2016年8月3日水曜日

ヘイトスピーチはなくなる方向に進んでいるのか?


法務省の言い分
8月3日の朝日新聞で、1月にあった川崎でのヘイトデモについて、法務省は、川崎に住む崔江以子さんらが申し立てていた人権救済に対して、人権侵害にあたると認定し、デモを「主催した男性に同様の行為をおこなわないように勧告をした」と、発表したそうです。

勧告は、ヘイトスピーチの内容が「崔さんらの人格権を侵害する不法行為で、人間としての尊厳を傷つける不当な差別にあたると認め」、6月にヘイトスピーチ他紙悪法が施行されたことを踏まえ、「不当な差別的言動のない社会を求める機運が高まっている」と指摘しています。もちろん、勧告は「自主的な改善を促すもので、強制力」はありません。

それに対して崔さんは、「差別だからいけないと、しっかりと国が認めてくれたことを、とても心強く思う」と記者に応えています。これをステップとしてヘイトスピーチを取り締まる条例化や、差別禁止法の制定に進むという意味をこめて発言しているのでしょう。

しかし川崎市長は、今以上の条例化を進める意思がないことを表明していますし、自公勢力が三分の二以上を国会で占める状況の中で、私は日本社会が差別禁止法を制定する方向に進むとは考えません。むしろ障碍者殺人事件があったように、弱者への関心はさらに弱まり、格差はさらに広がるでしょう。

都知事選における在特会の躍進の意味すること
私が注目するのは、東京都知事選で朝鮮人の殺害を公衆の面前で叫ぶ在特会のリーダーが鳥越候補の1割に当たる11万票を獲得したことです。これは全投票者の1%になります。この事実は、川崎のヘイトスデモを止めさせた勝利は一時的なもので、ヘイトスピーチはなくなるのではなく、さらに勢いづくのではないかと、私は予想します。

この記事を書いた朝日の記者が東京都知事選の在特会の獲得票の意味することをまったく考慮することなく、法務省の発表を無批判に書いていることに驚きます。こんな勧告が崔さんの喜ぶほどの意味があるのか、残念ながら、私はそのようには考えません。この点に関して私は、制度化・構造化された差別との闘いをせず、ヘイトスピ‐チという表に現れた現象だけに目を奪われてはいけないということを主張してきました。

外国人への門戸開放を実現した川崎市が、実は、実質的に門戸を閉ざした事実
川崎市が全国に先駆けて作った、外国人への門戸開放が、実は在特会の排外主義と通底する考え方の上で作られており、今やそのことに対する違和感やその制度を廃止する運動に一切向かわなくなっているという事実に注目すべきです。排外主義は地域社会の根の処で、ますます広がっていくでしょう。

ヘイトデモを市民力で止めさせた川崎だからこそ、川崎市が始めた、外国人の排斥を日本政府の意思として持ち続けて全国のすべての地方自体にまで実施させるまでになった「当然の法理」を止めさせるべきでしょう。ここに市民の力を結集させるべきではないでしょうか。

「多文化共生」の問題点
川崎市は実は「多文化共生の街」として全国的に有名です。「当然の法理」を実質的に制度化して全国への普及に寄与した背景に、この「多文化共生」が大きな役割を果たしたと私は考えています。この問題は、「原発体制と多文化共生について」(『戦後史再考』 平凡社、2014)に詳しく論じました。また、私のブログの中でも何度も取り上げています。以下、その一部を公開します。

今回の震災で多くの「神話」の化けの皮がはがれましたー「多文化共生」もそうです
http://oklos-che.blogspot.jp/2011/04/blog-post_1905.html

「多文化共生」は、現代の植民地主義のイデオロギーです
http://oklos-che.blogspot.jp/2012/10/blog-post.html

西川長夫さんの「多文化共生と国内植民地主義」を聴講してー朴鐘碩
http://oklos-che.blogspot.jp/2009/02/blog-post_15.html

25日のTwitterでの長時間の論争を公開します(その1)
http://oklos-che.blogspot.jp/2011/02/twitter_25.html

25日のTwitterでの論争の一部を公開します(その2)
http://oklos-che.blogspot.jp/2011/02/twitter.html

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