2016年5月13日金曜日

5年経っても、フクシマの放射能は太平洋に漏れ出し続けているー米PBSニュースアワーより


PBSニュースアワー
5年経っても、フクシマの放射能は太平洋に漏れ出し続けている
記事:ケン・ビュッセル 201639日午後157分(米東部夏時間)

2011311日の(東日本大震災に伴う)津波で深刻な打撃を受けた東電の福島第一原発近くにある、大熊町の帰還困難区域内の津波で破壊された場所で、ボランティアが白鳥に餌をやっている。(写真:花井享(はない とおる):ロイター)

 日本および世界中にいる同僚の助けを借りて、私は福島からの放射能の放出が海洋、海洋生物、および太平洋の両岸に住む人々に与えた影響の全容を明らかにしつつ、過去5年間を過ごしてきた。私たちの洞察を科学者や一般の人々と分かち合う過程で、私は取材の最中、問題に対し過剰に反応する人々にも問題を忘れようとする態度を取る人々にも、原発論争の両サイドの人々にイラつきを覚えてきた。さらに、アメリカ合衆国領海での放射能汚染に関する監視の欠如にも懸念を抱くようになってきた。

2011311日、地震(東日本大震災)と津波の後の日本の荒廃は、(人類にとって)自然の力に対する仮借のない教訓となった。しかし、この地震と津波に続く日々に、福島第一原発では、もうひとつの災害が進展した。いかに人類の活動が、太平洋のような広大な地域といった存在に対し、そして数千マイルも離れたところにいる人々や生き物に対し、明確な刻印を残し得るかを思い知らせ続けたのである。

この原発事故は、事件のもたらした海洋への放射能汚染の全体的放出量からして、類を見ないものである。

以後5年経って、太平洋の日本側からの報告は、以下のようなものである。「全般的に見て、事態は順調に制御されています。汚染水が海洋に引き続き漏れ出すのを防ぐために『凍土壁』が建設され、原子炉から10km内の地域を除くすべての場所で漁業が再開されたことからもわかります。」しかし、こうした画期的出来事は、事実を曖昧にしている。日本人は何十年もの間除染に取組んでゆくことになっているのであり、その過程で数兆円のお金を費やすことになるのだ。日本の話はまた、原発敷地内での高濃度汚染水数百万ガロン(数千トンから数万トン)の引き起こす脅威をも最小評価し、暴風雨および他の自然的事象が土壌および岸辺近くの海洋沈殿物に現在捉えられている汚染物質を移動させ続けるという見込みをも、最小に見積もっているのである。

損傷を受けた原子炉から放出された放射能の80パーセント以上が、ついには太平洋に流れ込むことになる。これはチェルノブイリやスリーマイル島から海洋にたどり着いた放射能放出量をはるかに上回る。フクシマの放射能放出量のうち、ごくわずかは現在海底に存在する。残りは、メキシコ湾流の西太平洋版である黒潮にかき集められて、海へ運び出され、北太平洋の膨大な量の海水に混じり、(そして希釈されたのである)。これらの放射性物質は、主としてセシウムの2つのアイソトープであり、ごく最近になって太平洋東部に現れ始めた。私たちは、2015年に、ブリティッシュコロンビアおよびカリフォルニア近辺の沿岸に沿って、フクシマから発した放射能汚染の跡を発見した。

 
津波で深刻な打撃を受けた福島第一原発から13kmの地点にある、大甕小学校付近に設置されたガイガーカウンターのそばを、生徒たちが歩いている。(写真:花井享:ロイター)

私たちの最も高性能な精密機器でごくわずかに認識可能であるにしても、こうした機器の表す徴候は、そして私たちが太平洋の両側で集めたサンプルの表すずっと多くの徴候は、放射能漏れが継続していることを示しているが、しかし、現在の進度具合では、原発時事故の最初の数ヶ月間に放出されたセシウムの量に等しい量の放射能漏れを起こすには、たぶん5,000年間はかかるだろうということも、指し示している。とはいえこうした調査結果にもかかわらず、海へ流れ込む放射能汚染の全放出量が膨大であるという点において、この原発事故が類を見ないものであるという事実は残る。それにもかかわらず、私たちはしばしば、日常私達を取り巻いている表面に出ない放射能を超える、フクシマが原因の徴候を発見しようと奮闘するのだ。

では、中立の立場はどうか。第一に、海洋における放射能レベルが、原発敷地内を通過して流れる地下水のせいで放射能漏れの継続していることを示しているのに、また、私たちが思うに、暴風雨の後に海洋放射能レベルが増大したのに、フクシマが順調に制御されているなどと言うのは、不正確であるということだ。同時に、福島原発事故がアメリカ西海岸沿いのアザラシやアシカ、クジラ、そしてヒトデの最近の大量死のようなものの原因であるとするのも、福島原発事故が(私たちが認めたいと思うより)もっとずっと複雑でずっと長期間継続して起こっているということを無視している点で、また、間違ってもいるということだ。

海洋放射能レベルが、流れ込んで通過してゆく地下水による放射能漏れの継続を示しているのに、フクシマが順調に制御されているなどと言うのは、不正確である。

最近になって、私はアメリカ合衆国領海へのもっとずっと深刻な脅威を目にするようになった。私たちアメリカ人は百基近い数の原子炉を抱えているが、その多くは沿岸にあるかまたは内陸河川近くにあって海洋に排水している。こうした原発敷地のひとつから発した放射能汚染がどのように私たちの海洋資源に影響を与えるかについて、私たちの理解力を向上させるため、連邦機関が調査研究をサポートする責任があると期待されるかもしれない。しかし私たちの期待に反して、連邦機関のアルファベットを羅列した書類から私たちが受け取る返答は、そのような仕事は「国益に関するものである」が、究極的には「我々連邦機関の仕事ではない」というものだ。結果として、差し迫った一般の人々の関心事に取り組むために、また遠く海に警戒の目を怠らないために、私たちがアメリカ西海岸沿いのデータを構築する援助資金を必要とする場合には、私たちはクラウドファンディングに頼ってきた。

これではもはや不十分である。環境保護庁はRadNetを運営しているが、これは私たちの呼吸する大気中の放射能をモニターするものの、私たちの国アメリカの領海で同様のことをするためには私たちはOceanNetを必要とする。一般の人々を放射能について教育して、扇動的な言葉の使い方および忘却的な言葉の使い方の両方の影響を減らすために、私たちもまた、もっと良い仕事をする必要がある。

幸いなことに、フクシマ級の原発は珍しい。だが、万が一何か同じようなことがここで起こるにしても、私たちが準備のためにできること、すべきことは、もっとたくさんあるのである。私たちは単に幸運を頼んでクジを引く訳にはいかない。その代わりに、災害のすぐあとに続いて起こる大被害をもたらす可能性のある、知識のギャップを埋めるために、私たちはできる限りのことをすべてする必要がある。

フクシマの放射能汚染および除染については、今週末に放映されるPBSニュースアワーのマイルス・オブライエンの番組作品をご覧下さい。

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ケン・ビュッセル

ケン・ビュッセル博士は、ウッズホール海洋研究所(WHOI)で仕事をする海洋放射化学者であり、ウッズホール海洋研究所(WHOI)内に設置された海洋および環境放射能研究所のディレクターである。
(原発メーカー訴訟の会・本人訴訟団の蔦村氏の翻訳による)

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