澤野義一教授の基調報告のレジュメです。
原発違憲論から見た原発メーカーの違法性
2015/10/4
澤野義一
一 問題の所在
①原告主張―原発メーカーを免責している原賠法の責任集中制度は様々な人権を侵害し違憲だとし、製造物責任法や民法(不法行為責任)でメーカーの違法性による精神的損害賠償を請求。
②被告主張―原賠法・責任集中制度の立法目的・手段に合理性があり違憲論に理由なし。そしてノー・ニュークス権の侵害は不明確、単なる不安感で法的保護に値しない。原告請求の具体的事実に立ち入らず、法律論(憲法論)だけで反論。
③私見(試論)―当事者の論議は原賠法・責任集中制度の違憲論議に矮小化され、原発自体(製造・販売・稼働等)の違憲性論を問うことができていないから、東電等の原発企業だけでなく東芝等のメーカーのビジネス行為自体の反社会性や違憲性に議論が及んでいない。
原発稼働を目的とする企業とメーカー契約の反社会性を明確に⇒民法90条は公序良俗に反する法律行為(契約)を無効としているが、公序良俗には非犯罪行為や憲法の価値・原理が含まれる。日本国憲法の平和主義によれば原発は核潜在力で9条違反、人権尊重では平和的生存権・精神的自由を含む人格権等多様な人権侵害、地方自治を破壊する点で民主主義(住民主権)を侵害―人権侵害にとどまらない憲法総体の侵害。
まずは原子力基本法を中心とする原発関連法が違憲。その上で原賠法独自の違憲性を問うことは可。結論的には、違憲の原賠法の適用を排除し(論拠とせず)、製造物責任法や民法(不法行為責任)でメーカーの違法性を問う。
二 原発違憲論
1 前提として原子力基本法等の違憲性
当初立法目的に違憲性認識がなくとも、後に目的に反する諸事実(以下の2・3の違憲性、国内外の原発事故、外国の原発禁止憲法の登場等)が明らかになれば違憲・無効となりうる(違憲審査における立法事実論)。近年の最高裁判例でも使用。
2 原発稼働による多様な人権侵害の違憲性
生命、生存、身体、居住・移動、職業・労働、財産、教育等に関する個別的人権のほか、恐怖と欠乏からの自由、平等権、平和的生存権など。これらの人権侵害は民法では権利侵害の被害・損害として財産的・精神的賠償請求が可。刑法では公害罪、業務上過失致死傷罪等(検察審査会)。国際人道法の犯罪性を指摘する説も。
なお今後、将来世代の国民の権利論は環境や原発問題を考えるのに重要。
3 憲法9条侵害の違憲性
①原発は核潜在力であれば9条が禁ずる「戦力」に該当。また戦争を引き起こす原因となる「構造的暴力」にも該当(ガルトゥングは構造的暴力をなくすことを積極的平和と称す。安倍首相の積極的平和主義と異質)。⇒コスタリカ最高裁は原発容認政令が非武装永世中立憲法に反し違憲無効と判示(2008年)。
②原発政策は違憲の日米同盟の一環ー日米安保条約の軍事面が日米地位協定等で、原子力面では日米原子力協定。2012年の原子力基本法改定で、平和目的に「安全保障」を追加し軍事面が表面化。
4 原発違憲論の意義・課題
①国内面ー行政・刑事・民事裁判に対しての意義。脱原発の法律や条例制定に対しての意義。日米安保・核同盟からの離脱の課題⇒参考としてオーストリア憲法のような非核・脱原発・永世中立。
②国際社会に向けてー原発の国際法的違法性認識を広める課題。国際人権法や国際人道法において原発(稼働)の違法性・犯罪性認識が優位になれば、NPT(核不拡散)条約の原子力平和利用権規定が検討される余地⇒原発輸出入を禁止する原発禁止条約締結の課題、責任集中制度を容認する原発民事責任3条約の検討。前提として、各国内で原発違憲論が広まることが必要。
三 原賠法の違憲性、原発メーカーの違法性
1 まず、原発稼働、推進を目的にする原子力基本法が違憲だとすれば、原賠法も一般的に違憲。
2 原賠法(1961年)独自の違憲性ー立法制定に当たり、①原発事故損害試算報告(1959年)の隠ぺいー国家予算の2倍もあり、公開されていたら原賠法に疑問(納税者の権利、財政民主主義を侵害)。②メーカーの免責規定はアメリカ等の政治的要求(日米核同盟を背景)によるもの。⇒①②現在では立法事実の正当性なし。③メーカーへの賠償請求権の否認は憲法32条の民事裁判請求権侵害。
3 原発稼働が違憲で犯罪性もあるとすれば、原発稼働を目的とするメーカーと原発企業との契約(法律行為)は公序良俗に反し無効で、かつそのような行為から生じた市民に対する損害は違法で賠償責任(共同不法行為責任も)あり。この場合、原賠法は適用排除。
4 原告主張の疑問点―①原賠法の違憲性を論拠づけるためにのみノー・ニュークス権や財産権侵害等を主張するのは弱い。また9条違憲論等がなく、人権侵害論にとどまるのは立法違憲論として弱い。⇒原発違憲論が自覚されていない。②原賠法の適用違憲論や、同法によるメーカーに対する東電代位請求論は不要な立論。
5 被告メーカー(東芝)主張の問題点―①まず、立法者の視点から原賠法の立法目的と手段(責任集中制度)の合理性を述べるだけで、それが違憲でない理由とされる。しかし、上記1や2の原子力基本法や原賠法に関する立法事実論(被告は否定)からは、原賠法の立法目的と手段の合憲性は疑問。②責任集中制度は国際的に広く採用され日本も原子力損害補完条約を本年締結したので違憲でないという主張は、条約優位論により憲法・国内法を無視(憲法98条)。③ノー・ニュークス権を不明確で法的根拠のないものとし、同権利侵害を単なる抽象的な不安感であり法的保護に値しないとの主張は、福島原発事故以降の大飯原発差止めを容認した福井地裁判決によれば疑問。⇒原発稼働の経済活動の自由権より生命・身体・精神・生活権等の総体としての人格権が優位し、危険が抽象的でも事故の可能性のある原発は人格権侵害(学説の「危惧感(不安感)説」による)。
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