北海道の泊り原発に関わっている、「原発体制を問うキリスト者ネットワーク」(CNFE)メンバーの牧野さんから送られてきたメールに、北海道教育委員会が発行した副読本の問題点が記された文章がありましたのご紹介します。かわはらさんとは先週、札幌でお目にかかりました。札幌と函館で多くの原発廃炉の活動をされている方にお目にかかり勇気づけられました。やはりメールだけでなく直接おめにかかり意見の交換をするというのはいいですね。世界が拡がります。
ようやくCNFE主催の下北「核」半島地域スタディ・ツアーの概要がはっきりとしてきました。1月の横浜世界会議で原発基地のある地域社会の問題に目を向け始めてから、企画されたものです。
韓国から脱原発運動に関わる多くの方が参加されるこのツアーは、六ヶ所村、大間を訪ねて函館で大間裁判の傍聴、交流及び札幌、青森の市民との交流を企画するものです。韓国と日本の原発廃炉を求める情報、意見の交換、及び今後の具体的な提携のあり方などを議論していきたいと願っています。FB・ツィター・オクロス通信を御覧になっている方の参加は大歓迎です。6月5日(夜)-9日に日程は決定しました。細部は現地の方と詰めていきます。改めてご報告します。 崔 勝久
とんでもない!文科省副読本「放射線について考えてみよう」の四つの問題点*
かわはらしげお(脱原発出前授業)
○北海道教育委員会が文科省の副読本を、道内の全高校に全生徒分を送付!
文科省が発行した副読本「放射線について考えてみよう」が、北海道教育委員によって全生徒分が印刷され、北海道のすべての高等学校に送られてきました。
この副読本はフクシマ原発事故を受けて、文科省が昨年10月に、小中高それぞれに対応した生徒用の教材と教師用の解説を作成し、全国の学校に1部ずつ送付するとともに、文科省のホームページに公開したものです。A4版カラー印刷で18~22ページほどの冊子です。
実際に作成したのは文科省自身ではなく、「日本原子力文化振興財団」という、いわいる「原子力ムラ」の業界の方々が集まってつくった「原子力政策のプロバガンダ団体」のひとつです。
「文科省の意向は入らないよう配慮」して外部団体に委託したと言っていますが、このような団体に委託したことによって「原子力ムラの意向」がたっぷり入った副読本となり、非常に問題の多いものとなっています。このような問題ある副読本を、北海道教育委員会は、なんと全生徒分を印刷して(道民の税金で!)、北海道のすべての高校に送りつけてきたのです。
この学年末の慌ただしい時期に、駆け込みのように印刷・送付してきた理由は、3月中に北海道のすべての高校生たちに「放射能の安全性」についての「啓蒙」をはかったというアリバイを作って、なんとしてでも今止まっている泊原発1・2号機の、4月以降からの再稼働をはかりたいという「意図」が見え隠れしています。この、とても問題のある内容の副読本を、無批判のまま北海道の全高校生に配布することは、「原子力ムラ」からの「放射能安全神話プロパガンダ」の広がりに手を貸すことになるのではないでしょうか。
この副読本の様々な問題点については、すでに新聞などでも一部報道されていますし、ネット上でも何人もの方が指摘されています。私自身も昨年11月に北海道新聞の記者からのインタビューを受け、その一部が紙上に紹介されましたが、今回の北海道教育委員会の全校配布という事態をうけて、もう一度しっかり
と、この副読本の問題点について、その要点をまとめて指摘する必要性を強く感じました。以下に、その問題点をまとめたものを書きましたので、是非ともお読み下さった上で、各方面への拡散をお願い致します。
○問題点(1)-フクシマの原発事故や放射能汚染による被害についての記述がほとんどない!
まず驚くべきことは、今回のフクシマでの原発事故はおろか、原発自体の写真も図版も、たったの一枚も掲載されていません。そして今回の原発事故の原因やその経過、放射能汚染の原因や現在の状況、その被害の実態などについての説明もまったくありません。わずかに「放射線を出すものが発電所の外に出てしまいま
した(小学版)」「放射性物質(ヨウ素、セシウムなど)が大気中や海中に放出されました」ということが副読本の「はじめに」のページに書かれているだけです。
2年前に文科省が発行して全国の小・中学校に配布された副読本「わくわく原子力ランド」では、オールカラー80ぺージ以上の内容があり、原発についての記述も、写真も図版もいっぱいありました。そこには、原発は「大きな地震や津波にも耐えられるように設計されている」から「絶対安全」と書かれていました
が、この副読本は3・11の原発事故の後、全国の学校現場から忽然と姿を消して、文科省のホームページからも削除されました。
今回の副読本は、その「わくわく~」に代わるものとして作成・配布されたものであるにもかかわらず、なぜ原発についての記述がほとんど無くなってしまっているのでしょうか?もし前回の副読本の記述が間違っていた(ウソを書いていた)のなら、まずはその訂正と謝罪とが必要なのではないでしょうか?
○問題点(2)-「放射能(放射線)」についての説明が一面的であり、不十分である!
その原発の記述のかわりに、今回の副読本では、いっぱいの写真や図版を使って説明しているのが放射能(放射線)の安全性と有用性です。「私たちは今も昔も放射線のある中で暮らしています(小学生版)」とか「放射線は色々なものから出ています!」(宇宙、地面、空気、食べ物、、、)とか「放射線は色々なことに利用されています!」(レントゲン写真、タイヤ、殺菌、、、)というような表現で、放射線(放射能)が身近な存在であることを強調しています。
一方で放射線(放射能)の危険性やリスクについての説明・記述はきわめて不十分です。特に今回の副読本では、放射線のことを説明するために、「放射線は蛍光灯から出ている光のようなもの」というメタファーを用いていることは大きな問題だと思います。これでは放射線の本当の「怖さ(危険性)」は子ども(生
徒)たちには伝わりません。放射線は原子より小さいので、私たちの身体を突き抜ける力(透過性)を持っています。それをわかりやすくたとえるならば、むしろ「ピストルから発射される弾丸」のようなものと言ったほうがよいでしょう。
「ピストルの弾丸」が身体を貫通した時に、その身体を傷つけるように、放射線が身体を突き抜ければ、細胞や遺伝子を傷つけることがあるし、当たり所が悪ければ放射線障害(がんや白血病など)になる恐れがあるのです。このように、今回の副読本の放射線の説明では、その安全性と有用性ばかりを強調していて、そ
の危険性やリスクについての説明はきわめて不十分なものだといえます。
○問題点(3)-「被ばく」についての説明がきわめて不十分である!
この放射線と同様に「被ばく」についての説明も、今回の副読本では、きわめて不十分なものとなっています。まず、小学生版では「被ばく・外部被ばく・内部被ばく」という言葉がまったく使われていません。そして、「被ばく」がもたらす症状や障害についても、「たくさんの放射線を受けてやけどを負ったりがんな
どの病気になったりした事故が起きています」とか「広島と長崎に原爆が落とされ、多くの方が放射線の影響を受けています」とは書かれていますが、具体的な「被ばく」や「放射線障害」「遺伝子への影響」についての、きちんとした説明はほとんどありません。
そして、さらに問題なのは、「一度に100msv以下の放射線を人体が受けた場合、放射線だけを原因としてがんなどの病気になったという明確な証拠はない(小学生版)」として、放射線による健康被害をできるだけ過小評価するような記述をしています。
さらに中高生版の方では、「がんで亡くなる日本人は千人のうち三百人なので、100mvsを受けると、がんで亡くなる人は三百五人になる」として、その上で、ご丁寧に「がんには色々な(他の)原因が重なって起こることもある」という注釈までついているのです。この「100msv以下」という基準は、よく引き合いに出されるICRP(国際放射線防護委員会)の出した試算が元になっていますが、当のICRPも100msv以下でも放射線障害が起こる危険性があることを認めていますし、昨年末にNHKで放映されたTV番組では、ICRPの関係者がこの基準の算定そのものが「科学的」な根拠のあるものではなく、原子力政策を推進するための「政治的」なものであることを認めていました。それでもまだ、文科省はこの「100msv以下は安全神話」を主張し続けるのでしょうか。
○問題点(4)-原発事故が起きたら「心構え」で「身を守る」だけでいいのか?
この副読本では「原発事故」とは書いてありませんが、「放射性物質を利用している施設の事故」が起きた場合についての対応として、それから「身を守る」ための方法と、その時の「心構え」が書いてあります。
もしも「放射性物質を利用している施設の事故」が起きた場合には、「放射性物質が風に乗って飛んでくる」ことがあり、「放射性物質から出る放射線を体の外からと体の中から受けること」があるとして、①放射性物質から離れる、②放射線を受ける時間を短くする、③コンクリートなどの建物の中に入る」などの方法で「身を守る」ことが示されています。
さらにこのような「事故が起こった時の心構え」としては、①自治体や国から伝えられる指示に従うこと、②うわさなどに惑わされないこと、が大事だとしています。しかし、今回のフクシマでの原発事故では、国からの避難指示も二転三転した上に、放射性物質の拡散についても正しい情報が自治体や住民にはきちんと
伝えられず、無用な「被ばく」をさせられてしまっています。特にSPEEDIの情報が国民にきちんと公開され、伝えられなかったことについての文部科学省の責任は重大であるにもかかわらず、その反省もなく、よくこのようなことが言えるものだと思います。
最後にこの副読本のきわめつけは、「時間がたてば放射性物質は地面に落ちるなどして、空気中に含まれる量が少なくなって」いくので「マスクをしなくてもよくなります」とか、「事故が収まってくれば、それまでの対策を採り続けなくてもよくなります」と書いてあるのです。1年たった現在のフクシマの現状を見
て、本当にそのように言うことが出来るのでしょうか?とても信じられません。
○文科省・教育委員会・学校・教師が今やらなければならないこと!
このようなとんでもなく問題の多い内容の副読本を作成したり、これを日本全国全ての学校・児童・生徒分を印刷して配布するお金とヒマがあるのならば、文科省や教育委員会は今もっと緊急にやらなければならないことがあるのではないでしょうか。まずは、これまですすめてきた原子力政策と、教育現場への原子力・
放射能についてのプロパガンダ教育について反省と謝罪をきちんとすべきでしょう。そして、今最も緊急に文科省がしなければならないのは、フクシマの子どもたちがこれ以上無用な「被ばく」をしないために、年間被ばく量が1msv以上の地域に住む子どもたちの疎開・転校をすすめることではないのでしょうか。
さらに学校や教師が今やらなければならないことは、このような問題の多い副読本を無批判のまま、生徒に直接配布してしまうのではなく、まず現場の教師自身がしっかりとした原発と放射能についての知識と理解を持ち、フクシマ原発事故と放射能汚染による被害の実態を生徒たちにしっかりと伝えることです。そし
て、そのための支援と体制づくりに、文科省と教育委員会は取り組むべきなのではないでしょうか。
この副読本の問題点と北海道教育委員会による全生徒への配布について、より多くの国民・道民・市民の皆さんが知っていただき、文科省による新たな「放射能安全神話」のプロパンガンダがこれ以上広がることのないように、各方面からの大きな反対の声が上がることを期待するとともに、それにこの私のつたない文
章が少しでも役立つことを願っています。(拡散希望)
教育の場でこんな一方的なプロパガンダが行われていることはとんでもないことです。
返信削除ありがとうございました。