笹本征男著『米軍占領下の原爆調査ー原爆加害国になった日本』(新幹社)を読み終えました。著者が個人であることを知りましたが、素晴らしい遺作を残してくれたことに感謝です。日米の資料を徹底して調査し、学術論文でありながら、本人の思想、思いを書き込んだ著書だと思います。
原爆調査は日本の国策としてなされた
第8章 原爆加害国になった日本 では五つの理由があげられています。日本政府は広島、長崎への米国の原爆投下に批判、抗議しながら同日、ポツダム宣言を受け入れ、原爆調査をはじめます。そして占領下では、国策として総力を挙げて占領軍とともに原爆調査を行いながら、その事実を隠蔽し、「来たるべき平和な『原子力時代』に備えるのです。
その平和とは、「原爆という核兵器に守られた「平和」であることはいうまでもない。しかも、今の時代はまさに来てしまった平和な『原子力時代』である。そこに生きる私たちの存在が問われているのである。」この言葉が全てを語っています。
笹本征男なる人物について
私は笹本征男なる人物を全く知りませんでした。彼のことを知ったのは、西川祐子さんの『古都の占領: 生活史からみる京都 1945‐1952』(平凡社)を読み、その中で参考文献として紹介されていたからです。私が笹本さんの著作をブログとFBで紹介したら、意外な人から、大学で一緒であったとか、先輩であったとかということと同時に、若くして亡くなられたということを知りました。
それで検索で調べたところ、笹本さんの背景がわかり始めました。「笹本征男を偲ぶ」(「在韓ヒバクシャ」第55号、2010.6.8の追悼号
(http://www.asahi-net.or.jp/~hn3t-oikw/tobira/kaihou55.pdf)を読むと、笹本さんが急逝されたこと、それも誰も見守る人がいないところで孤独のうちに亡くなられたこと、彼がどれほど真剣に占領下の被爆調査の研究を進めそこから日米の国策に実態、その持つ歴史的な意味を探求し、多くの仲間から尊敬されていたのかということがよくわかります。そういう意味で、この著書は笹本さんの全てであったと言っても過言ではないでしょう。まさに、言葉通り、遺作です。
「来るべき時代」とはなんであったのか?
被爆者の治療に全力をあげないで「来たるべき時代」に備えて原爆調査に日本の国策として全力を挙げてきたことが歴史上隠蔽されてきたこと、ここに、原発体制の本質と福島の被害者の実情を等閑視し、核兵器禁止条約に参加しなかった日本の歴史的な背景、要因があったのではないかと私はこの本を読み感じ始めました。どうしてそのようなことがなされたのか、その意味はなのか、このことを探り明らかにすることすることは残された私たち、反核、反戦、反原発の運動をする者にとって大きな課題です。
被爆者を犠牲にし、被曝を逆手にとって「来たるべき時代」に備えて全力をあげて歩みはじめた日本国家は、天皇を象徴とする国体を護持し現在に至った歴史が著者によって明らかにされました。それは植民地支配によって朝鮮人を戦争体制に動員しながら敗戦後は、外国人として一切の権利を保障せず、韓国人被爆者の権利の保障に一切目を向けなかったという意味で、まさに副題の「原爆加害国になった日本」は彼の本にふさわしいものであると言えるでしょう。
原爆投下はしかたがなかったのか?
笹本征男著『米軍占領下の原爆調査』の最終章です。第八章 原爆加害国になった日本を読み返しています。そうか、アメリカ人が原爆投下はしかたがなかった、それによって戦争がはやく終わったと正当化している、その根拠は天皇の終戦の証書にあったのか。そうすると圧倒的に多くの日本人が米国の原爆投下の責任を問えない、しかたがなかったと思う背景が見えてくるではないでしょうか。
1945年8月6日、9日と原爆投下がなされた後、日本政府は「自らのために最大限利用してきた。それは国家自らが歴史から消してきた国策であった。最大限に利用しながら、放置してきた。その国家責任を、私は新しい『加害責任』といいたい。それは原爆投下国アメリカの加害責任とは異質な責任である。」(285頁)、笹本征男のこの言葉をかみしめたいと思います。
天皇の終戦の証書
戦局必ス(ず)シモ好転セス(ず)世界ノ大勢亦我ニ利アラス(ず) 加之(しかのみならず)敵ハ新ニ残虐ナル爆弾ヲ使用シテ 頻(しきり)ニ無辜(むこ)ヲ殺傷シ惨害ノ及フ(ぶ)所(ところ) 真(しん)ニ測ルヘカラサ(ざ)ルニ至ル 而(しかも)モ尚(なお)交戦ヲ継続セムカ 終(つい)ニ我カ(が)民族ノ滅亡ヲ招来スルノミナラス(ず) 延(ひい)テ人類ノ文明ヲモ破却(はきやく)スヘ(べ)シ 斯クノ如クムハ(ごとくんば)朕何ヲ似テカ億兆ノ赤子ヲ保(ほ)シ皇祖皇宗ノ神霊ニ謝セムヤ 是レ朕カ(が)帝国政府ヲシテ共同宣言ニ応セ(ぜ)シムルニ至レル所以ナリ
戦局は必ずしも好転せず世界の大勢もまた我に有利ではない。こればかりか、敵は新たに残虐な爆弾を使用して、多くの罪なき民を殺傷しており、惨害どこまで及ぶかは実に測り知れない事態となった。しかもなお交戦を続けるというのか。それは我が民族の滅亡をきたすのみならず、ひいては人類の文明をも破滅させるはずである。そうなってしまえば朕はどのようにして一億国民の子孫を保ち、皇祖・皇宗の神霊に詫びるのか。これが帝国政府をして共同宣言に応じさせるに至ったゆえんである。
最後に
本当に惜しい人をなくしました。私たちは昨年、小さな組織ですが韓日/日韓反核平和連帯という運動体を作りました。8月6日には韓国の広島と言われているハプチョンで国際フォーラムをもち、慰霊祭にも参加しました。
私がこの問題に関心を持ち始めたのは、長年この問題に取り組んでこられた市場さんとの出会いがあったからです。私たちは韓国人被爆者2世の抱える問題を知り、彼らと一緒になって米国の原爆投下の謝罪と賠償を求める裁判闘争を米国でおこなうことができるように、具体的に米韓政府と原爆製造に関わった会社を相手に調停申請をした4人の韓国人被爆者を支援したいと考えています。
日本の被爆者も米国での訴訟の原告団に入ってほしいと願っていますし、なによりも、日本の中で笹本さんのように、いかなる理由があろうとも米国の原爆投下は正当化できないということを訴える人たちと一緒に行動を起こしたいと願っているところです。
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