破壊するでしょう。
しかし逆に朝鮮戦争の休戦条約の当事者は共和国と国連(実質的にはアメリカ)ですから、アメリカは国益に叶うという判断があれば、それを平和条約に替える方向で話をする可能性があります。そうなると日本は未だ世界で国交回復をしていない唯一の国、共和国との国交回復を実現せざるをえなくなるでしょう。中国のときのように一挙に国交回復をすればいいのです。そして拉致問題を話し合えばいいのです。
核を北が手放すことはないと思われます。彼らを核保有国として認め、世界の核保有国として他の保有国と軍縮問題を協議すればいいのです。米ソが結局、中国の核開発を止めさせ破棄させることができなかったことからしても、圧力で北が降伏することはあり得ない以上、北は核をもったまま交渉をすることにアメリカも中国も認めざるを得ないでしょう。どこかで妥協点を見い出すしかありえず、論理必然的にこのようなスキームにむかうものと私はこの黒崎さんの本を読んで強く感じるようになりました。
中国は朝鮮戦争の当事者としてアメリカ軍が直接中国と国境で接することを望まず(これは北の滅亡を意味します)、緩衝国として北の存在をサポートするでしょうし、両国の間には日米安保のような中朝安全保障条約がまた存在しているのです。日米と中朝はそれぞれの安保を持ちながら、パワーバランスをとり、お互いの存在を認め合う方向に行くと私は確信します。それ以外の解決の可能性はないでしょう。
問題は日本です。安倍政権は共和国に拉致問題解決を条件にせず、共和国への植民地支配の謝罪をし(謝罪をする側がその前提に条件をだすことは常識的にはありえません)、その上で徹底的に拉致問題の交渉をするようなことができるでしょうか。しかし日本一国がいくらがんばっても、アメリカが自国の国益判断を優先した場合、日本は中国の時の同じようにそれに従わざるをえないでしょう。アメリカに逆らうことはあり得ないでしょう。
それではアメリカが国益上、北との接触を願わない場合、或いは願っても日本側が頑強に北との国交回復を拒んだ場合、どのようになるでしょうか。まずアメリカは国益に叶うという判断を合理的にしない場合は想定できず、私は必ず両国は接近すると思います。
問題は日本です。安倍は逆に中国を味方にして北を孤立させることができるでしょうか。それは尖閣諸島の問題がある以上ありえないでしょう。私は安倍は北と中国を敢えて敵対視し、それをてこにして日本のレジューム・チェンジを具体化する可能性が高いと思います。すなわちナショナリズムの高揚を利用して日本を右傾化させるということです。
しかしその場合、サンフランシスコ条約の否定はしない、アメリカに忠誠を誓うので国内外の発言の温度差は国内問題として理解してほしいということくらい、今度の訪米でオバマと密約をした可能性があるでしょう。いずれにしてもいろんな国内外の矛盾を第二次世界大戦以降解決してきた歴史を知れば、武力でもって北を攻める選択肢は限りなくないと思います。なぜならば、北は既に核の保有国だからです。核の力で世界を支配してきたアメリカはその戦略がもっとも重要なものでああることを誰よりもよく知っているからです。
いずれにしても朝鮮半島をめぐる環境が変わるなか、私は沖縄問題もこれまでとは違う局面になると思います。
一冊の本を読んで随分といろんなことを考えさせられました。
定価4800円の本をどうしても読みたくてアマゾンの中古で15000円で買ったのですが、できれば文庫本で安く多くの人に読んでもらえるようにしてほしいですね。その価値は十分にあります。
最も危険なシナリオである「日本の孤立」が進んでいるように見えます。それを「孤高」として賛美したのが戦前の日本でした。
返信削除「日本だけは特別、日本は神国」とした戦前に戻らないために。そのような策動が感じられるがゆえに国際的な連帯は必須。
返信削除アメリカや中国に、核の引き金をひかせないためにも、強固な反戦運動が必要だと思います。つまり、戦争などやろうものなら、国内的には大変なことになる。日本も同じだと思います。これ抜きに、戦争への道を防ぐことはできないと思います。
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