2011年7月28日木曜日

広瀬隆の『原発の闇を暴く』を読んでー現実主義者の陥穽

反原発運動は広瀬隆抜きには語れないくらいに、彼のこの間の働きは飛びぬけています。原子力の専門家ではなくとも長年原発問題を取り上げ、ひろく二酸化炭素と温暖化の関係だけでなく、経済史や北朝鮮の問題にも言及している在野の知識人作家です。「専門家」を自称する人が真実を直視して自分の責任において発言せず、権力に媚びる姿に我慢できない、正義感の強い人だと思います。その姿勢は共著の『原発の闇を暴く』にも見事に表れています。

この本の後書きにあるように、2011年7月8日付で広瀬及び明石昇二郎が、勝俣恒久・斑目春樹・寺坂信昭(Aグループ=行政等責任者)を始め、山下俊一(Bグループ=研究者)ら32人を東京地検特捜部に刑事告訴した(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BA%83%E7%80%AC%E9%9A%86)そうです。新聞でも小さく報道されていました。

運動圏では引っ張りだこの広瀬隆は、その厳しい原発批判ゆえか、一般のマスコミに登場することが少なりました。ほとんど3・11以降はゼロに近い状態のようです。しかしインターネットでは彼の講演を含め、よく見られています。小出裕章のような学者然としたタイプではなく、歯に衣着せない鋭い発言が目立ちます。私は、ロスチャイルドのユダヤ人一族を扱った『赤い盾』(講談社)を読み、あまりよい印象をもっていなかったのですが、最近の原発に関する講演、著作を読み賛同するところが多く、彼の発言には注目して学ばなければならないと思うようになりました(「広瀬隆の『原子炉時限爆弾ー大地震におびえる日本列島』を読んで」 http://www.oklos-che.com/search?q=%E5%BA%83%E7%80%AC%E9%9A%86 )。

今回の赤石昇二郎との共著では、これまで御用学者や行政・官僚がどのような発言をしてきたのか、仔細に説明していますので、国策としてプラトニュームをとりだし核兵器を作る意図で、六ヶ所村やもんじゅを建設してきたという決めつけも確かにその通りだと思えます。

今回著書で改めてわかった点を列記してみます。
1.浜岡原発ではどんな高い堤防を作っても自然の脅威には役立たず、「燃料棒をどこかに運び出さなければ浜岡の危険性が去らない」、確かに一定の温度まで下げないと運び出す作業はできないわけで、2年後堤防を作ったときに再稼働させないようにしなければならないと強く思います。

2.2010年にベトナムから大型原発2基の受注をしていますが、資金調達や燃料供給までは私にもわかっていましたが、「使用済み核燃料を含めた放射性廃棄物の処理」まで約束していたことは知りませんでした。現地に最終処分所を作るのか、六ヶ所村に持ってくるのか、モンゴルに送るのか、ベトナムで事故をおこしたらどうするのか、日本に最終処分をすることができるのか、この点は厳しく追及する必要があるように思い、現地との運動側の交流は不可避です。

3.今すぐにすべての原発を止めても電力供給に問題は生じないと断じている根拠ですが、詳しく説明しています。まずすべての原発を止めることが先決で、代替案はどうするのかは後で協議すればいいと主張します。これまではそれは極端な意見だと思ってきましたが、来年春にとのもかくにもすべてが一旦定期検診のために止まるのですから、本気ですべてを止めることを考えるべきだと私も思うようになりました。
 赤坂憲雄のように言っていては何が安全かそうでないかという基準の話になり、結局埒があかないと思います。「国家として直ちに脱原発は無理でしょう。しかし、古い炉から順に廃止し、安全性が確認された原子炉を運転する『猶予期間』に、太陽光や風力などの研究開発を進め、供給量を増やすことは可能です。」 http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110722dde012040048000c.html

4.太陽エネルギーについては原発を補完するだけで、その実施は問題が多いという主張は、孫正義が地方自治体の首長と提携し、東北地方では使えない敷地にパネルを張りめぐらせよう、モンゴルの砂漠では韓国とタイアップして巨大な施設を作ろうと提案しているようですが、自然エネルギーだからいいことと一概に思ってはいけないということを言っているようです。この意見も傾聴に値します。

5.代替エネルギーについてはこれから研究するという話がマスコミでは多いですが、広瀬によれば石炭でもコンバインドサイクル発電や、天然ガスを利用した発電方式は資源の面でも問題はないようで、これらのことは、「エネルギー論であわてる必要はどこにもない。まず原発を止めて日本人全体が生き残ってから、みなさんじっくり落ち着いて議論しなさい」と彼の遺言のように語っています。この点も十分に考える必要があります。

というわけで広瀬隆がすべて正しいとは当然言えないのですが、長年ぶれることなく反原発を主張してきた人物の感性と研究は私たちの方で検証する価値があると思います。現実的にということは、結局は権力の問題を明らかにするというよりは、原発を時間をかけてなくすということになり、本当にそれでいいのか、その間に地震による災害はもうないのかという点で、現実主義者の陥穽、としました。

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