2017年11月12日日曜日

反核・反原発・反戦の国際連帯運動に向けて、日本軍「慰安婦」問題ーブックレットの紹介


坪川宏子、大森典子著『司法が認定した日本軍「慰安婦」ー被害・加害事実は消せない!』(かもがわブックレット 2011)の表紙を見て驚かない人がいるでしょうか?

「日本軍の最大侵攻ライン」の地図
「日本軍の最大侵攻ライン」の地図を見て、私は中曽根元首相宛に私たち日韓反核平和連帯代表の木村さんが出された手紙を思い出しました。
    拝啓、中曽根康弘元総理大臣殿、元「慰安婦」への謝罪をー木村公一
    http://oklos-che.blogspot.jp/2016/05/blog-post_23.html

23歳で三千人の総指揮官」という(中曽根)先生の回想録を読ませていただきました。ボルネオのバリックパパンで当時、日本軍「第二設営班主計局長」のお立場にあった先生が、軍慰安所設営に関わったことを次のように証言されています。「三千人からの大隊長だ。やがて、原住民の女を襲う者やバクチにふける者も出てきた。そんな彼らのために、わたしは苦心して、慰安所をつくってやったこともある」(98頁)。

満州、中国大陸、アジア全域、太平洋諸島全域にまで戦線を広げた日本は、兵隊の性欲を満足させ士気を高めるために従軍慰安婦という制度を作り、数多くの現地の女性を従軍慰安婦としたのです。朝鮮人女性もその一例です。まずこの事実を直視することから全ては始まります。軍による強制連行があり、現地の人間を介して日本軍「慰安婦」にしたてたケースもあるでしょう。すべてが強制連行というのは間違いだとか、現地の民間業者が介在したということから、日本軍「慰安婦」問題はなかった、あれは金儲けのための売春であったといいはる人もいるようです。しかしそれは歴史の歪曲であり、日本の植民地支配の過程において「慰安婦問題」が発生したことはもはや、世界の常識です。



日本の裁判所における「事実認定」の重み
このブックレットの著書は、日本での10件の慰安婦裁判の中で認定された「背景事実と被害事実」を網羅しています。いわゆる日本の裁判所が厳格な証拠調べをして認定した「事実認定」です。そして平成5年8月4日、日本政府は内閣官房内閣外政審議室に調査を命じ、「第二次調査広表時の発表文 いわゆる従軍慰安婦問題について」を公表しました。その結果を受け、慰安婦関係調査発表に関する内閣官房長官談話(「河野談話」)が発表されます。これは歴代内閣に踏襲された公式見解で、安倍が「狭義の強制連行はなかった」と言っても結局はここに戻らざるを得ず、これに反することを言う議員には政府は正式に抗議しなければならないのです。しかるに自民党議員の圧力で慰安婦問題は教科書から削除されてきています。

河野談話
「今次調査の結果、長期に、かつ広範な地域に渡って慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したことが認められた。慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは関節ににこれを関与した。」
「慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者がこれに当たったが、・・・官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。」
「いずれにしても、本件は、当時の軍の関与にの下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。」

ブックレットの「おわりに」
「「事実認定したのに、なぜ解決しないのか?」という被害者の叫びに応えることが、今、私たちに求められています。」とこのブックレットは記しています。
この被害者の声を聞かず、日韓両政府は日本軍慰安婦問題の最終決着をつけるべく「合意」をしたのですが、キャンドル市民革命によってその合意を進めた韓国側のパク・クネ大統領は追放され、新たに文在寅大統領が選出されました。

韓国民と文政府は改めて元慰安婦ハルモニの声を聞き、「最終的に不可逆的に解決」とした両政府の「合意」を見直すことになるでしょう。それはトランプの訪韓時の晩餐会にそのハルモニが招待されたことで明らかにされてきています。又「独島エビ」は、竹島が実質的に韓国の施政権下にあることを韓米が承認しているということの象徴なのでしょう。

日本側の反応
しかるに日本政府やマスコミ(産経、読売だけでなく、リベラルな朝日、毎日、及び赤旗に至るまで)野党もまた、両政府の「合意」を評価しています(「問題解決に向けての前進と評価できる」(日本軍「慰安婦」問題 日韓外相会談について 日本共産党 志位和夫委員長の談話 2015年12月29日(火))。

「合意」されたものは遵守すべきだという立場で一貫されており、まず当事者である慰安婦ハルモニたちの声を聴こうとしていません。自公の勝利に終わった衆院選挙の後、野党が日本軍慰安婦問題にどのような対応をするのか、注目です。ちなみに、トランプを招いた韓国での晩餐会で慰安婦ハルモニと「独島エビ」が登場したことを、菅幹事長と日本のマスコミは、軒並み批判していました。

これは、アメリカのサンフランシスコ(SF)において、慰安婦の少女像が公園内で設置されれば、大阪とSFとの姉妹関係を解消すると「脅した」吉村大阪市長及び駐米大使の書簡と同じです。またその吉村市長の対応を支持する大阪市民も多くいるようです。在日韓国人がもっとも多く住む大阪市においてそのような歴史に立脚しない、偏狭なナショナリズムに囚われている市民がいるというのは実に残念なことです。

   2017年10月28日土曜日

   サンフランシスコからの緊急の依頼に対応しませんかーー大阪市長の姉妹

   都市解消の「脅し」に対して

   http://oklos-che.blogspot.jp/2017/10/blog-post_28.html

吉見義明著『日本軍「慰安婦」制度とは何か』(岩波ブックレット 2010)
このブックレットは、ワシントンポストに'The Facts'(「事実」)として掲載された意見広告に対する全面的な反論です(2007年6月14日)。アメリカ下院で採決される日本軍慰安婦に対する決議に反対するために「歴史事実委員会」(屋山太郎・櫻井よしこ・すぎやまこういち・西村幸祐・花岡信昭の5名)が出したもので、この「意見広告は、アメリカの人々の反発を受け、むしろ決議案可決を促進するもの」になったそうですがそれは「アメリカ社会の中に、女性に対する性暴力を許さないとする、強い公論があるから」(4頁)です。

吉見義明氏は歴史学者としてワシントンポストに掲載した5名の「歴史事実委員会」の出してきた5つの「事実」を全面的に完膚なきまで論破しています。
1.強制はなかったか
2.朝鮮総督府は業者による誘惑を取り締まったのか
3.軍による強制は例外的だったのか
4.元軍「慰安婦」の証言は信用出できないのか
5.女性たちの待遇はよかったのか
補論 女性たちは募集広告をみて自由意思で応募したのか

吉見氏は例えば、5のところで以下のように反論します。
・軍「慰安婦」は「性奴隷」制度の被害者ではないか
・当時、公娼制度はどこにでもありふれていたのか
・軍「慰安婦」は将軍などよりたくさん稼いでいたか
ーここでは軍「慰安婦」が受け取っていたのは在来通貨ではなく、軍票であり、「一見、大将の収入に勝るとも劣らない額に見え」るのですが、日本軍の占領した海外の各地の激しいインフレの実態が勘案されていないのです。「1941年12月を100とすると、東京では1945年8月頃までに物価は1・6倍程度にしかなっていなかったのに対し、ビルマでは1000倍を超え、2000倍になろうとしていました。図表は、新京(長春)、京城、台北、東京、ボルネオ、北京、ジャワ、上海、フィリピン、スマトラ、ビルマの物価指数が挙げられていますー
・待遇はよかったのか
ー「軍人ですらたじろぐような軍慰安所で、ベルトコンベアー式に次々とやってくる兵士の相手をしなければならない女性たちの待遇がよかった、とはどういうことでしょうか。」という根本的な吉見氏は疑問を呈していますー
・他の軍隊にもあったのか
・軍「慰安婦」問題は「20世紀における最大の人身取引事件のひとつ」ではないか

おわりにー問題の解決のために
著者は1995年の「女性のためのアジア平和基金」(アジア女性基金)に触れます。「首相のおわびの手紙と、民間募金による償いのお金と、政府出資の医療・福祉支援金」が285名に手渡されたそうです。しかし、韓国・台湾・フィリピンでは「さらに多くの女性たちが受取を拒否」したそうです。
「オランダでは償いのお金は渡されず、インドネシアでは、同国政府の方針により医療・福祉支援金を含め個人にお金が手渡される」ことはなく、「中国・北朝鮮・ベトナム・マレーシア・シンガポール・タイ・ビルマ・東ティモールなどは事業の対象にさえなっていません。」このような実情を記し、何が必要なのかを著者は説きます。

第一:「軍の関与」という曖昧な表現でなく、「多数の女性の名誉と尊厳をきずつけた」主体は日本軍であったことを明確にし、日本軍が多数の女性を性的奴隷状態に置いたことを認めるべき。
第ニ:道義的な責任だけでなく、法的な責任にも認めるべき。
ー強制に「狭義」も「広義」の差はなく、戦前の刑法第33章「略取及匕誘惑ノ罪」が、軍「慰安婦」問題との関連で、(特に第226条が)重要」になるそうです。「国外移送目的略取罪」、「国外移送目的誘惑罪」、「(国外移送目的)人身売買罪」、「国外移送罪」が該当します。
第三:賠償のためのお金は政府がだすべき。
ー民間の任意の墓金では賠償にならず、政府出資の医療・福祉支援金は法的な責任を認めないいわば見舞金であって、賠償金ではないのですー
第四:しっかりとした再発防止の措置をとるべき。
ー実際には、中学の歴史教科書から軍「慰安婦」の記述の削除が進んでおり、政府の公的機関が持っている資料の公開、歴史研究の支援が必要で、施設の保存や、欧米の議会、カナダの下院のように「慰安婦」問題に関して誤った意見には「日本政府が公的に反論」すべき。
第五:女性たちの身体的・精神的被害の医療的措置。
第六:官房長官談話で終わらせず、閣議決定をへた新たな首相声明、国会決議が必要で、「戦時性的強制被害者問題の解決に促進に関する法律案」の成立が望まれる。

「以上の措置が実行されるならば、被害者の名誉と尊厳は回復され、女性に対する性暴力の根絶と、他民族差別の克服への大きな一歩」を進めることになり、「アジアにおける相互の信頼感」を生み、「私たちひとりひとリの人権」と「各個人の平和的生存権が保障されることにつながり」、「私たちの明るい未来のために、日本軍「慰安婦」問題が根本的に解決されることを願ってやみません。」という篤い思いが語られています。

私見
1)上記のブックレットの紹介をしながら私の脳裏をかすめたことは、被爆者の問題でした。つまるところ、広島・長崎に投下された原爆によって被爆者になった韓国人一世とその後生まれた2世、3世の抱える問題と日本軍慰安婦の問題は、いずれも日本の植民地政策による被害者であるということです。従って、この問題は韓国においてもひとつの問題として取り組まれなかればならないということです。

2)日本軍慰安婦の問題は、世界どこにおいても見られる戦時下の女性の人権ともつながり、戦時下でなくとも、女性の基本的人権の問題として受け止められるべきではないでしょうか。

3)また被爆者の問題は、戦後の核兵器による国家の安全保障問題ともつながり、それは被爆者の問題を通して、核兵器による被曝の問題は原発事故による被爆者の問題ともつながるということ、そしてそれは、戦後の植民地のない植民地主義の問題として捉えることによって、反核・反原発・反戦への闘いとして全世界的な市民の国際連帯運動として取り組まれるべきであるという、今後の市民運動のあるべき姿になっていくのではないかと思います。

4)特に、韓国の被曝者たちが、米国の広島・長崎の原爆投下の謝罪と賠償を求める米国での法廷闘争は、まさに反核・反原発・反戦を求める世界の市民が協力しあっていく、もっとも重要な闘いになるという思いを強くもつのです。

参考までに;

被爆者自身による魂の叫びとも言える『被爆韓国人』を読んで

http://oklos-che.blogspot.jp/2017/11/blog-post_7.html


http://oklos-che.blogspot.jp/2012/02/1945747410102002700-hanjeongsun111walk9.html

笹本征男著『米軍占領下の原爆調査』(新幹社 1995)
笹本征男著『米軍占領下の原爆調査ー原爆加害国になった日本』(新幹社)読んで
http://oklos-che.blogspot.jp/2017/10/blog-post_29.html

日本政府が核禁止条約禁止に賛成しなかった理由とその歴史的な背景ーー澤野先生との輪読と勉強会より
http://oklos-che.blogspot.jp/2017/11/blog-post_4.html
韓国のベトナムでの加害行為をめぐって
http://oklos-che.blogspot.jp/2017/11/blog-post_2.html

2 件のコメント:

  1. 何で日本物ではなく、アメリカに謝罪賠償を求めるんだ…。あまりにも無茶苦茶だ。
    日本物による侵略主義・植民地主義の片棒を担ぐ気か。呆気に取られた。呆れたわ…

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  2. どこが無茶苦茶なのでしょうか?広島、長崎への原爆投下はいかなる理由が遭っても正当化されません。ですから、被爆者が米国の原爆投下の謝罪と賠償を求めるという裁判には歴史的に有意義なものだと確信します。

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