2021年2月11日木曜日

梁英聖『レイシズムとは何か』(ちくま新書)からの引用

梁英聖『レイシズムとは何か』を読みました。その過程で印象に残った前半の部分を以下に記します。

★レイシズムについて

「日本人も朝鮮人も同じ「黄色人種」だということ自体がレイシズムである。 というのも、人種など存在しないからだ。本文で述べる通り生物学では遺伝的な意味で人類をサブカテゴリ―に区分できる人種は存在しないことが定説になっている。 重要なことは、人種は存在しないが人種差別は存在する、ということだ。」8-9頁

著者の「人種」に対する見解に驚く。改めて「人種」なる概念に毒されていた自分を思い知らされる。「はじめに」で「肌色」という言葉がひろく日本社会で使われていたことの指摘がある。 「重要なことは、人種は存在しないが人種差別は存在する、ということだ。 人種が存在したうえで人種差別が起こるのでは全く無い。逆に人種差別という実践や習慣があるからありもしない人種がつくられるのだ。これが本書で述べるレイシズムの人種化作用である」9頁

★ヘイトスピーチについて

著者の梁さんはヘイトスピーチ解消法が成立しても、「ヘイトスピーチ頻発状況の改善は困難」とみる。実際、その通りになっている。なぜなら、「ヘイトスピーチ頻発現象の本当の危険性が、そしてその原因がどこにあるのか」が日本社会では共有化されていないから、という。 「いま日本社会では、『朝鮮人を殺せ』などとさけぶ醜悪なヘイトスピーチが(差別扇動)が各地で頻発している。・・昨年(2015年)5月の国会で戦後初めて、レイシズム(民族差別)禁止法案である人種差別撤廃推進法案が野党から提出された(その後与党からヘイトスピーチに特化した法案が出され、いわゆる「ヘイトスピーチ解消法」[本邦外出身者に対する不当な差別的言動に向けた取組の推進に関する法律]が今年5月24日に成立した)。 おそらく法律が成立したとしても、ヘイトスピーチ頻発状況の改善は困難だと私は考える。なぜなら、ヘイトスピーチ頻発現象の本当の危険性が、そしてその原因がどこにあるのかが、日本社会では十分に共有されているとはおもえないからだ。」10頁

「へイトスピーチとは、簡単に言えば差別扇動(レイシズム扇動)のことだ。ヘイトスピーチを理解するには、そもそも「差別(レイシズム)とは何か」という基本的な理解が欠かせない。 ところが、ここに日本社会が抱える難問がある。多くの日本市民には、残念ながらレイシズムが「見えない」ように(不可視化)されているからだ。(中略) 日本では、なぜレイシズム(差別)が、ここまで不可視化されているのか。その理由は、日本社会に反レイシズム(反民族差別)という社会的規範が成立していないからである。」13頁

★「反人権侵害」という社会的規範について

「反人権侵害」という社会的規範は人権侵害を社会レベルまで可視化させ、その深刻さの質と程度(量)を測るモノサシ(尺度)である。多くの市民は、「反人権侵害」という社会的規範が成立してればこそ、社会共通のモノサシを基準にすることで、何が人権侵害で、何がそうでなあ以下を判断することができる。」 「欧米とのヘイトスピーチ問題とは対照的に、日本では、まず反レイシズムというモノサシを社会に打ち立てる、というごく基本的な課題があるのだ。」15頁

★在日コリアンについて

著者の在日コリアンの沈黙に対する理解に同意します。 著者は、日本では①一般的人権規範、②反レイシズム、③反歴史否定が日本には存在しない、これら「自分を権利否定から守る」「盾」が存在しないことで、在日コリアンは「自分を在日コリアンとしてアイデンティティファイ(自認)することじたいが相当に困難なのだ、と語る。 そのうえ、「朝鮮半島の分断と日本と朝鮮半島の敵対的関係が加わるため」それは途方もなく難しくなる。・・・加えて、若い世代の在日コリアンは、大衆規模で何かを勝ち取った実体験をもたず、上の世代が闘い取った「歴史」を自分のものにできている者が多いとは言えない。」 そのため、在日コリアンは、本来持っているはずの、レイシズムを語る力も、人間性を失わないために自分のアイデンティティを活用する力も、それらを社会を変えるために発揮する力をも・・削がれつづけている。これが、ヘイトスピーチの「沈黙効果」以前に、はるかに徹底的に在日コリアンの若者を黙らせてきたのだ。」20-21頁

★カーマイケル『ブラックパワー』

自由がいいとは口で言いながら社会的な運動を軽視するものは、畑を耕さずに収穫を欲しがるものである。雷鳴や稲妻を嫌いながら雨が欲しいと言うのである。(略)権力は求められずに譲歩などしない。そなことは過去にもなかったし今後もあり得ない。 梁英聖「差別や権力とは、対決と闘争して初めて成果を勝取ることが社会運動の鉄則と言うべきこの名言は、対決と闘争を嫌悪し「対話」ばかり好む日本では特に重要だ。59頁

★制度的レイシズム

制度的レイシズムという概念は、公民権運動の成果を踏まえたうえで、それを乗り越えるべくベトナム反戦時代にアジアやアフリカで展開されていた第三世界革命への連帯を模索することで、よりラディカルに闘おうとした米国の黒人解放運動のダイナミズムの中で生み出されている。 制度的レイシズムは単なる分析概念ではなく、ブラック・パワー運動からの戦略的問題提起として生み出されたものだ。 その意味は実践の中でどのような文脈・位置づけを持っていたのかを理解しなければならない。」60頁

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