2013年3月7日木曜日

福島原発事故と放射能汚染(講演要旨:小川進長崎大学教授)

小川さんから先日講演してくださった内容を簡潔に要約して送ってくださいましたので、公開いたします。私がブログで書いた拙い説明では不十分で、かえって小川さんの講演の趣旨と違ったことを伝達する危険性もありますので、講演内容についてはご本人の書かれたものを読まれ、質問があればコメント欄にお書き下さいますようにお願いいたします。
現実を直視し、運動圏にあっても相互批判をしながら真実に迫れるようにしたいと思います。崔 勝久

珍説か新説か、興味深い話を聴きましたー安倍の再稼働宣言を批判します
http://www.oklos-che.com/2013/03/blog-post.html

福島原発事故と放射能汚染
小川 進
1.      事故の概要
3111446分,マグニチュード9.0の巨大地震が三陸沖で発生し,1550分,大津波が東京電力福島第1原発を襲った.緊急冷却装置が稼働せず,1号炉から3号炉までがメルトダウンし,水素爆発が連続して起こった.その結果,上屋が大破し,大量の放射性同位体が大気中に飛散した.320日,4号炉も水素爆発を起こした.321日,関東平野全域に降雨があり,翌2223日に上水道からヨウ素131が検出された.

2.      黒い雨と担体
黒い雨は泥やほこり,煤などを含んだ重油のような粘り気のある大粒の雨で,放射性降下物の一種で,広島と長崎で観測された.炭素・ケイ素・鉄そして原爆由来のウランが主な成分で,セシウムも検出された.建造物にコンクリートが多用されていた場合,それらの粉塵によって雨は白く見える.チェルノブイリでは炭素が,福島ではコンクリート片と砂が同位体の担体であった.

3.      水素爆発の機構
水素爆発について多くの著者が次式を掲載した.燃料棒の被覆ジルコニウムの反応である.
Zr+2H2O->ZrO2+2H2
この場合,水素は0.072.1気圧にしか達しない.建屋内には,酸素は0.2気圧しかなく,水素爆発はこの圧力を超えることができない.1号炉の水素は0.1気圧,2号炉と3号炉は0.2気圧となる.3000度でも2気圧程度に過ぎない.鉄筋コンクリートを爆破するには,20気圧が必要で,この化学反応では説明できない.

4.      砂が運んだ放射能
原発から1㎞の地点でのモニターにより,水素爆発直後に1本の鋭いピークを示した.主な同位体だけでも20核種以上で,比重の差が最大1万倍あり,複数のピークが期待されるが,単一のピークしか現れなかった.2つの原爆,チェルノブイリでは炭素が主な担体であったが,福島では破砕されたコンクリート片,すなわち砂が担体として放射能を輸送した.過半の放射能を平均粒径1.5mmの砂粒子が運び,爆発後,数時間で落下した.

5.      地形と粗度
阿武隈高原は,標高1000m前後の山で構成される.主な水素爆発は4回に及び,東西南北に拡散した.314日,西に向かった3号炉の爆発では,山に阻まれ,国道に沿って,谷間を放射能は流れた.過半が30㎞にとどまった最大の理由は,水素爆発で上空に到達した放射能は,高度1000m2000mに付近にピークを持ち,阿武隈高原の東斜面に落下したためである.316日,3号炉から南に向かった放射能は太平洋を南下し,茨城県上空から千葉,東京,埼玉,群馬県と神奈川,静岡県に落下した.国道に沿ってプルームが進んだ.

6.      SPEEDIの限界
放射線量のシミュレーションソフトであるSPEEDIは,初期値として,核種,線量,温度,気象条件を必要とする.水素爆発は考慮されていない.事故時に初期値が取れなかったために機能しなかった.砂の粒径の0.5㎜以上は福島県内に落下し,全体の99%以上に相当する.砂の0.5mm以下の微粒子と軽い同位体は県外の100-300㎞圏内に落下した.住民の避難とSPEEDIの有効性が議論されたが,30㎞圏内の落下は爆発後,数時間にすぎず,仮に情報が得られたとしても避難に活かされるのは困難であっただろう.

7.      水道汚染
利根川流域の水道水源の汚染は,降雨に伴い発生した.315-17(水上59mm)321-22(千葉36.5mm)330-31(宇都宮13.5mm)3度あった.このうち,流域全体に降った21-22日の降雨で流域に堆積した同位体が流れ,翌23日に関東の浄水場でヨウ素が基準値を超えた.したがって,大気中に浮遊する同位体よりも地表に堆積する同位体が降雨で流出したと考えられる.特に市街地からの流出が大きかったと推定される.

8.      流出率と除染の不可能性
汚染した地表の除染には,降雨の土地被覆に対する流出の割合「流出率」が関係する.福島県の80%以上を占める林地と農地の除染は極めて困難である.一部の市街地や公共用地を除染しても,翌年には元の線量にまで回復する.永久に除染するしかなく,その効果は半減期による線量の低減を下回る.逆に市街地の除染効果は高い.

9.      皇居の汚染
東京都内の汚染は,皇居,赤坂御所,新宿御苑,明治神宮を結ぶ青山通り北側のグリーンベルトが最大である.都内平均の数倍の空間線量となっており,今後も都内の放射能汚染の供給源となりうる.

10.   リスク
空間線量による癌死は1mSv10000人に1人のリスクである.文科省の発表した全国の空間線量(2012)の癌死確率に人口をかけて,癌死のリスクを求めた.東京,神奈川,埼玉,千葉が福島を上回り,全国で約8万人が癌死をする可能性がある.

11.   原発送電網
原発は地方に対する公共事業であり,その電力を首都圏に送ることよりも,地方への富の再分配が主眼である.福島原発もまた,首都圏への送電を銘打って,実際には地元の雇用や税収が目的で建設された.福島第1原発の事故前の発電量は200kWであり,福島の民生用の需要は約200kWであった.福島第2原発もまた,福島の大口・その他で使用され,両者による東京への送電はなかった.原発の「経済距離」は200kmであり,LNG火力は100kmである.東京の電力は東京湾のLNG火力でほぼ100%賄われている.
参考文献省略.


3 件のコメント:

  1. 福井県の住んでおります。

    質問です。
    専門的なことは判りませんが、次のようなことはどうお考えでしょう。
    ①「鉄筋コンクリートを爆破するには,20気圧が必要で,この化学反応では説明できない」

    では、どう説明できるとお考えでしょうか?それとも、わからない?

    ②「住民の避難とSPEEDIの有効性が議論されたが,30㎞圏内の落下は爆発後,数時間にすぎず,仮に情報が得られたとしても避難に活かされるのは困難であっただろう。」

    30Km内の落下データではないですが、例えば、浜通りの30Km圏内の人達の多くが、飯舘村の方向に逃げて、そこの避難所などで、被爆したと聞いています。SPEEDIのデータが判れば、飯舘村等が危険だとわかり、被爆をさけられたか、もっと低い被爆ですんだと聞いています。

    避難に活かされたのではないでしょか?

    ③「東京への送電はなかった」

    東京までの送電線が繋がってなかったということでしょうか?それとも、発電と福島での消費電力量の比較で、そういう解釈であるとおっしゃっているのでしょうか?

    福井県は、ほとんどの地域で電力は北陸電力。県内の原発事業者は、関西電力などの北電以外の電力会社で、基本、福井県内では、ほとんど消費していないという認識でおります。福島も電力会社は東北電力では?

    また、原発の電力が立地地域の消費でないというのは、物理的に消費電力がどうのという意味ではなく、総合的にエネルギーを支えるという国の政策で、原発エネルギーの生産を原発立地地元が「支えてる」という意味だと思っております。ですから、単に福島の電力消費と福島原発の発電量を比べてもしかたないので、国家の電力消費量と福島原発の発電量を比べ、その意味を問わねば意味がないと思います。

    地方に原発がつくられた理由は、逆に、なぜ原発はわざわざ地方につくるのかという問いからの答えでもあります。地方でも発電を原発以外でやればいいことであり、そもそも、地方は原発などなくても、水力などの資源もあります。火力発電所も福井でも福島でもあります。むろん、北陸電力や東北電力の設備です。

    自分の住んでいるところは福井県でも原発からは離れておりますが、元々あまり豊かなところではありません。昔、隣の町に原発をつくる話がありましたが、地盤などの問題でなくなりました。つまり、昔は、原発のある若狭と貧乏程度では、あまり差がなかったと思います。しかし、ケインズ経済的な公共事業による富の再配分なら、上記にありますように、水力のためのダム建設という手もあります。ケインズ的な富の再配分ではないですが、自分の住んでいるところも、その後、大きな工場ができたり、高速道路ができたり、日本の高度成長にそって、それなりの発展をしてきました。原発を融資が始まった50年代や60年代とは比べ物にならないくらい、豊かになっています。それでも、都会に比べれば、ひどく過疎が進んで地域は崩壊しつつあります。今の地域崩壊は、もともと貧乏で過疎というより、一端高度成長とともに豊かになった後、取り残されていっているというのが実感です。
    原発のある若狭は、自分の住んでいるところとくらべれば、海の資源や観光資源も豊富です。小京都などと呼ばれるように、文化も高いところです。大飯町などは、ごくまれですが、山越えして滋賀にでて関西へ通勤する人もいると聞きます。原発を作って富を再配分する必要などなく、他にいくらでも富の再配分の方策はあったはずです。限に自分の住むところなど、原発がなくとも、人並みにやってきました。

    軍事目的などがからんでいたため、原発を作りたかった。危険な原発は、地方に押しつけるのが得策だと思った。富の再配分とかなんとかは、後から、原発を地方に押し付けるための方便だったと思うのですが?いかがでしょうか?
    ただ、念のためですが、自分は、原発を押し付けられたかわいそうな県民などというつもりはありません。それは、原発という麻薬に染まった人間の言いわけだと思っております。

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  2. 中野です。

    相互批判と、生産的な議論をやっていきたいですね。
    小川先生の主張は、議論や、通り一片の論理に対して
    新たな視点を与えてくれるという意味で意義があると思います。

    地方に原発がおしつけられたという議論は、何度も
    再検討されてもいいと思います。
    事実であっても、議論することで、その認識は深くなり
    さらに、本質的な議論になっていけなと思います。

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  3. 小川さんのような人が大学教授とは驚きます。
    水素爆発についての理解が全く間違っています。
    このような人がデマを広めるんでしょうね。
    ちょっとひどすぎる。

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