2007年10月12日金曜日

朴裕河著『和解のためにー教科書・慰安婦・靖国・独島』を読んで思うこと

朴裕河著『和解のためにー教科書・慰安婦・靖国・独島』(平凡社)を
読みました。著者の批判的な知性と、日韓両国のナショナリズムを
批判する、その切り口、何よりもこのような本をまず韓国で出版した
その勇気に心からの敬意を表します。

著者の朴裕河(パク・ユハ)は韓国の高校を卒業して慶応、早稲田で
日本近代文学を専攻、博士号を取得し、現在、韓国の世宗大学で
教鞭をとっておられます。

またよりによって最後まで読み進めたら、後書きは上野千鶴子さんが
記していました。私はさもありなん、と妙に納得しました。上野さんの
後書きも十分に挑戦的です。パク・ユハさんの批判的知性と、「あえて
渦中の栗を拾う」勇気に敬意を評するだけでなく、日本の読者への
警告と、著作に対する論点を付け加えています。ひとつは作者の小泉
の靖国参拝に関する理解に対する意見であり、もうひとつは、「慰安婦」
問題を取り上げてきた両国の「運動体の果たした役割りとその問題点」
についての総括が必要とされるという指摘です。

2006年の11月に発行されているので、これまでの日韓両国に
おける上野批判を意識した上での後書きだと思われます。
上野さんは、日本側の「基金」の試みは韓国の女性運動の
ナショナリズムによって「封じ手」になり、この問題を日本の
「良心的」な女性団体は、「加害者国民意識」(=相手を対等に
みないパターナリズム)によって指摘できなかった点と、韓国側が
「民族よりジェンダー」を優先させたと日本側団体の代表を批判
した点をとりあげています。

ここはパク・ユハさんの著作に対する論評なので、これ以上、この
問題は触れませんがいずれ戻ってきたいと思います。日韓の
運動の連帯と共闘とは何なのか、両者の同調が必要なのか、
独自の理解による多様な運動への関わり方が認められるべきで
はないのか、この点に関する、批判覚悟の上野さんの問題提起
と見ました。

さて、パク・ユハさんですが、実に勇気のある女性だと思います。
厳しく日本のナショナリズムの問題点を指摘しながら、右派であれ、
左派であれ、日本の実情を理解してこなかった韓国のステレオ
タイプな日本理解を批判します。日本への批判はそのまま、韓国の
批判になるのではないか、韓国民自身が同じ発想と論理をもって
いないか、まず自己批判からはじめるべきであるということを、教科書・
慰安婦・靖国・独島(竹島)の問題に即して解き明かしていきます。

国家権力は国家のために生きるように(=戦争に行くように)国民を
「洗脳」し、「愛国」を押し付けるが、それは日本・韓国も同じであり、
両国のナショナリズムそのものに本質的な違いはないと主張します。
「抵抗のナショナリズム」批判をする李建志の著作の引用の中で
私はパク・ユハさんのことを知るようになったのですが、李建志が
彼女の著作に共鳴する理由はよくわかりました(李建志『朝鮮近代
文学とナショナリズムー「抵抗のナショナリズム」批判』)。

いずれにしてもこの本の要約をいくらうまくしても彼女のよさは伝わらない
と思います。まずみなさんに、この本を一読することを薦めます。

私が関心があるのは、それではパク・ユハは著作で示した明確な
ナショナリズム批判を元にして、在日のことをどのように捉えてきたのか、
日韓の真の和解を求める彼女は「共生」、「多文化共生」を無条件に是と
するのか、私たちの「共生」批判を理解し受け入れるのか、ということです。
私はいつか彼女との対話を切望します。

彼女は独島への論文のサブタイトルを「ふたたび境界民の思考を」として、
マージナルなところで生きざるを得なかった人々への理解を示し、その
ような人々を国家の論理で国家の中に引き入れてきた事実に注目します。
その彼女が、日本の閉鎖的なナショナリズムの下で生き、同時に南北
朝鮮の分断と対立に翻弄される在日の存在への深い理解がないわけが
ないと確信します。

私が危惧するのは、彼女が切望する両国の「和解」が安易に「共生」へ
転用・利用されることはないのか、という点です。この点の考察は、
「共生」に行かざるをえない人のことをまず理解し(これはパク・ユハ流
ですね)、それにもかかわらず、その批判をすることが実は、日本社会
の局地的な問題でなく、世界の歴史の中で必要なことであるということを
考える道筋になると思われます。まさに批判というものが普遍につながる
ということでないと、それは中傷だとか、非難になります。

在日を生きる当事者として、「共生」の背景とその主張の必然性を
十分に理解・把握し、それを受け留めながら止揚していく道が、「共生」
批判であるということを、私はパク・ユハに会ったら話したいと思います。

崔 勝久

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