植民地支配の清算の問題

戦前の日本の植民地支配の時代の「徴用工」と「在外被爆者」の問題は日韓条約で解決したのか。日本政府は解決済みと言ってはばからないが、慰安婦問題と合わせ、日本の市民運動とマスコミにおいても未解決済み問題として大きく取り上げているとはいえない。またその兆しも見えない。わたしはこのことは、戦後日本において、植民地支配の清算は徹底してなされてこなかったことを示していると考えている。


韓国大法院での「日本製鉄徴用工事件再上告審判決」（２０１８年１０月３０日判決）によって、新日鉄に対する元徴用工の損害賠償の請求を容認した判決を不服とした新日鉄住金株式会社の上告は棄却された。この判決により、元徴用工の一人当たり１億ウオン（約１千万円）を支払うように命じた判決が確定した。

判決は、「元徴用工の損害賠償請求権は、日本政府の朝鮮半島に対する不法な植民地支配及び侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権であるとした（「元徴用工の韓国大法院判決に対する弁護士有志声明[2019年11月5日])。

韓国最高裁の判決は、徴用工は「日本政府の韓半島に対する不法な植民支配と侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為により動員され、人間としての尊厳と価値を尊重されないままあらゆる労働を強要された被害者ある原告らは、精神的損害賠償を受けられずに依然として苦痛を受けている。」
「大韓民国政府と日本政府が強制動員被害者らの精神的苦痛を過度に軽視し、その実情を調査・確認しようとすら努力しないまま請求権協定を締結した可能性もある。」
「請求権協定で強制動員慰謝料請求権について明確に定めていない責任は協定を締結した当事者らが負担すべきであり、これを被害者に転嫁してはならない。」とある。

安倍政権はこれを不服として韓国政府に「対応」を依頼したが、韓国政府は三権分離を掲げ対応をせず、これを「不服」として日本政府は、韓国への貿易規制で対抗し韓国を輸出手続きで優遇対象とする「ホワイト国」から除外した。それに対して韓国もまた日本をホワイト国から日本を除外し、GSOMIA（軍事情報包括保護協定）を破棄し現在に至っている。日韓政府間は戦後最悪の状態になったとされる所以である。しかしはたしてそうであろうか。

私はこのような事態になったのは、１９６５年の日韓条約においても日本の植民地支配のことには両国共触れず経済援助という、日本が他のアジア諸国に対してとったのと同じ枠組みで日韓条約、日韓協定を締結したところに問題があるのではないかと考えている。戦前の植民地支配の問題（加害ー被害の問題）は棚上げされ、経済や安全保障の問題による日韓米同盟国であることが強調されてきた。しかし植民地支配の問題は加害者からの謝罪と賠償が論議されなければならない。韓国は不問に付したが、（北）朝鮮と日本との国交樹立、平和条約締結にあたって（北）朝鮮がこの問題を抜きにして経済問題だけを論議することはありえない、と思われる。

韓国は日本にとって「敵」なのか、そもそも（北）朝鮮は日本にとって「敵」なのかということから問われなければならない。（北）朝鮮を「敵」とするのは、戦後の共産主義国家対自由な新本主義国家の対立とされた「冷戦構造」から由来するもので、それは世界覇権を求めるアメリカの政策とアメリカの尻尾になりさがった日本の在り方に問題があったのではないか。

しかし現在、アメリカのトランプ大統領は朝鮮の金正恩総書記と３度会い、これまでの米朝関係のままではない。一挙に好転するとは限らないが、むしろ今までの敵対関係のままでないことは間違いないだろう。南北朝鮮は文大統領が公表したように経済的、社会的、政治的にこれまで以上に近い関係になっていき、朝鮮半島での戦争はもはや起こさないという両国の同意、平和条約の締結に進むと思われる。トランプ大統領は韓国での米軍駐在に懐疑的な発言をしている。

そもそも安倍をはじめとして日本政府は韓国との国交樹立に際して、日韓併合による植民地支配は国際法に基づいた正当なものであると理解し、韓国は日韓条約による「援助金」での経済の復興を図ろうとして日本の植民地支配を不問に付した経緯がある。しかし南北朝鮮の接近、日朝の国交樹立に際しては、必ず、日本の植民地支配の清算の問題、謝罪と賠償が求められるのは必至であり、それを避けることはできない。最大の問題は、朝鮮を「敵」としてきた日本国政府の政策ではなく、それを良しとしてきた日本国民の民度ではないのか。日本国民自らが植民地支配の清算を本気で求めるのか、ここにかかっていると思われる。