2010年2月24日水曜日

財政の自立性が地方再生の条件―『地域再生の経済学』(神野直彦 中央新書)より

「豊かさを問い直す」という副題のこの書物からも多くのことを教えられました。地方財政の著者がこの本で説く最も重要なことは、地方自治体の財政的な自立があって、地方再生が成り立つという点で、これは環境とSustainable Community(持続する社会)を強調するこれまで読んだ本では指摘されていなかったことで、よくわかりました。

しかしここは地方財政の研究者にお尋ねしたいのですが、著者は国との関係において、現在の地方自治体は様々な方法でがんじがらめにされていると指摘して、「税制改革のシナリオ」を提唱するのですが、8年前に出されたこのシナリオはその後、どのように進展したのか、教えていただけませんか。或いはその点を説明した本の紹介でも結構なのですが。

この本で触れられていないのは、そのシナリオは地方自治体独自で作成・実行できるのか、中央政府の改革によって可能になるのかという点です。現在、多くの知事たちが言い始めている地方分権ということや、民主党が強調する地方分権という概念は、税制の面では、神野直彦教授の主張する方向で検討されているものなのでしょうか。

この本で気になったことは、アメリカとヨーロッパを二項対立的に捉え、前者を市場主義、後者を反市場主義としている点です。アメリカでもサンフランシスコの例やボストンもそうですか、環境を守るということで市民が中心となったまちづくりの例も報告されています。

工業化からポスト工業化の流れの中で、地方の疲弊の問題、都市における「過疎化」の問題などが位置つけられ、地方自治体が果たさなければならない役割があることと、それと国家の役割が簡潔に説明されています。しかしいずれにしてもその中心に住民のニーズを置くということでは、一貫しています。

文化と伝統を地方再生の中心に据えるという記述をどこでもよく見るのですが、そのたびに川崎では無理かと思っていました。この本で挙げられたドイツの工業地帯のルール地方の例は、あれっと思いました。環境汚染と都市荒廃で有名であったのに、800平方キロという広大な工業地帯に公園のようなものをつくったのですが、それはむやみに工業地体の建物を壊したのでなく、製鉄所の内部をナイトクラブにしたり、巨大な外壁をロッククライミング用に改造したとのことです。著者は、「地域社会の再生は地域文化の再生」でなければならず、「既存の建築物は、その地方の歴史の語り部でもある」と記しています。そう捉えると、川崎の臨海部で残すこと、活かすことは多くあるように思えるようになってきました。

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