2013年3月20日水曜日

ヘイトスピーチを根底からなくすにはどうするのか?

神戸の友人からFBで、2012 年11 月24 日「日本におけるヘイトスピーチ 私たちはどう立ち向かうか」東京集会・大阪集会 人種差別撤廃NGO ネットワーク(ERD ネット)のアピール文の存在を教えてもらいました。

昨今の目に余る在特会のデモにおける差別言辞について朝日新聞は事実関係は報道したものの、「相手が「朝鮮人」「韓国人」というだけでは抽象的すぎて、刑法の適用はむつかしい」と言論の自由との兼ね合いのむつかしさを併記しながら、人種差別撤廃条約第4条の国内での法律化の必要性には明確には言及しませんでした。

2013年3月16日土曜日
日本社会は「韓国人を殺せ」とデモすることを、言論の自由とするのか?
http://www.oklos-che.com/2013/03/blog-post_16.html

そのアピール文はあますところなくよく書かれています。国連にもアプローチして一定の成果をだしていることも事実です。しかし昨今の朝鮮学校への政府、自治体レベルでの差別政策が、日本の政界の明らかな右傾化によって領土問題をはじめとしたナショナリズムを鼓舞する言動と関連し、戦後の民主主義の実態を根底から洗い出すべき契機となった原発問題もまたなし崩し的に再稼働、原発輸出に向かい、憲法改悪まで論議され、自衛隊が国防軍に変更されることまで政府の公約にされる事態になっている今、私は「多文化共生」の立場から差別問題だけを取り上げてその解決を求めるという考え方と運動でいいのかという疑問を抱くのです。

差別されている当事者が連帯し、差別をなくそうというのは悲願であり、私たちの欲するところです。しかしそのような差別をすべきでないという声が当事者からあがるだけでは何事も変わらないと思うようになりました。差別をする側がマジョリティであり、そのマジョリティがマイノリティ問題を生みだす社会の変革をしない限り、自分たちの社会はよくならない、それは自分たちの社会の民主主義、主権在民の内実を問う問題であると認識して動こうとしない限り、差別言辞と言論の自由を等価の問題として論じるほかはないのです。

どのような社会であるべきかに関してどれほど自分のあり方、生き方を賭けたものとして取り組むのか、それをしないことには自分自身の生の充足、自由は得られないという認識に至らないと、それはやはり同情の域を越えないものにものになるしかないのです。

下の良く書かれた、具体的な行動提起を含むアピール文がどうしてかむなしく感じるのは何故なのか、私の考えの一端を記しました。みなさんのご批判を仰ぎます。崔勝久


「日本におけるヘイトスピーチ 私たちはどう立ち向かうか」集会アピール

世界各地においてヘイトスピーチ(憎悪発言)の問題はより顕著になり、重大な人権侵害をもたらしています。日本ではこの問題についての理解はまだ不充分ですが、マイノリティを対象にした暴力的なヘイトスピーチや差別発言の事件は頻繁に起きており、適切な対応や行動が求められています。

そのため、私たちは、2012 年11 月20 日東京において、そして11 月24 日大阪において、「日本におけるヘイトスピーチ 私たちはどう立ち向かうか」と題する集会をもち、マイノリティに対するヘイトスピーチによる差別事件について報告を受けました。

在日コリアンに対するヘイトスピーチでは、たとえば、2009 年12 月4 日に「在特会」による京都朝鮮第一初級学校襲撃事件が起きました。この事件は刑事裁判により有罪が確定しましたが、判決理由には人種主義的動機は反映されませんでした。犯行者たちが事件現場を撮影してインターネットの動画サイトに流したことで、差別による被害は何重にも広がりました。被害者に与えた被害と影響は甚大であり、学校側は民事裁判に訴えました。裁判は現在係争中です。心理的ケアなどを含む包括的救済が必要であるにもかかわらず、被害者は放置された状態です。

被差別部落民に対しては、たとえば、2011 年1 月22 日、奈良県の水平社博物館前において差別的な街頭宣伝事件が起きました。水平社博物館は犯行者である「在特会」の関係者に対して民事訴訟を起こし、2012 年6 月25 日、被告に賠償金支払いを命じる判決が言い渡されました。犯行者たちはこの事件も録画撮影をし、動画サイトに流しました。部落に関連する差別的発言とアジテーションの一部始終がインターネット上で公開されたことで、原告はもとより周辺住民や教育関係者をはじめ多くの人びとにさらなる精神的動揺と不安を与えました。この事件においても、差別発言や差別行為を直接裁く法律がないために、実質的には差別が野放しにされた状態です。

公人の発言について、たとえば、2010 年12 月に前東京都知事は同性愛者に対して深刻な差別発言を公的な場で行いました。発言に対して、性的マイノリティに属する人びとを含む多くの人びとが傷つき憤りを感じ、さまざまな抗議行動に出ました。しかし、発言者からは「謝罪」も「撤回」の言葉もなく、社会的にも深刻な問題であるとの認識は広がっていません。前東京都知事はこれまでにも「三国人」発言や「ババァ」発言など差別的で扇動的な発言を繰り返してきました。こうした公人による差別発言は前東京都知事に限らずこれまでも数多く起きていますが、それに対して国が何らかの措置をとったことはなく、さらにはそうしたことを許さない社会的認識も欠如しています。

これら報告を受けて私たちはヘイトスピーチの問題を以下のように確認します。
1.ヘイトスピーチの本質はマイノリティ集団を傷つけ、おとしめ、排除しようとする言動による暴力であり、人種、民族的出身、国籍、世系、ジェンダー、性的指向、性的アイデンティティ、障がいなどの理由に基づく差別行為であって、社会に構造的に存在する他の差別行為と一体となり、日常的にマイノリティに属する人びとを苦しめている。

2.ヘイトスピーチは被害者の存在そのもの、とりわけアイデンティティを否定するものであるがゆえに、その尊厳、人格権を傷つけ、心身の状態や日常的な行動、ひいては人生全体に悪影響を与え、自死にまで至らせることもある。

3.ヘイトスピーチ、なかでも人種主義的ヘイトスピーチは、一般社会に人種的、民族的マイノリティに対する憎悪、悪意、蔑視を充満させ、平等に基づく平和的、友好的な諸人種・民族間の関係を破壊し、マイノリティに対する物理的暴力、ひいてはジェノサイドをもたらす。

4.ヘイトスピーチについて、特定人に向けられたものについては侮辱罪など現行法においても使えるものはあるが、充分に機能していない。また、不特定人に向けられたものについては、人種差別撤廃条約第4 条(c) の「公の当局・機関による人種差別の助長・扇動を認めないこと」以外には規定がなく、また同条項は日本においてまったく機能していない。

現状報告および確認事項を踏まえ、私たちは国(立法、司法、行政)および地方自治体、および国連に対して次のように要請します。

国(立法、司法、行政)および地方自治体に対して:
1.被害者原告が民事訴訟で勝訴したケースも含む「ヘイトスピーチ」に関係する事件について直ちに調査を行い、2013 年1 月14 日提出期限の人種差別撤廃委員会への条約実施にかかる政府報告書に含めること。

2.条約第4 条(c)項を踏まえ、公人による重大な差別発言による事件の現状報告と政府の見解を、次回の人種差別撤廃委員会への日本政府報告書に含めること。

3.政府および国会は、2010 年の人種差別撤廃委員会の勧告パラグラフ11 にしたがい、日本における人種的、民族的マイノリティの構成および差別の状況について、直ちに全国的な調査を行うこと。調査の項目を含む調査方法については、事前に当事者団体および差別の問題に取り組むNGO と協議し、関係する個人のプライバシーと匿名性を充分尊重しながら、任意の自己認定に基づき行うこと。

4.すべての国家公務員および地方公務員、とりわけ法執行職員に対する人種差別撤廃を含む国際基準に沿った人権教育を実施すること。

5.ヘイトスピーチを含む人種差別行為を禁止する法律および条例を制定すること。
6. ヘイトスピーチに対し、人種差別撤廃条約第4条をはじめとする国際人権法、憲法、民法、刑法などの現行法を効果的に機能させること。

国連に対して:

1. 人種差別撤廃委員会(CERD)に対して、2012 年8 月28 日の人種主義的ヘイトスピーチについてのテーマ別討論のフォローアップとして一般的勧告を作成すること、特に;
 さまざまな形態の人種主義的ヘイトスピーチについての情報収集と、表現の自由を確保しながらも、人種差別撤廃条約第4条により禁止されるべきヘイトスピーチの形態、要素、規制方法を具体化し、
 人種差別撤廃条約のもと、特に差別にさらされやすいとされるグループのヘイトスピーチからの保護について政府がとるべき具体的行為を明確にすること。

2.国連人権理事会に対して、各加盟国における人種差別の規制や防止に関する法的・行政的措置、およびヘイトスピーチ(あるいは扇動)に関する実態とその対抗措置について状況を把握すること。CERDの人種主義的テーマ別討論や国連人権高等弁務官事務所による扇動についての専門家ワークショップを踏まえ、ヘイトスピーチ全般についてのパネル討論を開催すること。このテーマについての独立専門家もしくは特別報告者の設置の可能性も含め、効果的にこの問題に取り組んでいくための行動をとること。

最後に、私たちは次のように決意します。
1.この問題について今後も継続して監視し、国および地方自治体に対する要請を行い、実施させる。
2.この問題については「法律」「社会科学」「個別事件」「市民社会運動」などの異なるレベルで議論あるいは取り組みが行われている。そうした議論や取り組みに参加協力していく。
3.本集会の内容を含めた報告を国連人権機関、とりわけ人種差別撤廃委員会に提供する。さらに、本集会で共有された事件を含み、事実の記録を蓄積していき、人種差別撤廃委員会の日本報告書審査および自由権規約委員会の日本報告書審査(2014 年3 月予定)に向けたNGO レポートに反映させる。
4.上記要請を各関係団体のウェブサイトなどで公表することを含め、この問題について継続して社会に広く訴えていく。

2012 年11 月24 日
「日本におけるヘイトスピーチ 私たちはどう立ち向かうか」東京集会・大阪集会
人種差別撤廃NGO ネットワーク(ERD ネット)




4 件のコメント:

  1. そのような(差別意識を無意識の裡に内包している)自己像は貧しい。それは「自分がいつ何時そのような境遇に落ちるかもしれない」あるいは「自分もほんとうはそのような境遇なのかも知れない」という理由ではなく(それも一義的にはあるが)、「自己像の中に他者を含まない」が故に貧しいのだと思う。ヘイトスピーチによってしか自己を確認できない人は淋しいひとだ。しかし、その認識と社会的な振る舞い・責任は切り離して論ずべきで、立法的な公正が絶対的に図られる必要がある。先ずもって日本は人権条項を批准・遵守すべきである。

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    1. 白楽正志さんへ

      ありがとうございます。
      「その認識と社会的な振る舞い・責任は切り離して論ずべきで、立法的な公正が絶対的に図られる必要がある。先ずもって日本は人権条項を批准・遵守すべきである」。全く異存はありません、その通りだと思います。差別言辞をふりまく人たちを規制することは言論の自由の侵害につながるなどという議論はためにするもので、私は許せないと考えています。

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  2. 集会アピールを基本的に支持します。
    ただし,現在のザイトクなどのヘイトスピーチは,原発事故で動揺し,反原発運動に共感し,行動する市民社会に対する威嚇として,権力機関によって誘導,保護されているはずです。つまり,それ自体が純粋にはじまったのではなく,支配側の都合で強められているものです。

    そして「マジョリティによるマイノリティに対する差別」というのは状況認識として正確ではないでしょう。
    批判するものには暴力も辞さない集団に対して市民が現場で立ち向かうのは困難であるために沈黙しているものを,「みんな(マジョリティ)が差別に同調している」と見るのは不正確でしょう。それこそ支配側の思うツボです。

    「人種差別撤廃条約第4 条(c) の「公の当局・機関による人種差別の助長・扇動を認めないこと」という規定があるならば,日本の「北朝鮮人権法」自体が条約に違反しています。この法律の廃止を提唱すべきでしょう。この法律はまさに,人種差別の助長・扇動を公の当局・機関に義務づけているからです。
    「禁止する法律・条例がない」というよりも「差別を助長・扇動する法律がすでにある」というのが正確です。

    総務省法令データ提供システム
    http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/strsearch.cgi
    拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害問題への対処に関する法律
    (平成十八年六月二十三日法律第九十六号)

    国内法がなくても,国際法自体で法的効力があるのであり,それは政府,裁判所,学説の共通理解とされています。ただし,実際には,日本の裁判所はほとんど認めてこなかったのです。
    「国際法を守れ」という主張が必要ではないでしょうか?

    ヘイトスピーチは今後,相当長期間にわたって悪化させられるでしょう。原発体制を維持し,戦争ビジネスを発展させるために,ヘイトスピーチ集団は,なくてはならない存在でしょうから。くりかえしますが,日本人の多数がこれに同調しているわけではありません。

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    1. コメント、ありがとうございます。
      「ヘイトスピーチ集団は,なくてはならない存在でしょうから。くりかえしますが,日本人の多数がこれに同調しているわけではありません」。はい、私もまた多数の日本人が差別言辞をふりまく人たちに同調しているとは思っていません。川崎においても「原発ゼロ」をめざす運動を多くの日本人の友人と進めてきましたし、これからもさらに広く、川崎での住民主権を目指した運動の拡大、深化をめざしています。

      ヘイトスピーチを繰り返す団体を支配者が利用しているという認識は同じです。その勢力が原発の再稼働、輸出を進めようとしているという認識もまたお持ちのことだと思います。

      指摘された、<「禁止する法律・条例がない」というよりも「差別を助長・扇動する法律がすでにある」というのが正確です。>に関しては、さらに議論を深める必要があるとおもいます。

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