2013年1月3日木曜日

魂を揺さぶる「レ・ミゼラブル」を観て


もう何年になるのでしょうか、私たち夫婦は正月の2日に映画を観に行くことにしていました。最初の頃は寅さシリーズを観ていたのですが、もちろん、興行的には渥美清がなくなりシリーズも終わったのですが、亡くなる何年か前から彼の「老い」が気の毒になったり、ウイーンでの初の海外撮影が気にいらなかったりで、正月映画としてこれはというものはなかなかありませんでした。昨年観た一連のものは最後の「参考までに」を御覧ください。

今年の「レ・ミゼラブル」はあたりでした。既に昨年末から何人かの方がネットで絶賛していたので、それなりの出来は期待していたのですが、期待以上でした。冗漫だが最後の30分がよかったと書いた人もいましたが、私は約3時間、冗漫な印象は受けませんでした。それほど30年の時間をかけた構想で、最高のスタッフ、最高の配役によって完成されたミュージカルだと思います。

まずミュージカルというのは、マイ・フェア・レディ(ヘップバーンは歌っていない)、ウェスト・サイド・ストーリにしても俳優は口パクで演技のときには歌っていないというのが常識でした。しかしこの作品は実際に演技者が歌うのをそのまま撮っているのです。従ってそこには俳優の感情がこめられ、舞台に近い臨場感がありました。あの高音がどうしてあれだけ小さく、感情をこめて歌えるのか、私たちは映画鑑賞の後、カラオケに行ったのですが、それだけでも映画の影響を受けたということがおわかりになるでしょう(笑)。

私たちは子どもを連れて日本での舞台を30年も前に観ているのですが、どういうわけか、ジーザス・クライスト・スーパースターのように印象に残っていないのです。脳裏に残るメロディがなかったせいでしょうか。今回もすぐにメロディが口にでるというわけでもないのですが、全編ほとんど台詞が歌になっており、歌詞(翻訳)もよかったし、なによりも歌唱力が心に響くのです。また原発体制に立ち向かおうとする今の心情にマッチするかのように、社会を変革しようとする当時の歴史状況の描き方に思わず感情移入してしまいます。


有名なジャン・バルジャンが教会で銀の食器を盗んだところ司祭から許されることで自分の生き方を変えるところがあります。キリスト教では罪の悔い改めといい、それは生の方向を変えることだとされていますが、さすがに原作者のビクトル・ユウーゴは政治家でもあり、観念的に愛や罪の許しを描くのではなく、当時の歴史状況の中での人間の在り様を描いているのですが、ミュージカルもまた社会との関わりにおいて登場人物を描きます。

プロデューサーや監督は職業として作品を興行的に成功させなけれならず、社会の動きや人々の求めるものに応えようとするのは当然です。しかし成功は約束されません。やってみないとわからない賭けなのです。彼らは賭けに勝ったのでしょう。そして映画で表したかったことが多くの人に感動を与えたのだと思います。少女コゼットの母親は売春婦としてその身を呪いながら、それでもそのようにしてでも生きていかなければならない気持ちを訴え、その祈りが、「強盗」犯人から市長になったジャン・バルジャンに伝わります。そして少女を連れた逃亡劇の中で、大きな革命の嵐に出会い、革命戦士と恋に落ちた少女の結婚、それを見届けず離れ死にかかるジャン・バルジャンの最後の場面へのつながります。

ジャン・バルジャンを追う監査官は、あの「グラディエ―ター」のラッセル・クロウが演じます。彼があんなに歌がうまいとは驚きです。ジャン・バルジャンを追うラッセル・クロウ演じるジャベールは、ジャン・バルジャンを追い詰めながらも逃がし、自殺をするのですが、そのときの歌がジャン・バルジャンの「悔い改め」のときの同じ曲でした。Who am I と自分のアイデンティティを求め続けたジャン・バルジャンと自己の正義を体現しようとしてきた監査官のアイデンティテイの破綻が自殺につながります。

私もまた、学生の時から50年、在日としてのアイデンティティを求め続けてきた経歴があり、それをナショナル・アイデンティティ(民族主体性)に矮小化してはいけないと思い始めて、原発体制に立ち向かうなかでこの映画を観たことになります。私は最後の場面、静かに嗚咽をこらえ気持ちのいい涙をぬぐいました。

参考までに:
It's a show time!  無声映画の The Artist を観て
http://www.oklos-che.com/2012/04/its-show-time-artist.html

It's a show time! 連休は映画鑑賞へ
http://www.oklos-che.com/2012/09/its-show-time.html

It's a show time! アカデミー賞を獲ったイラン映画「別離」を観て
http://www.oklos-che.com/2012/05/blog-post.html

2 件のコメント:

  1. ペペロンチーノmari2013年1月3日 22:59

    お勧めのレ・ミゼラブル、今日観に行ってきました。素晴らしいミュージカルでした。歌、演技、舞台、そして愛のテーマに深く感動しました。久しぶりに名画に出会えました。

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  2. レ・ミゼラブルかみさんと2人で見に行ってきました。今回見てみて、台詞をすべて歌で行うことを映画という形で行うということについて、どんなものであろうか。と少しの疑問を抱いて帰ってきました。「話す」ことの多様な表現の力と、「歌う」ことの表現の力を組み合わせればと感じた次第です。

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