2013年4月10日水曜日

「無謀な北朝鮮」、この報道を前にして考えること

私の尊敬する児童文学者の田島伸二さんをご紹介します。深い人間洞察に基づく、自然破壊への警告をモチーフにした作品で海外に知られ、ご自分で開発された識字教育や、絵画を共同で完成する過程で創造性を培う教育の実践を内外でされています。
田島さんはFacebookにおいて鋭い社会評論と教育論、自然観を記していらっしゃるのですが、本日のコラムに北朝鮮に対する意見を記されていました。何度か書かれていることですが、チキンゲームのような様相を呈する昨今の朝鮮半島の事態に憂慮された内容です。

その意見に私は違和感を覚えるのではありません。人間が緊張の中で思いもよらない行動をとることがあり、朝鮮半島の緊張が具体的な戦争、或いは核戦争に至る危険性に警告を
発することは理解できます。しかし私は今の事態の背後に何があるのか、どうしてこのようなことになっているのか、マスコミが連日、挑発する北朝鮮、何をするかわからない金正恩、と報道していることに惑わされないで、事態の本質を考えたいと提案しました。以下、Sさんの意見をはさんで二人の文書を紹介します。

田島伸二さん:現在の朝鮮半島の情勢の危険なことー尋常ではありません。ーこれが引き返しのできないようなチキンゲームに発展すると、想像もできないような熱核戦争が突然、勃発することもありすから、現代の核環境は、原発の爆発以上に怖ろしいですね。 

だれが福島の原発が3基もメルトダウンすると想像したでしょう? これが現実世界です。今、進んでいることは人間の思考や想像の想定外なのです。なにも起きないことを祈りますが、こうした事態はなにもなくて終わることはありません。人間の希望の作り方は完全に間違っています。

Sさん:日本、韓国、北朝鮮、ともに核と核施設を持っている。通常兵器で攻撃しても国土が放射能汚染にまみれる。だから、ともに戦争ができない国なのだ。かつての朝鮮戦争の時代と大きく変わっている。しかし、対立を演じることで利益を得られる仕組みがある。軍需産業だ。あるいは軍需特需だ。朝鮮戦争、ベトナム戦争で日本の多くの企業が潤った。恐怖感の拡大は、仕掛けている人の思惑に加担することになる。それより、北朝鮮、韓国との外交チャンネル、交流チャンネルを官民挙げて、与野党あげて、もっともっと豊かにすべきと思う。
                            
崔勝久:(趣旨を正確に伝達するために原文に手を入れました。内容はそのままです)
今朝、長年韓国の民主化闘争の支援をはじめ、韓国との関係を持ってこられた東海林牧師と電話で話しました。田島さんのおっしゃることはその通りです。予期しないチキンゲームの危険性、福島事故のような事態、いずれもこれまでの人類の犯した罪を意識された発言としてうけとめています。

私も東海林牧師も北朝鮮を支持するという立場ではありません。しかし今のマスコミの論調はあまりに一方的に北の挑発と無謀さを強調していますが、反面、韓国・アメリカの北を挑発する軍事練習や、日本の北を追い詰めようとする様々な策略の実態には触れていないと思います。
   
何が起こるかもしれないということはその通りですが、核の時代、北が先に仕掛ければ自国は全て破壊されるリスクを負うことになります。それでも北はやるでしょうか。それは言いかえれば、日米韓は一度北を攻撃すれば北の核攻撃の仕返しを受けるリスクを負うということです。そのリスクを回避するには北朝鮮を破壊しつくさなければなりません。そのようなことをするでしょうか。わかりません、私はできないと思います。今の日米韓にその決断はないと見ます。あっても通常兵器による局地戦で終るでしょう。

いろいろと考えてみましたが、今のような緊迫した状況のときに冷静に考えて採るべき行動は、日本と北朝鮮の国交正常化を訴えることであるという結論に至りました。朝鮮戦争も休戦状態のままではなく、アメリカと北朝鮮との平和条約締結も不可避でしょう。この二つを実行して、対話を進めるしか方法はない、と私たちは長電話を終えました。

(世論がひとつになったときが危険です)
世の中が一定の方向に向き始めているときに「正論」を言うのは簡単ではありません。しかしアメリカでイラク攻撃を国をあげて賛成したときにも反対したごく一部の人がいました。後になって、アメリカの攻撃の大義名分は嘘であることがわかりました。私は今の緊張した事態において何の意見もださない日本の教会の中で、東海林牧師の意見は大変、貴重なものであると思い、原稿を書いて発表するようにお薦めしました。     

私はこのようなときであるからこそ、「紛争」の原因がどこにあるのかを真剣に、深く考察すし、北朝鮮との対話を進めることが必要だとおもいます。旧約の預言者はそのような働きをしてきたのではないでしょうか。

(マスコミで全く触れない視点)
もう一点、マスコミでまったく触れられていないことは、戦前の日本の植民地支配をしたアジアの国々のなかで国交正常化をしていないのは北朝鮮だけだということです。謝罪する立場の人は条件を出すべきではありません。まず謝罪をして、懸案事項の拉致問題はその後で徹底的に話し合えばいいのです。相手が降参するまで、降りてくるまでプレッシャーをかけるという政策に北朝鮮が白旗を上げることはないでしょう。  

こんなことをいつまで続けるのでしょうか。ここは問題の本質をしっかりと考える中で本質的な解決策を講じるしかありません。

(北朝鮮への強硬な路線は国内にも深刻な事態をもたらす)
もう一点留意すべきことは、北朝鮮を悪者にして北朝鮮への強硬な態度を取り続けることと、日本の国内の動向は直結しているということです。
私はある雑誌への寄稿の中で以下のことを記しました。

北朝鮮の拉致問題や核実験・ミサイル実験を理由にした日本政府、各地方自治体の朝鮮学校に対する露骨な差別・抑圧政策が行われています。世界の歴史を見て、外国人への抑圧が始まるのは社会としてはよくない兆候です。国内の外国人への抑圧からはじまり、領土問題や外国の「過分な干渉」を理由にして国民のナショナリズムを喚起し国内体制を固め、徐々に自国民の自由を縛り、国家主義的な政策を行うのは、植民地主義の常套手段です。

国民国家を最優先する価値観で、在日の人権、政治参加を認めず、差別を当然視した制度が全ての地方自治体で行われています。外国人を採用しても昇進を認めず、市民に命令をする職務には「当然の法理」ということで就かせないことが、政府見解以外何の法的根拠もなく行われています。いや、それは国籍や思想で差別をしてはいけないという労働基準法に反しているのです。そのような下地の上で、北朝鮮の政治動向への「報復」として朝鮮学校への差別、弾圧が公然と行われ始めたと私は見ます。

そして在特会による首都東京での「朝鮮人を殺せ」と差別言辞をまき散らすデモ隊を知事は取り締まる法がないことを理由に合法だとして、そのような卑劣極まる行為を放任しているのです。このことはアメリカのNYやワシントンでレイシストの白人がデモをして、「ニガーを殺せ」というデモがありえるのか、そのようなことを社会が許すのかということを考えただけで、今の日本社会がいかに異常なのかわかるでしょう。

(危険水域に入った日本社会)
注目すべきは再稼働反対の運動の中にもナショナリズムの影響が強くみられることです。日本がよければいいということを突き詰めると、原発の海外輸出は日本の国益に叶うという論理を批判できなくなります。そうではなく、原発ゼロを実現するのであれば、これは、再稼働反対と原発輸出反対は一対のものでなければならないということは自明なはずです。

安倍政権はなんとしても再稼働を進めようとして、原発立地地域の住民の安全な避難計画が成り立たないことには触れず、安全基準を作らせて再稼働をさせようと必死です。そのうえ政府の支援で原発メーカーの海外輸出を次から次への実現させていきます。これも政府系銀行の支援があって初めて成立します。その仕組みを使うには本来、相手国の中で国民の反対があってはだめなのです。しかし例えば日立は、国民投票で原発を否決したのに輸出を謀っています。

この異常な事態と、日本国内における民族的な弾圧、そして北朝鮮への強硬姿勢、私にはひとつにつながって見えるのですが、読者のみなさんはいかがでしょうか。


2 件のコメント:

  1. こんばんは。《そもそも論》としては、崔さんの指摘を理解できるのですが、「韓国の民主化闘争の支援」ということがらがあったことからいえば、「朝鮮民主主義人民共和国」の民主化ということがらもありえるのではないでしょうか。「王様はおかしい」というのは、内政干渉ではないと思います。By川崎猫屋敷主人。

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  2. SAM KANNO2013年4月10日 23:49

    猫屋敷主人様

    ぜんぜんありですよ。オバマがどうだ、リビアがどうだ、近習平がどうだ。どこの誰を床屋政談的に批判されてもかまいませんよ。

    ただ自分が統治されている。言い換えてもいいです「主権を持っている」国の政策についてどうなのかを問うているのです。外部からの危機を煽って「戦争をも辞さない」という現政権に貴方は付いていくのですかということが貴方に於いて問われているのです。「朝鮮人殺せ!」と言い募る隣人を放任して恥じないのですかということが貴方において問われているのだと思います。

    もちろん北朝鮮の人たちに於いても北朝鮮の現政権とその政策についてどうなのかはテーマでしょう。一義的には彼らが考えるべきことです。そうした上で初めて「戦争反対」をテーマにした、統治者ではない私たちの論議が可能となるのではありませんか。自国政府の吟味、あるいは働きかけを抜きにした他国政府への注文など誰も相手にしませんよ。

    イラクへの米国政府の”大義なき戦争政策”を戦後に反省したって、殺されたイラクの庶民はまったく浮かばれません。”大義なき人殺し”に動員されて、自らも殺されたり傷ついたりしている米兵の悲痛な後悔を知ってください。崔さんは自国政府のプロパガンダを吟味せよと訴えているのです。

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