2013年1月18日金曜日

再稼働の前提は住民の安全確保、この点の議論がなさすぎるのでは


1月16日、参議院会館で開かれた「原子力災害対策指針(防災指針)に関する院集会&政府交渉」に参加しました。詳しい内容は資料2にある坂上武さんの報告を参照ください。

交渉に参加したのは、原子力規制庁原子力防災課の2名でした。主催者が周到に準備下質問に答えていましたが、「防災指針」の根拠法である「原子力災害対策特別法措置法」の法令施工を3月18日にすることを前提に官僚は準備を急いでいる様子でした。福島事故によって地域の混乱はどのようなものであったのかまったく住民へのヒヤリングもなされていない状態のまま、「防災指針」をだすことへの不満が参加者の中で渦巻きました。

中央官僚は目安を出して後は地方自治体の判断に委ねると言うのですが、その判断に曖昧な点があることと、地元の自治体への明確な指示がないなかで実態としては自治体は、その「防災指針」をそのまま形式的に受け止めるようになると危惧されます。

交渉の過程で放射線量と原発からの距離を明示し地方自治体に実行計画を策定させるとの中央官僚の意向が明らかにされました。しかしそこでは実際の避難計画に住民が参加して事故があった場合を想定してその避難計画を策定しなければならないという指示はありませんでした。そもそも原発は事故が起こらないということを前提に建設されたために、周辺住民の避難計画を策定することは国家においても、地方自治体においても考えていなかったのです。

交渉の中では議論されなかったのですが、住民側からはいざ事故が起こった場合、原発立地周辺を通らないと避難できないとか(新潟)、原発が立地地域の周辺の状況からまったく避難することは不可能(浜岡)という意見がだされました。おそらく佐賀などにおいても同じような状況にあることが予想されます。本来であれば、原発建設の許可条件としてこのような避難計画が策定され、避難が困難な場合には許可しないという判断基準がなかったことが問題なのです。

しかし大飯以外は全て原子炉は止まっているのですから、再稼働の条件に確実な避難計画の策定を地方自治体と住民たちとの協議すること、そしてもしその策定が作成されない場合は再稼働は認めないということを原子力委員会は決定すべきなのです(田中委員長がそれらしき発言をしましたが、原子力委員会には法的拘束力がそもそもなく、この委員会は国会で承認されていません)。

私は、住民の安全確保のために避難計画の策定がなくては政府は再稼働は認めない、そのために地方自治体と住民との協議をする場を政府は承認するということを政府に認めさせるように、関係自治体と住民が話し合うことが必要だと思います。

実際にアメリカにおいては建設された原子炉が、住民の安全の確保をする避難計画ができなかったために廃炉に追い込まれた例があるのです(参考資料1)。このことを原発立地地域の住民運動として展開できないものでしょうか。皆さんのご意見はいかがでしょう。

参考資料1:
原発の「緊急時避難計画の実効性と原子力既成行政上の問題」(卯辰昇『現代原子力法の展開と法理論』 日本評論社 第2版 2012)より

「日本では、特に緊急時計画はないに等しい。(中略) 日本においても、住民の権利保護という観点から。地方自治体の緊急時計画への参加を原子炉設置許可申請の要件とするよう(崔ー再稼働の条件にするように読み替えることができるのではないか)原子炉等規制法を改正することや、条令制定を検討する価値があるものと考える」(P32)

アメリカでは1989年、ショーラム原子力発電所は、緊急時避難計画が、立地上の問題(半島突端近くに所在し、避難計画が一方向しかなく、朝夕のラッシュ時や夏のレジャー時における交通渋滞の恒常的発生)を勘案すると、実効的な避難は不可能という理由により、原子炉の廃炉に追い込まれた例がある。

著者は、(「原災法」)の成立によっても、「緊急避難計画の策定が義務づけられるわけでもなく、また、立地上の問題(わが国原子力発電所の多くがショーラム発電所と同様に、半島地域に立地している)から、実効的な住民の保護には十分でないと思われる。」(P 34)

参考資料2:
昨日1月16日、原子力防災指針に関する院内集会と政府交渉が行われました。参加されたみなさんお疲れさまでした。

北海道から安西さん、宮城(石巻)から日下さん、新潟から金子さん、矢部さん、福井から石地さん、島根から芦原さん、佐賀から石丸さん、於保さん、関西から小山さん、アイリーンさん、島田さん、児玉さん、大津さん他各地から、参加いただきました。会場は100名近い参加でした。福島みずほ議員にも顔を出していただきました。ありがとうございました。

◆大飯の署名提出

集会の冒頭で、「もう待てません!大飯原発止めよう」署名の提出がありました。第二次集約分 9,536筆、第一次分と合わせて、14,597筆でした。規制庁の担当者に手渡し、関西、福井からの訴えがありました。

◆防災指針について事前集会

続いて原子力防災指針について、交渉前の集会がもたれました。主催者から、原子力災害対策指針(防災指針)の法的な位置づけ、
・法令施行の3月18日を期限として検討を急いでいること、
・現行法令、現行指針、福島で適用した基準と照らしながら、規制庁事務局が、100ミリシーベルトの被ばくを許容するIAEA基準よりも厳しい基準を提案していること、
・事務局案は、現行指針及び福島事故で適用した避難基準を追認するだけのものであり、福島の実状を踏まえると高すぎること、
・作業を急がせるために、防災重点準備区域(UPZ)の30kmを先に決めてしまったこと、
・事務局案の判断基準では、原発から30~45kmの飯舘村や毎時20マイクロ/時超を記録した福島市(原発から60km)でも避難となり、30kmとはずれが生じていること、
・防災重点準備区域30kmでは余りにも狭すぎ、見直しが必要であること、
・拡散シミュレーションはIAEAの100ミリ基準に基づいて行われており、50ミリや20ミリでも行う必要があること、
上位3%をカットし、到達距離を小さくみせるようなやり方ではなく、最も遠方に達する場合を示す必要があること、
・また現在の規制委員会の検討状況について解説、また立地地域や周辺地域での自治体の動きや直接的なはたらきかけについて、報告がありました。

◆防災指針について署名提出

交渉に先立って、防災指針について、週50ミリ、年20ミリの基準は高すぎる、30kmは狭すぎるとし、見直しを求める署名を提出しました。佐賀の石丸さんからの訴えがありました。

◆政府交渉

交渉は、原子力規制庁原子力防災課の二名が対応しました。

○福島の検証なしでいいのか

避難基準の見直しに際しては、福島原発事故における避難の実態や避難政策の検証が不可欠です。しかし、規制庁は、今回福島で適用された基準の妥当性についての検証は行っおらず、住民からのヒアリングも規制庁としては行うつもりがないことが明らかになりました。ヒアリングは復興庁が行う、3月までにとりあえずつくらなければならず間に合わない、その後、問題が出れば見直せばよいというものでした。会場からは、被災者からのヒアリングを最優先に行うべきだ、それまでは指針を定めるべきではないといった声があがりました。

○UPZ30kmは狭すぎる

30kmの問題については、2つの面から問題になりました。一つは、規制庁事務局案による福島基準との齟齬です。福島基準では、福島原発並みの事故で、原発から45km(飯舘村)や60km(毎時20マイクロを超えた福島市)で避難が必要となります。

この点について規制庁は、30kmの外側でも避難となることがあると認めました。となると、30km以遠の地域についても避難計画を持たねばならず、防災計画が必要となります。金子さんが、新潟で原発から50kmで避難する防災計画を立てた場合について聞くと、国としては否定しないとの回答でした。

これは非常に重要な回答です。現状で新潟県内の市町村が立てている暫定的防災計画では、30km以内が避難実施、30km以遠が避難受け入れとなっていますが、これでは、規制庁の立場に立っても不十分だということになります。各地の自治体に対し、避難準備区域を拡大させるための貴重な手がかりが得られたと思います。

○拡散シミュレーションのデータ開示を要求

もう一つが、拡散シミュレーションです。規制委員会が行った拡散シミュレーションは、事務局案が出る前で、事務局案よりも緩いIAEAの基準(週100ミリ)を用いています。これでおおよそ30kmで収まる(それでも柏崎刈羽などでは40kmを超える地点もあった)ことを示そうとしたものです。しかし、事務局はIAEAより厳しい週50ミリ(事故後数時間)や年20ミリ(1日から数週間:住民の避難はこちらの数値を使うことになる)を採用しようとしているわけですから、シミュレーションも条件を変えて実施すべきです。そうすれば30kmでは収まらないという結論になります。

規制庁は、UPZ30kmの妥当性を確認するためのもので、30km以遠では信頼性に問題がある、という回答でした。自分で実施しておきなら、都合が悪くなると自ら信頼性を低めるという非常に無責任なものだと思います。京都などで、週100ミリの線引きをそのまま避難基準に用いようとしている点については、検討が不十分であることを認めました。

また、規制委員会のシミュレーションでは、上位3%をカットする97%値を採用していますが、これを100%にすると、高線量地域はさらに拡大します。この点については、すでにある100%値のデータを開示するよう求め、開示の方法について検討するとの回答を得ました。

◆事後集会

事後集会では、交渉で得られたものを持って、各地で自治体にはたらきかけをしていこう、連携して、政府を追い詰めていこうと確認しました。また、実際の避難を考えると、半島の先で取り残されるおそれがあることや、雪で閉ざされる冬の場合はどうするのか、川と山で挟まれた地域での避難、高齢者を抱えての避難をどうするのかといった、具体的で切実な問題があり、そういったものを出しながら、避難の非現実性を明らかにし、原発を止めておくことが最大の防災であることを訴えていこうと確認しました。

阪上 武

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