2013年1月29日火曜日

運転中止中の原発周辺の住民は安全なんでしょうかー脱原発運動の取り組む課題について


卯辰昇さんの本を読み、原子力損害賠償法(原賠法)の問題を考える中で、アメリカの原発がメーカーと自治体の防災計画が十分でないという理由で廃炉にされた件を知り、この住民の安全確保ということの重要さを改めて再認識しました。

大間原発阻止の方法はないのか、私の提案
http://www.oklos-che.com/2013/01/blog-post_20.html

今大飯原発だけが運転され、他の52基はすべてとまっているのですが、再稼働させようということが安倍政権で公言され始めています。しかし今現在も、使用済み核燃料はそのまま保管されているので事故の危険性があるということはあまり問題にされていません。再稼働反対運動家は、原発の運転停止状態は安全だと思っているのでしょうか?

再稼働の反対とともに、地域住民が実際に原発事故が今でも起こりうるという認識の上で、具体的な防災計画、避難計画を実際に地方自治体に求め、住民が一緒になって細部にわたる計画、そして訓練をやってみるべきだと思います。

福島第4の危険性が論議されても、実際の避難計画、防災計画を求める声が聞こえてきません。政府は防災指針を出し始めていますが、それは「目安」であり、地方自治体が実際の計画をたてるべきだとしています。それは再稼働を認めるものではありません。

再稼働の前提は住民の安全確保、この点の議論がなさすぎるのでは
http://www.oklos-che.com/2013/01/blog-post_18.html

このように考えてたまたま読んだ、山本定明・淡川典子著『原発事故の起きる日ー緊急避難はできるだろうか』(技術と人間 1992 )より、著者の鋭い指摘の言葉を抜粋してご紹介します。

①(さまざま原発事故の形がありえるが)残念ながら現行のわが国の防災計画は、このような状況設定に関して、まったく具体性を欠いている。対応策は発電所内から周辺区域まで、連続したものとして捉えられてしかるべきものであろう。そのような発想は見られず、発電所サイト内は電力会社の対応に任され、その発電所は、サイト外に対する計画は自治体の責任であるとしている。また、被害を受けるのは個々の住民であるが、その住民に対して、発電所サイト内の対応策は知らされていない。住民には救いがないのである。

②いざ事故となれば、個人として一人一人がどう対応するかが迫られる。地域社会にしても同様である・・・とくに自治体の対応策は、それが住民の使命を制するものであるだけに、住民と共同して対応策、防災計画を練る必要があるだろう。それも極めて具体的に行う必要がある。そしてその計画を実際に実施してみて。有効性を検証する必要があるだろう。

③アメリカでは防災計画は、州・地方当局によるサイト外のものと、それと整合性をもつ電力会社のサイト内外のものが策定され、これらがともに実効性あるものと認められない限り、原子力発電所の運転ができない。なかでもアメリカのショーラム原子力発電所は、発電所が完成しても、防災計画を自治体が作成しなかったために、ついには1ドルで売却され、発電を行うことなく終わった。

④(日米、カナダの実際の防災対策に関するブックレットを比較してみて)
第一の問題点は、アメリカでは電力会社の防災対策は、周辺自治体のそれと連動しているが、日本では周辺住民に直接法的責任を負っていないという点である。
第二の問題点は、(事故の推移に応じた)具体的に避難ルートの設定や避難した人々の受け入れセンターが欠けている点は、日本の計画の致命的な欠陥といえる・・・
第三は、行政側の住民へのサービスの問題である。ハンディキャップドの問題や登校中の子どもたちの問題等は、避難という事態を考えれば、まっさきに検討しなければならない事項である。
第四はの問題点は、避難ルートに関する住民への指示もなく、日本では10キロメートル
圏の外について、一体何が検討され、じゅんびされちえるのか、いっさいわからない。この避難先の準備の検討を欠いている・・現実は無策に等しい・・

⑤原因者責任という言葉がある。防災計画が必要になるのは、明らかに電力会社が原子力発電所を作ったことによる。したがって、電力会社は、事故により損害を発生してしまった場合に、損害賠償責任を負うだけでなく、防災対策においても原因者としての責任が求められる。この点が日本では無視されたままである。住民も自治体もここに注視する必要がある。

⑥安全性確保の問題と放射性廃棄物の問題・・このふたつの問題の解決なしには・・原子力はその利用に正当性をもつことはできない。巨大な資金を天然ガスや太陽エネルギーに投入すべき(20年前に提案)。

⑦電気事業法では許可の基準を定める第5条その6号には「電気事業の開始が電気事業の総合的かつ合理的な発達その他公共の利益の増進のために必要であり、かつ適切であること」とある。著者は、成長信仰に基づいていた、原発重視、「公共の利益の増進」にそもそもなじまない。

4 件のコメント:

  1. 崔さんのご提案に賛同します。
    政府は「人間の避難」ということをあまり考えていないようです。これが福島原発事故の影響を深刻なものにしています。

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  2. 崔さん、精力的なご活動ありがとうございます。

    1992年に既に原発災害を見越したこうした著書が出されていることに驚きました。原発に囲まれて生きてきた私たちが如何にその危険性に無知であったことかを前提として、その原発推進の国策に対して地域の防災という観点から住民がチェックすべき広い運動の領域があるということを教えて頂きました。もちろん逃げる対策が考えられていればいいということにはならないわけですが、住民への危険性を無視した国策であることをあぶりだすことは重要だと思います。

    ところで、ごめんなさい。抜粋⑦の最後のパラグラフ;”著者は、生長信仰に基づいていた、原発重視、「公共の利益の増進」にそもそもなじまない。" のところが前後の関係でちょっと理解できませんでした。

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  3. 返信:崔
    山本さんの著書を取り上げたことにご理解をいただきありがとうございます。私は再稼働反対運動をする人に是非、この著作を読み、原発立地域において具体的に何をすべきを考えてほしいなと思っています。

    ご指摘の箇所ですが、そうですね、わかりにくいですね。まず誤字があります。「生長信仰」は「成長信仰」です。以下、修正しました。
    ⑦電気事業法では許可の基準を定める第5条その6号には「電気事業の開始が電気事業の総合的かつ合理的な発達その他公共の利益の増進のために必要であり、かつ適切であること」とある。著者は、成長信仰に基づいていた原発重視は「公共の利益の増進」にそもそもなじまないと主張する。

    原文は202ページですが、著者はまず、電気事業法第3条の許可のところで3号、「一般電気事業にあっては、その事業の開始によってその供給区域の全部または一部について一般電気事業の用に供する電気工作物が著しく過剰にならないこと」とあるにもかかわらず、火力発電を使わないようにしながら原発を建設してきたことが、そもそも今後ますます経済成長において電力が必要になるということを前提にしていると考えています。

    原発は「公共の利益の増進」にそぐわないと著者が判断するのは、原発は「巨大な量の毒物、放射性物質を生産」し、その処理方法はかんがえられていないのだから、公共の利益に結びつくはずがないではないかという趣旨です。

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  4. 私の主張している、運転中止中の原発は安全ではなく、周辺住民は避難計画をしっかりとするべきという内容について、小出裕章さんにお尋ねしました。以下、メールのやりとりを公開します。

    お聞きしたいことがあります
    小出さんへ

    毎日お忙しくしていらっしゃるようですがお体の方はいかがですか。
    本日、私のブログでこのようなことを書きました。

    運転中止中の原発周辺の住民は安全なんでしょうか?
    http://www.oklos-che.com/2013/01/blog-post_29.html

    ご一読いただいてご意見をお願いしたいのですが、私見では、
    現在運転中止中の原子力発電所においても、使用済み核燃料は
    そのまま冷却し続けなくてはならず、万が一の事故を考えて、
    周辺に住む人たちの安全確保はしっかりと安全対策、避難計画は
    住民と地方自治たちが有識者と一緒になって立てていかなければ
    ならないと思うのですが、いかがでしょうか。

    避難計画が十分でなければアメリカであったように、当然、原発を建設
    してもその運転を認めず廃炉にしたように、日本でも再稼働を認めず
    廃炉にすべきでしょう。

    現在、運動側は、国の安全基準について問題にしており、事実、
    問題が多いのですが、実際の事故があっても住民の安全確保の
    為に何をすべきかという論議がまったくなされていないように思います。

    またドライキャスクへの対応や、福島第一原発4号機の危険性は
    海外の識者も指摘されていますが、最悪の場合に備えた住民の
    安全確保を具体的にどうするかの議論にはなっていません。

    まったくの素人の私が心配することは、杞憂にすぎないのでしょうか
    (そうであればいいのですが)。ご意見をいただければ幸いです。

    今年の秋には福島事故を起こした原発メーカーを提訴する準備を
    しております。4人の弁護士が準備をしているのですが、方向性が
    明確になりましたらご報告いたします。

    小出さんのますますのご活躍を祈ります。

    崔 勝久 CHOI Seungkoo


    崔 勝久 様

     メール、いただきました。

     山本貞明さん、淡川典子さんは、・・・・実験所にもたびたびおいでくださった仲間です。
     残念ながら山本さんはすでにお亡くなりになりましたが、彼らの本をご紹介くださり、ありがとうございました。

     崔さんが書かれている通り、原発は停止中も使用済み燃料がある限り、危険は存在しています。
     日本の原子力推進派は、「原発は絶対安全」としてきたため、まっとうな防災計画を作ろうとしませんでした。
     でも、危険が存在する限り、住民の防災についてももちろん考える必要があります。

                            2013/1/30  小出 裕章

    小出さんへ

    ありがとうございます。原発体制は民主主義を踏みにじり、形骸化し、住民主権をなきものとしたと理解しました。だからこそ、反原発運動は単なる政府への反対運動にとどまらず、自らを守り自らを取り戻す運動を構築していく運動にしなければならないのです。これからもよろしくお願いします。

    崔勝久

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