2011年9月10日土曜日

モンゴルはどのようになっているのかー小長谷さんのおはなし

昨日(9日)、国立民族学博物館のモンゴル研究家の小長谷有紀教授とお会いしました。ネット上で、モンゴルの人たちが原発についてどのように思っているのかを記した彼女の記事を読み、連絡をさしあげ、急遽お目にかかることになりました。ご多忙のところ時間をとっていただき、貴重なお話を伺い感謝です。

1. モンゴルは漢字圏ではなかった
私は韓国語がハングルで書かれているものの、中国の律令政治体制の用語や仏教用語、それに明治時代に日本で作られた哲学とか民族という多くの翻訳語がそのまま韓国で使われているのと同じく、モンゴルでも漢字をモンゴル語読みしたものが多いと思いこんでいました。しかし小長谷さんのお話では、一部の日常用語を除いては、中国語(漢字)はほとんど入ってきていないということでした。仏教や行政用語もインドからチベット、中国を経由して漢字の文献が入ってきた朝鮮や日本と違って、チベットから直接モンゴルに入っているので、逆にチベット仏教のダライラマはモンゴル語を話しているということを初めて知りました。モンゴルは漢字圏ではなかったのです!同じアジアといっても全然日本や韓国とは違う精神風土をもっているのだなと思わざるをえませんでした。ジンギスハンの末裔は儒教圏の国とはいろんな意味で違った価値観をもち、現代においてはソ連と中国という大国のはざまで様々な葛藤を経験せざるをえないのでしょう。

モンゴルは日本の領土の4倍の広さで人口は大阪とほぼ同じ270万人くらいしかなく、平均すると隣家まで40キロになるというのです。レアメタル、金、石炭、ウランなどの鉱産物の宝庫ですが、内陸であるが故、それらの発掘・付加価値をつけるための技術開発、輸出には多くの困難があるようです。小長谷さんによると、ウランの発掘に頼らなくとも他の鉱山資源で十分に生きていけるはずだということでした。しかし80年代の後半に社会主義から資本主義(市場主義)の社会に替わったモンゴルにおいては「距離は変数」になり、遠隔地に至るまで同質のサービスを維持することは容易なことではなかったはずです。

そこで小長谷さんたちは「モンゴルパートナーシップ研究所」というNPOを立ち上げ
(http://web.me.com/mongol_partnership/mongol_partnership/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0.html)、遠隔地の食肉を買い上げ市場で販売するという活動をはじめられました。徐々に市場経済が整備されるとともに、今度は黒板を各地の学校に支給するという活動に移行し、10年間で1200枚の黒板を現地の業者に発注して学校に配布するという支援をしてこられたそうです。モンゴルの自然を愛する人たちのカンパによってそのような活動を続けている間は、まさか日本が使用済み核燃料の埋蔵を進めているとは夢にも思わなかったことでしょう。

2. モンゴルを標的にし始めた日米両国
「使用済み核燃料をモンゴルに貯蔵」報道(共同通信)について(7/19)
http://www.oklos-che.com/2011/07/blog-post_828.html
日米の思惑 モンゴルで核処分場建設計画
http://japanese.china.org.cn/jp/txt/2011-05/10/content_22533355.htm

孫正義が韓国大統領に会い、広大なゴビ砂漠で太陽光発電のプロジェクトを呼びかけたことは日本の新聞でも報道されました。モンゴルが日韓両国のプランにどのように応えようとしているのか報道されていませんが、当事者抜きに周りの国が勝手にプランを打ち出しているとは思えません。モンゴルは自国の産業に生かそうとして資金の導入、工場の建設、労働力の提供について協議をはじめているのでしょう。小長谷さんのお話では、ソウルからウランバートルに行く飛行機は予約が困難なくらい多くの韓国人が現地に行っているとのことです。孫正義に先行して韓国はモンゴルに手を打っているのかもしれません。あるいは日本企業の潤沢な資本を活用して共同事業をやろうという話を進めているのかもしれません。太陽光発電ということになれば世界のトップ企業に何社な名を連ねる中国の企業も黙っていることないでしょう。

しかしながら、そのような自然エネルギーの開発に先立ち、日米両国はモンゴルのウランの発掘、高純度化する技術と合わせて、そのウランを活用した「ごみ」、使用済み核燃料の処置・貯蔵という原発のアキレス腱ともういうべきものをモンゴルに押し付けようとしています。その中には原発の建設も入っています。内陸であるモンゴルが原発を建設するとしたら、原子炉を冷やすために地下水を活用するしかないはずです。そこが万が一にも汚染されれば牧畜を生業とする人たちはどういうことになるのでしょうか。考えただけでも恐ろしいことです。しかし現地では3か所の候補地が内定しているとのことです。電力が必要であれば、風力や太陽光、あるいは豊富な石炭を活用した、炭酸ガスを極力ださない先端技術の火力発電も可能なはずです。どうしてモンゴル政府は原発を求めるのか。私はそこにアメリカの国際戦略、日本を巻き込む思惑、そして二つの大国にはさまれながら存在感を誇示しようとするモンゴル政府の政策がからみあっているような気がします。

どうしてアメリカなのか。小長谷さんは、まさに核を武器にして先進国の間で生き延びようとする金正日がロシアに行ったことをあげ、ウランの埋蔵では世界のトップクラスの北朝鮮とソ連が結びつく必然性があり(どこもがそれを狙っている)、中国とソ連に挟まれたモンゴルに最も関心をもつのはアメリカではないですかということでした。事実、アメリカの副大統領が中国、モンゴル、日本と韓国をさる8月下旬に訪問した際、4時間のモンゴル滞在中に両国の声明文をだし、①アメリカはモンゴル人の米国滞在手続き(ビザ発行)を緩和する、②アメリカはモンゴルの第三の隣人になる(言うまでもなく、中国とソ連に次ぐという意味)、③原子力の平和利用に協力し合う、ということを明らかにしたそうです。

アメリカは自国内ではスリーマイル島での原発事故以降、新たな原発建設はなく原発産業は斜陽産業なのですが、核兵器の開発はこの間ずっと進めてきて、一部の先進国だけで核兵器を独占しそれが拡散することを恐れてきました。モンゴルでの使用済み核燃料のCFS(包括的燃料供給)はウランを採掘した元の国に戻すということであり、核の平和利用の一環、何よりも核の拡散防止戦略と位置付けているのです。東芝の社長がアメリカの高官に手紙を出しプロジェクトの早期推進を促したとネット上で暴露されたとき、東芝の広報は手紙を送ったことは否定せず、「モンゴルのCFS構想は、国際的な核不拡散体制の構築、および同国の経済発展に寄与できるという点で意義がある」と述べたそうです。
(東京新聞web 7/2 http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2011070202000039.html )


3. CFS(包括的燃料供給)構想はなくなっていない
モンゴルの話は本当になくなったのか?(9/2)
http://www.oklos-che.com/2011/09/blog-post.html

小長谷さんたちは、3月11日、5月9日、8月1日の毎日新聞ロンドン支局の会川(あいかわ)記者のスクープによって上記の一連の流れを知ったそうです。3・11以降、日蒙両国においても政府内は必ずしも一枚岩ではなく、外務省と経済産業省の間に意見に相違があるらしく、核燃料サークルのシステムづくりに批判的な前者からの働きかけがある一方、後者は8月9、10日にわたってモンゴルで日米蒙三国のシンポをもち、CFSを促進する協議をして現地では大きく報道されたそうです。それにはもちろん、IAEA(国際原子力機構)も原子力の平和利用を名目に参加し、日本の独立行政法人の原子力開発機構が音頭をとったものと思われます。

しかし毎日新聞のスクープによって国際世論、モンゴルの国内世論がCFS構想に反対する動きを見せたため、日蒙両国は急にトーンを落とし始めます。両国外相は口をそろえて否定的な見解をだします。モンゴルの長官は、モンゴルの法律上、海外から使用済み核燃料を国内に持ち込むことは認めていないと言ったと日本の外相は国会で答弁し、菅元首相は「現時点では考えていない」と発言しています。モンゴル大統領は「そんなことがないことを信じている」と言っているそうです。しかし彼は昨年来日し、原子力の平和利用の覚書に署名した人物です。小長谷さんによると、モンゴルでは法律などは平気で変えられるので、状況に応じてどうにでもなるということでした。

日米蒙連合にアラブが加わるという報道も過日ありました。アラブは中近東で初めて原発を建設する国になり、それを受け持つのが金利の「逆ザヤ」をしてまでも無理して金を貸し付けた韓国です。韓国の経済産業省にあたる省の長官は、原発における日韓の協力を呼びかけています。東芝が買収した(アメリカから買わされた)WH(ウェスティングハウス・エレクトリック)は韓国とビジネス上の関係が深く、世界の原発関係者はどこかでつながり、原発促進で協力し合っているとみるべきでしょう。

世界の新規原発開発の20%のシェアーをとることを宣言した韓国が自国内においても、2030年までに現在の倍の60%にまで原発の占有率を高めると宣言しています。使用済み核燃料の処置方法に関しては公表して国民に信を問うと発表したらしいのですが(小長谷さんの得た情報―未確認)、韓国人の賢明な判断を願うばかりです。

以上のことから3・11以降も世界的な脱原発の動きに反して、それを巻き返すかの如く、原発の輸出はアジアにおいてはさらに激化し、原発の数も急増する趨勢です。その流れに沿って、モンゴルの日米蒙(+アラブ、韓国?)のCFS構想はなくなったのではなく、水面下で進められているとみるべきだと思われます。これが小長谷さんと私が意見の交換して得た結論でした。日蒙両国はいずれも一連の報道に対して「部分否定」をするだけで、彼らは当初の予定、計画を本気で実行する気でいると私たちは捉えました。

4. 私たちに何ができるのか
小長谷さんたちは、このようなモンゴルの動きを黙認できないと、現地新聞に一面広告をだす計画をたてているそうです。私たち「原発体制を問うキリスト者ネットワーク」もまたアジアの反原発の連帯運動につながるためにそのような活動にも積極的に参加すべきだと思います。

しかし最後に小長谷さんのお話で私は身の引き締まる思いがしました。現地では能天気な活動をしてはいけいない、それは生命に関わるというのです。事実モンゴルでは、「暗殺」によって人知れず数多くの人が殺されているというお話でした。彼女はそのようなリスクを引き受け、そこまでやるしかないという覚悟を決めてこれらの活動を続けようとしていると察知した私は、安易な気持ちで関わってはいけないと思わざるをえませんでした。

国策としてアジア諸国の為政者が原発を推進しようとしているのですから、それに正面から反対するということは、結局、そういうことになるしかないのでしょう。日本での原発の再稼働を許さない運動を進めつつ、日本が韓国ともライバルのようでありながらまたパートナーとしてアジアでの原発展開を進めている以上、私たちはアジアの人たちと連帯してその動きに抗する運動をしなければならないという思いを、私は小長谷さんとの出会いを通してさらに強く持ちました。

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