時間:2017年10月31日(火)18:30-20:40
場所:多摩市民会館3階大会議室
講演「『成長神話』の崩壊と9条改憲のゆくえ」のレジュメ by 斎藤貴男
概略
日本のジャーナリズムの実態
昨日の斎藤貴男さんの講演はジャーナリストとしての矜持を感じさせるものでした。ジャーナリストには時の為政者との接触ができる特権があり、それを一般市民に伝えていくことをジャーナリストの使命と考える彼は、現状の日本のジャーナリズムを世界最悪だと断定していました。
安倍首相との毎月の会食にどうしてマスメデイアのトップが取材という名目で参加しているのか、取材であればそこで得た情報を公開しなければならないし、取材であれば経営陣でなく、記者が行けばいいではないか、その会食で話されている内容は何か、ということも彼は推測だと断りながら、彼らはジャーナリストとしての特権を使って自分たちが儲けようとしている、2019年に消費者税が8→10%になるとき、食品と新聞を軽減税率の対象(食料品や教育費などの「生活に最低限必要なもの」には消費税を軽減(ないし非課税)とすることで、標準の税率よりも低く抑えた税率)にしてもらうことをオネダリしており、その見返りとして安倍政権の政策に対する批判を抑えるという事態になっているのではないかと解説します。
自民党の改憲のたたき台の内容の例
その一例として選挙期間中、マスメデイアは改憲の中味を伝えなかった、自民党が改憲しようとしている内容を本来は伝え、国民の間でそれを軸として議論をさせるべきであったのではないのか、ということを話していました。そして自民党が公にした改憲のたたき台の特徴を逐次的に細かく解説し、それがいかに危険なものかを説明しました。
例としてあげられた内容
①自衛権の発動を妨げない
②自衛隊を新たに国防軍に変更
③表現の自由については、反権力的なものはだめ
④徴兵制を可能にする
⑤憲法は国家権力の規制ではなく、国民が守るべきことを国家が決める
等
インフォーマル帝国主義
斎藤さんはジャーナリストとしてのしての特権で時の為政者や経営陣と会い、日本の各界のトップが何を考え、どのように社会を変えようとしているのかを直接聞き、その自分の経験談をこと細かく説明・分析して、日本の国策は帝国主義だと断定します。
安倍政権(小泉政権のときからもそうで、自民党としては仮に安倍でなく誰が総理になっても多少の違いがあってもほぼ同じだろうということでしたが)のいう構造改革とは、選択と集中であり、自己責任の名での弱者切り捨てで、力のある者、能力のある者が統治をするという、英国で唱えられ米国で拡がった考え方(社会ダーウィニズム)であり、彼らは本質的には弱者の社会保障ということを考えていないといういことです。
経済界は内需の拡大には見切りをつけ(経済同好会)、海外市場に目を向けます。過剰資本を海外に向け、インフラシステムを輸出して企画から、都市計画、工場の建設・稼働まですべてを受け持ち、海外の資源を確保するのです。そうすると当然、海外の地域住民との間の摩擦が生じる可能性があるので、グローバルビジネスの後ろ盾として欧米と同様、軍事力が必要になる、このことが9条をはじめとした海外での戦争をしていく準備ということにつながるのです。
原発輸出はこの典型です。世界に原発を輸出するのは、日本でも再稼働しているということを示すことで危険でないということを言うためだけです。まさに再稼働はショーケースの働きしかしていないのです。
朝鮮戦争やベトナム戦争の特需で戦後日本は経済復興・発展をしたが、これからは直接、海外での戦争をしてもいいという考えを経済界、政界はもっている、これは帝国主義そのものではないかというのが斎藤さんの主張です。
対米従属と大日本帝国賛美の関係
対米従属と大日本帝国の実現は矛盾せず、トランプはグローバル企業の用心棒を同盟国にやらせばいいと考えるので、キシンジャーたちとは違って日本の改憲を認めるようになってきており、安倍は中国、韓国、東南アジアの領域で大日本帝国ゴッコをしたがっているのではないか、それが産業界の思惑とも一致しているという見解のようです。
また斎藤さんは実質的に在日米軍と自衛隊は沖縄だけでなく、関東においても陸海空軍の司令形態は一体化させており、米軍が始める戦争に日本は関わらざるをえなくなっているという具体例を示していました。
最後に
日本は戦後、本当に平和と民主主義が実現された社会であったのか。日本の戦後の復興は隣国の戦争のおかげであったし、安倍がいう平和でなく、国民の側から積極的平和主義を唱えるしかないのではないか、という結論でした。
質疑応答では、若者の右傾化とネットの関係について応えられました。ネットは本質的に時の勢いのある側につくので、ネットに依存する人は右傾化する傾向になることは避けがたいという判断でした。しかし以前、彼が講演の時に会った問題意識のある青年との対話で、彼が元ネトウヨであったが、ある人からコンコンと自分の問題を教えられそれで目覚めたという話を例として紹介しながら、結局、社会を良くする具体的な妙案はなく、地道であっても、あるべき平和社会を求めてこつこつと小学生に教えるような形で進めるしかない、という結論でした。
付言
斎藤貴男さんが北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)のことにも触れていたことを付け足します。彼は、北の核兵器、ミサイルの実験のことで安倍政権は「国難」と報道したが、その背景については伝えられていない。事実は、朝鮮戦争の停戦協定で新しい武器はもちこまないとされたにもかかわらず、アメリカは核兵器を韓国、沖縄にも持ち込み、有事のときにはいつでも北朝鮮を核兵器で爆撃する体制を整える協定違反を犯していた。
北朝鮮が朝鮮戦争の正式な終結のために平和条約の締結をアメリカに申し入れていたが、アメリカは一切うけいれなかった。北朝鮮が、自己防衛のためにリビアやイラクの経験から、ミサイルと核兵器を開発することは十分に理解でき、それは「当然の権利」と思われる。
以上の内容でしたが、安倍の「国難」の提唱のなかで、また、北朝鮮への恐怖感を植え付けられてきた日本の市民の中で、斎藤貴男氏のこの説明がどのように理解されたのかは、わかりません。
私の個人的な感想
私は斎藤さんの講演の後の質疑応答の時間帯でふたつのことを質問しようと考えていました。それは日本軍慰安婦問題にみられる、政府・野党・市民・マスコミに共通な歴史認識の欠如の問題と、それと関係すると思いますが、天皇制の問題をどう見るのかということでした。後者は山本太郎の天皇直訴、それと今回の衆院選挙で立候補した、元レバノン大使で当選はしなかったもののオピニンリーダーとして注目されている天木直人氏が、今上天皇は9条を守ろうとする平和主義者であり、国民統合の象徴として彼を中心に野党が一致すれば自公に勝てるという主張に見られる、天皇を平和主義者として持ち上げていこうとする、結果的に天皇制を賛美する考えと関係すると思います。
しかし斎藤さんのレジュメの最後に、「私たちの世界観と歴史観が問い直されている」という一文と、講演の中で、日本の国策を帝国主義的であると断定されたのを見て、質問を止めました。これはもう一度斎藤さんをお呼びして徹底的に議論をしないといけないと思ったのです。
講演の概略の紹介で示したように、斎藤さんが現実をどう見るかということでは私はほぼ異議はなかったのですが、「世界観と歴史観」に関してはもっと彼から話を聞きたいと思いました。この講演会を準備してくださった事務局の方々、または私のこの報告を読まれて私と同じような感想を持たれる方と、斎藤さんとの少数でもよいのですが、話し合いの場を持ちませんか。また、彼の講演内容を聴き放っしではなく、それこそ私たちで検証する場が必要ではないでしょうか。
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