2009年7月6日月曜日

『21世紀を生き抜くためのブックガイド』「新自由主義とナショナリズムに抗して」より

私たちが昨年出版した『日本における多文化共生とは何かー在日の経験から』(崔勝久・加藤千香子編著、新曜社)に対するコメントが、岩崎稔・本橋哲也編『21世紀を生き抜くためのブックガイド』(河出書房新社)で紹介されています。国会議員のブログや大学のサークルでも読まれていることがネットでわかり、喜んでおります。

Cultural Typhoonで韓国の研究者とも意見交換しましたが、これをきっかけにして「多文化共生」を賛美するだけでなく、批判的に検証する作業を、実践と学問の両面から進めていければと願っています。立命館大学では、韓国の安山と川崎を比較研究した論文を出しています(http://homepage.nifty.com/tajimabc/new_page_171.htm)。

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崔 勝久
SK Choi

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     『21世紀を生き抜くためのブックガイド』
  新自由主義とナショナリズムに抗して(P236~238)
岩崎稔・本橋哲也編 河出書房新社2009年4月30日

民主主義の核心的な経験とは
岩崎 内省する左派文化という点では『日本における多文化共生とは何か』(新曜社)を挙げたいんです。地味な作りの本ですが、あるシンポジウムの記録です。著者のひとり、朴鐘碩(パク・チョンソク)さんは、70年代前半の、在日朝鮮人に対するあの日立就職差別事件の原告でした。彼はこの本の中で、自分の在日としての意識が明確になったのは日立闘争の中でだったと語っていますが、問題はそこで終わっていない。日立の正社員になっても、労働組合と会社の結託の中でほとんど発話できない「社畜」にされている。彼は悩んだ末に再びその問題と対決するわけです。確かに日立闘争は1970年代輝かしい成果です。しかし、そういう運動の経験が、民族差別を克服したという神話になってしまわないで、もっと複雑な運動の経験としてさらに掘り下げられている。この本の中心にいるのは崔勝久(チェ・スング)さんですが、彼の民族の問題を等身大の課題として具体的に考えていく姿勢に共感しました。

本橋 民主主義というのは、まずもって私たち自身が自らの言葉で自分の権利を主張し、他者のそれを含めてそれを守るということですね。そこで当然、重要になってくるのは他者の言葉に耳に傾けること。上野千鶴子さんがこのところ言われている「当事者主権」というのは、上野さんご自身民主主義の一つの鍵のようなものだと思うのですが、それに触れて伊藤晃さんがこの本の中で短いコメントを書いておられる。つまり、当事者主権が重要なのはもちろんだが、一方、その当事者の周りにはたくさんの普通の人々がいる。そういった人たちをもう一方の当事者として、どうやって共生していくのかを考えないと、民衆運動は拡がらないし、民主主義は成熟しない。この指摘はとても大事だと思いました。

岩崎 先ほど民主主義の革新的な経験は、異なった人と隣り合ってそこにいるということなんじゃないか。そういう《開かれ》の経験がない限りは、主観的な一体性の中に閉じこもってしまう危険性がある。ジグムント・バウマンが「ペグ・コミュニティ」ということを言っていますが、自分を安全な場所に引っかけて、ペグ、つまり鉤となる一体性に逃げてしまう可能性もあるわけです。戦後の左派はかなりの部分、逆境になればなるほどペグ・コミュニティにとりついてしまうものだから、結局は党派的になって、自分たちだけが純粋になって安心してしまうということが繰り返されてきた。

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