2014年5月6日火曜日

放射能汚染の時代」を生きる意味を求めてー青柳純一

青柳さんは、「被ばく者差別をこえて生きる 韓国原爆被害者2世金亨律(キムヒョンニュル)とともに」(三一書房)の編訳・著者です。

この本は広島・長崎で被爆した朝鮮人7万人の2・3世がどのように被曝の遺伝に苦しみ、また韓国社会の中での差別に苦しんできたのか、そのためには何をすべきなのかを記して亡くなった青年の遺書です。

日本、韓国とも被曝が遺伝することを認めていません。韓国では被爆者2・3世の救済を求める法制化の運動がはじまりました。原爆被爆者の問題と、原発事故による被害者の問題は放射能汚染という点では同じです。日韓、世界中の被曝者の立場からの国際連帯運動が、今、求められています。

韓国で日本語を教えておられたご経験もあり、韓国の事情に通じておられ、多くの友人をお持ちの青柳さんは、4月23日、いのちと平和を考える関西市民会議」主催の講演会で、「放射能汚染の時代」を生きる意味を求めて、という内容のお話をされました。「ノー・ニュークス権」という原子力の恐怖から逃れて生きる権利、という原発メーカー訴訟での主張に強く共感されてお話をされました。ご本人の承諾を得て公表いたします。崔勝久



放射能汚染の時代」を生きる意味を求めて
――私にとっての原発メーカー訴訟と韓国原爆被害者2世・金亨律――
                       2014.4.23. 青柳純一

はじめに

仙台から来ました青柳純一です。よろしくお願いします。
最近、仙台から東京までの東北新幹線に乗るたびに感じることですが、
「福が満開、福の島」を合言葉にして、福島県とJRがタイアップした
福島県観光復興キャンペーンが華々しく展開されています。例えば、
ラッピング・トレインを走らせて駅舎を飾りたて、うわべを取り繕っています。

一方で、福島原発事故から3年、汚染水に限らず、メルトダウンなどの実態は
未だに明らかではなく、再来する地震などで、いつ何が起きてもおかしくない状況が続いています。例えば、新聞などで発表される仙台市の放射線量は、
震災後1カ月からずっと0.05ですが、私の自宅内でも場所によっては、0.10
から0.20程度を記録することがあります。たとえ少量でも、事故現場から空へ、海へと放出されている放射能がどの程度なのか、正確には一切わかりません。

震災以来、フクシマに関する政府発表をそのまま信じる人は多くありませんが、だからといって、政府への批判が強まっているとは言えません。
それというのも、放射能への不安をそのまま発信すれば、周囲の人から白眼視されるような状況が広がっているからだ、と福島からの避難者は言います。

さて、去る13日に行われた「原発メーカー訴訟の会 in 仙台」の報告を兼ね、
この「集まりin 仙台」で個人的に学んだことを、まずお話させていただきます。と言いますのも、私自身が主催者でありながら、自らが「原発メーカー訴訟」がもつ意味を理解していなかったからです。

この「集まりin 仙台」を通じて、特に以下の3点を自覚させられました。
  「傍聴席から原告席へ」という「当事者」意識の自覚。
  自分の基本姿勢、生活スタイルの点検が不可欠だ、という自覚。
  自分の初心、原点に照らし、生き方の転換が迫られている、という自覚。

日立就職差別裁判を闘った朴鐘碩さんと「原発メーカー訴訟」の原告団長である島昭宏さんのお話から、二人が全く違うタイプながら、ともに自分の初心、原点を「持続させる志」の体現者であり、私自身は自らの「変革・転換」を
意識させられました。その延長上で、今日の集まりに向けた原稿を準備する
過程で、正直言って、後悔の念もわきました。

「原発メーカー訴訟の会」のHPで、この集りの案内を見た時、「戦慄」さえ
覚えました。この何日間か、こうした脈絡から「逃げたい気持」と、
「今度こそ、逃げられない気持」を抱えながら、この場に至りました。

ただ、こうした場を用意してもらえたのは、後で紹介する故金亨律さんの
おかげだと、今さらながらに痛感しています。先日、彼の「遺稿集」を刊行
した責任上も、「もはや逃げられない立場」にいるようです。

また、昨年6月の韓国原発ツアーで知りあった人々が、「原発メーカー訴訟の会」を結成する過程を通じて、朴さんや島さん、そして崔さんや川瀬さんのような「仲間」が集まり始めている以上、私自身も「もう逃げられない」という
覚悟を決め、この場に臨むことにしました(何と言っても、決定的には…)。

今回はまだ不充分なため、本当に恐縮ですが、私の中で原発メーカー訴訟と
韓国原爆被害者2世・金亨律がどのように結びついているのかをテーマとし、お話させていただきます。このテーマを深めていくことが、今後の私の課題
ですので、忌憚のないご質問やご批判のほど、よろしくお願いいたします。

1.「原発メーカー訴訟の会」の資料(HPを参照) 
http://maker-sosho.main.jp/
1)と2)は要点を抜粋し、図解部分の説明を加える。
1)「原発メーカー訴訟の会」結成までの経緯
①核廃絶のために、世界市民との連携が必要:前提となる共通認識5点を確認。
 1.核は人類・生物と共存できないものであり、それを生みだした現世代の人間が、その責任において廃絶しなければならない。
 2.原発事故時も含めて放射性廃棄物の処理は全地球的かつ半永久的な課題である。
 3.原発と核兵器の技術と原材料は同一であり、核廃絶とは核兵器と原発の廃絶を意味する。
 4.核兵器保有国が主導するNPT体制下で、国家間での合意による核廃絶を期待することはできない。
 5.核廃絶を達成するためには、世界の市民が連携して各国の市民レベルで自国の政府に迫るしか道はない。
NNAAの結成(201211月):原発メーカーはPL法によって負うべき補償負担を免れ、市民からの非難、告発から逃れて、「原発の海外輸出」に必死だが、それは「フクシマの輸出」につながりかねない。
③韓国原発ツアー(2013年6月)⇒「原発メーカー訴訟の会」の結成(同8月)

2)訴状の要約――図解入りの説明
  責任集中制度
「原子力事業の健全な発達」という目的達成のための「見事な」仕組み
極めて不合理な状況を生み出している原因が責任集中制度にある以上、
これに挑むべく原発メーカー訴訟を提起することは社会的要請である。
  原発メーカー訴訟の法理論:争点は原発メーカーの責任の有無である。
責任集中制度によって侵害される人権はまず財産権、ついで平等原則違反
 実質的審理がなされないならば、「裁判を受ける権利」を侵害する。
 「原子力の恐怖から逃れて生きる権利」=ノー・ニュークス権を確立する。

3)訴訟の概要、原賠法について、原発輸出の問題点、世界の原発建設の一覧、
「トルコからの手紙」など、HPを参照の上、ダウンロードして下さい。

4)原発メーカー損害賠償請求事件の「訴状」もダウンロードできる。
  仙台でも、何人かの希望者に実費で配布した。

2.原発メーカー訴訟の意義
1)「傍聴席から原告席へ」の移動:「当事者」意識の自覚
2)憲法13条の幸福追求権および同25条の「健康で文化的な最低限度の生活を保障される権利」から導かれる新しい人権「原子力の恐怖から逃れて生きる権利=ノー・ニュークス権」(ノー・ニュークス権宣言)を確立すること。

3)端的に言って、東日本地域の住民はフクシマの被災者、被害者である。
 仙台の場合、福島原発から90km、女川原発から60kmにある。
 放射能汚染は、簡単に県境を越え、国境を超えるため、極めて単純に
地球的規模の被害をもたらしてきたフクシマの現状からみて、また
現在の日本政府の性格からみて、日本国民は加害者の立場にあるという自覚。

4)日・韓・台の市民を中心に、「地球市民としての連帯」をめざすこと
 特に日韓両国は、①原発が極めて集中しており、②原発輸出をめざしている。

3.韓国原爆被害者2世金亨律の「反核・人権運動」
 年譜を参照にして、彼との出会いと「闘い」の軌跡をたどる――ビデオ上映
                                                           (10)
 1970年7月 金亨律、釜山で生まれる。
 1995年   血液の精密検査により、原爆後遺症と判明。
 2001年1月 旧釜山地裁での対三菱裁判の時に知りあう。
 2002年3月 韓国最初の原爆被害者2世として名のり出る「人権宣言」。
    12月 釜山で「支援する会」が結成される。
 2003年8月 支援者とともに国家人権委員会に陳情書を提出する。
 2004年9月 「韓国原爆2世患友会」の最初の会合。
 2005年2月 人権委で「韓国原爆2世の健康実態調査」を発表。
    4月 「原爆被害者特別法」を韓国国会に請願。
    5月 韓国国会での公聴会後、日本での国際集会に参加して帰国、
その5日後に亡くなる。
    8月 「原爆被害者特別法」の上程、現国会でも法案審議の予定。

1段階:「人権宣言」後、支援者と「患友会」という仲間づくりをめざす。
第2段階:国家人権委員会への陳情を通じ、支援者のネットワークを拡大する。
第3段階:社会福祉相に「要望書」を提出、「健康実態調査」の実施と結果公表。
第4段階:「原爆被害者特別法」の国会請願(市民―議員立法)。

韓国憲法ならびに「経済・社会・文化的権利に関する国際規約」で保障された「生存権」に基づき、「先支援、後究明」を掲げて国家人権委員会、社会福祉相、人道主義実践医師協議会を動かし、そして韓国国会に「原爆被害者特別法」の制定を訴えた金亨律。

この「原爆被害者特別法」、ひいては彼の3年間余りの「反核・人権運動」は、次のような意義をもつ。
1)     原爆被害者2世の立場に立ち、原爆・原発の恐怖を広く社会に知らせた。
2)     原爆・放射能被害の次世代への影響を正面から提示し、解決法を模索した。
その解決法とは、政府と市民社会団体、そして原爆被害者当事者で構成される、「原爆による遺伝」問題を合理的に究明できる、真相究明に向けたロードマップと透明な社会的合意システムであった。
3)「市民―議員立法」という新しい民主化運動の萌芽にむけて実践を試みた。
 日本の場合、阪神大震災後に、小田実らが推進した「災害被災者支援法案」 がこれに近い形をめざしたが、後に骨抜きにされて今日に至っている。

4.日韓の歴史問題としてみた韓国原爆被害者2世
 広島・長崎での被爆者70余万人のうち朝鮮・韓国人は7万人(10%)以上
1)広島・長崎の軍需工場への強制徴用
2)植民地農業政策により生活は困窮し、特に陜川から広島への移住者が多い。

 日本政府は「日韓条約によりすべて解決済み」という方針で、支援しない。
 韓国政府は「自国民の保護」をせず、「人権の死角地帯」に放置し続ける。

金亨律自身は、最初から一貫して日本政府の歴史的責任を告発しているが、
第2段階以後は主として、「自国民の生存権」を黙殺、放置し続ける韓国政府への批判を強め、「被ばく者の生存権」に依拠して「先支援、後究明」を要求した。

来る2015年の日韓条約50周年、被爆・敗戦70周年(遅くとも2020年東京オリンピックの開催までに)を機に、日本軍「慰安婦」ハルモニとともに、
韓国原爆被害者への賠償責任を認めて「先ず支援」し、東アジアの「平和共存」に向けて歩みだす責務がある。
同時に、日本の市民社会の一員として、できれば在日も含めた志ある人々が、韓国原爆被害者2世患友への「先支援」を実践する必要があるのではないか。

5.「憲法改定後の日本」を先取りする社会状況
1)フクシマ後の福島:家庭内、地域内で進行する「沈黙を強いる社会」

2)フクシマ後の仙台:建設ミニバブルと遊興業の繁栄
 2015年仙台市での国連防災会議では、原発事故は対象外ないし非主要テーマ
 他方、ネットでドイツなどからの情報を見れば、海と空の放射能汚染は深刻。
 正直言って、いつまで仙台で暮らすことができるのか。

 どういう事態、あるいはどういう「病気」が進行しているのか、まるでわからないし、知らせてくれるはずもない。「特定秘密保護法」などの制定により、
震災以前よりも深刻な「情報統制」が進行している。

加えて、「地産地消」の食物による「内部被ばくの恐怖」がある。
西日本の野菜をとりよせることは低所得者には難しく、放射能汚染への対応も所得格差に左右される。放射能汚染の影響は身体に悪いばかりだが、「学校給食」の問題も含めて声高に安全性を主張できない社会的雰囲気がある。

6.今後の課題
1)原発メーカー訴訟および「ノー・ニュークス権」宣言の100万人署名運動:
各地域で、原告周辺の人々に働きかける。この裁判闘争の帰趨は、
この2つの署名運動を契機にして各地域、各国で脱核・脱原発の動きが、
どれだけ高揚するかにかかっている(1954年原水爆実験禁止の署名運動)。

2)参加型裁判闘争の試み:日本国内の各地域間のネットワークづくり
例えば、毎回の裁判法廷で少なくとも原告席、そして傍聴席を埋め尽くす

3)「原発メーカー訴訟の会」における国際的なネットワークづくり:
9月台湾での臨界実験に向けた反対運動への各国・各地域からの参加




2 件のコメント:

  1. 日本政府、いや日本人全体の無責任さが問われています。
    池谷

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  2. トルコの久美子より2014年5月6日 22:48

    青柳純一 様 
    あなたが、被ばく者差別をこえて生きる 韓国原爆被害者2世金亨律(キムヒョンニュル)とともに」を出版してくださりありがとうございました。
    韓国原爆被爆者たちの壮絶な苦しみの歴史を知りませんでした。私は62歳の年齢に達していても何も知らないなどと言うこと事態、人間として、とても恥ずかしいです。

    広島・長崎で被爆した朝鮮人7万人の2・3世について、被曝の遺伝に苦しみ、韓国社会の中での差別と苦しみ、何をすべきなのかを記した青年の遺書・・・・。私はすぐにこの本を手に取りまず読んでみたいです。
    金氏が書いた遺書を無駄にできません。死の直前まで戦われ、人権を踏みにじられたその人生をもっとよく知り、更に他にも私の知らない多くの人権無視が過去にそして現在、見えないところで、行われているのではないかと思います。
    その為に、一日も早く私たちは苦しみ人権を踏みにじられている人を発見しなければなりません。そして、どうか苦しんでいる人は声をあげてください。
    オクロスに投稿してください。オクロスは、多くの差別や人権無視に苦しめられた人々が意見を言えるところです。世界のオクロスを読む人々があなたを支持します。私はあなたを支持します。あなたを応援したいです。そして一緒に悩み、ともに、金氏が残してくれた遺言を、世界の人々に伝えていきましょう。
    世界の人々の声が大きく他の国を変える時が来ています。世界には、まだまだ苦しんでいる人々がたくさんいます。

    私は現在、日本へ帰国し、今、福島・南相馬でボランティアをしています。昼間は、村の中に入り、林を伐採し、泥揚げをしています。
    今もなお、放射能汚染の為に、夜は誰も村に入ることができないところです。更に津波で家が崩壊、同時に放射能汚染、家族がまだ見つからない人たちを身近に出会いながら2週間を過ごしました。その間でニュースでは阿部首相がヨーロッパを訪問し、ドイツでも、イギリスでも日本は原発を廃止するどころか尚一層継続して作っていくなどと発表する神経に、呆れるばかりか、どうしてもこの現政権を解散させなければならないと強く思いました。市民、並びに野党政党は
    連立をくみ、公明は自民との連立を解消し、日本全体が大きく転換しなければ、電車がまっさかさまに崖から落ちるようなときに来ていると私は思います。

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