2012年8月13日月曜日

非正規労働者は使い捨ての部品なのかー丹羽良子

日本で非正規労働者のひどい状況が問題になり始めたのはいつのことでしょうか。上野千鶴子さんは、女性が非正規労働者として差別を受けていた時には社会的に大きく取り上げられず、男性そのものが非正規化されて初めて問題になってきたと指摘していました。

私はその話を聴き、しかし女性差別の前に、外国人の就職差別、職場での待遇の差別は当然視されていたことを強く意識しました。もし外国人差別のときにそれが新自由主義の格差社会の始まりだと認識して大手労組をはじめとして外国人差別を問題視する運動をしていたらと思わざるをえませんでした。日立闘争のときに、大手組合は経営陣と歩調を合わせていたことを想起してください。

私は丹羽さんの勇気ある闘いを全面的に支持します。「非正規労働者は使い捨ての部品なのか」、これは数々の差別に遇いながら心折れることなく、その都度闘いを挑んできた丹羽さんの闘いの金字塔です。心から敬意を表します。   崔 勝久

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「地域と労働運動」原稿
2011.12.21/14,12/30/,1/1…1/16./19 丹羽)


~非正規労働者は使い捨ての部品なのか~
「郵政非正規社員の『定年制』無効裁判」

原告 丹羽良子

 私達郵政非正規社員5名は、2011129日、非正規社員の65歳定年制を定めた就業規則無効と地位確認等を求めて、郵便事業会社(鍋倉眞一社長)を、東京地方裁判所に提訴しました。

 私達郵政の非正規労働者(ゆうメイト、期間雇用社員とも呼ばれる)は、6か月毎に契約が打ち切られ、その度ごとに契約更新を繰り返してきました。

しかし、郵政が民営化された200710月に定められた就業規則に「満65歳に達した日以後における最初の雇用契約期間の満了の日が到来したときは、それ以後、雇用契約を更新しない」(「期間雇用社員就業規則10条2項」)という「65歳定年制」が導入され、これにより、全国で、13694人の非正規社員が、20119月末日で雇用を打ち切られました。

【入社時、65歳定年制はなかった】
この就業規則は、私達の入社時にはなく、65歳定年制導入時にも周知はなされませんでした。

今回解雇(会社は「雇止め」と表現)された非正規社員の中には、入社時、「体
が続く限り、いつまでも働いて下さい」と言われた人や、ハローワークでの応募と入社面接時に「この仕事には定年はありません」と明言された人もいます。また、入社時に65歳を超えていた者も存在します。

 私達は、「定年制度」は、終身雇用と年功賃金が保障されている場合において初めて合理性を持つものであり、雇用期間に定めがあり、定年後の生活が保障されない非正規社員への適用は妥当でないと考えています。

 雇用対策法は年齢を理由とした採用拒否を禁止しており、政府の雇用政策基本方針にも、「65歳を超えても働ける社会の実現」と「70歳まで働ける企業」の普及・促進を図る」と記されています。

 また、今回解雇された非正規社員の中には、「生活は成り立つが、働ける限りは働きたい」という考えの者もいます。

【生活できない!被解雇者の声】
 NPO法人郵政非正規労働センターが2011年夏に実施した「65歳定年に関するアンケート」によれば、「65歳で契約が更新されなくなったら、生活はどうなりますか?」という問いに対し、高齢者の32%が「生活できない」、3.6%が「生活保護の申請をする」と回答しています。

 また、「あなたは、今後も働く意欲と体力をお持ちですか?」との問いには
72.1%の人が「体力も意欲もある」と回答しています。

 非正規社員は、正規社員と同等の仕事をしながら、賃金は数分の一という低待遇に押し込められ、その上、6か月ごとの契約更新を繰り返すという不安定な条件下での労働を余儀なくされてきました。

 本来的に、同じ仕事をしながら「正規」「非正規」という名前の違いだけで賃金に数倍もの差があり、「期間満了」という言葉による解雇に怯えながら働くということが許されてよいはずはありません。

【65歳解雇により、職場は大混乱】
 65歳解雇の影響は、対被解雇者のみにとどまりません。全国で、約14,000人ものベテラン非正規職員が一斉に雇止めされたことにより、郵政の現場は大混乱に陥っています。

 400人の非正規社員が働き、そのうちの2割にあたる80名が解雇された千葉船橋支店では、補充をかけても人が集まらず、郵便物の滞留が起き、遂には、タウンメールの廃棄命令が出されました。タウンメールとは、市内全戸に配達する契約で引き受ける消印なしのDMです。全労災差出のタウンメールが7,000通も廃棄されたのです。会社は「余った分を廃棄した」と主張していますが、現場社員は「人手不足で、配りきれなかっただけ」と言っています。

 また、埼玉越谷支店では、同じく65歳雇止めによる要員不足により、超勤上限81時間の36協定違反が続出、それを隠ぺいするために超勤命令簿の裏帳簿を作って、36協定を超える部分を、別の月に付け替えていたとのことです。

 両支店には総務省・労基署・郵政本社監査部から調査が入りました。更に、大坂豊中支店からは、大口クライアントである百貨店から、5日間もの滞留に対する苦情申告が出されたり、担当課長や課長代理、社員、他のゆうパック担当期間雇用社員が総出で配達に回っていても連日残留が発生している実態が報告され、「このような事態の中で、65歳解雇者のうち2人が採用され配達作業に従事しています。65歳雇止めは大失敗であったことはこの一連の事態からも明らかです。(中略)利用者へのしわ寄せは本当にひどいものがあります」との意見が出されています。

 問題は、これらの混乱が、上記3支店のみで起きているとは到底、思えないことです。豊中支店以外にも、65歳雇止め後、どうにも業務が回らず、解雇した非正規社員を再雇用した支店が存在します。しかし、時給は解雇前より引き下げられ、また、この雇用は永続的なものではありません。
 
【はじめに人件費削減ありき】
このように、業務レベルの低下によりお客様にご迷惑をおかけし、現場の社員には36協定違反の超勤・サービス残業等の労働強化を強いてまで、この雇止めを強行する理由とは、何なのでしょうか?

2010年、日本郵政は、郵便事業会社の小包部門を日本通運と統合して、JPエクスプレス(JPEX)を設立しました。
 昨20111月、日本郵政斉藤社長は、
「JPEX承継後の赤字が膨大なものになり、18日までに総務大臣に対して収支改善計画提出を求められている」
500億円~1千億円のコスト削減を計画している」
「計画より超過している人件費カットを実施する」
111日から、社員の超勤禁止及び短期アルバイトの雇用延長を禁止する」
「期間雇用社員を削減する」
との表明をしました。

 そして、20111月に本社人事部が発出した「平成2223年度における人件費削減に向けた取り組み」という文書によれば、この時点で、会社として必要な人件費削減額、▲320億円と、具体的な数字が記してあり、本社は、各支店に対して具体的な数字を挙げ、それに沿ってリストラ計画を立てるよう、指示を出しました。これを受けて、全国の支店で、65歳以上の期間雇用社員の雇い止め通知がなされました。

 すなわち、今回の65歳解雇は、日本郵政本社の指示より、人件費削減を目的として行われた解雇に他ならないのです。

日本郵政が人件費削減の理由とする赤字の大半は、JPEX設立の失敗によるものです。この赤字は、採算性の見通しのないまま安易にペリカンとの統合を行ない、それが半年で破綻、不採算事業の切り捨てをねらっていた日通の戦略でその負債は大部分を郵政がかぶるという二重の判断ミスによるもので、その責任は経営側にあり、社員にはありません。

【解雇攻撃は今回だけではなかった】
 会社による非正規社員攻撃は、今回が初めてではありません。JPEXの始動にあたり、日本郵政は、20108月末(私の勤務支店の場合)、非正規社員に対し、「勤務日数、勤務時間の短縮に関する意向調査」の回答の提出を求めてきました。それは、
 1労働条件の変更に応じます
 2労働条件の変更には応じられません
の、2者択一を迫るものでした。

 会社が提示してきた新しい労働条件は、その時点での労働条件を大幅に下回るものでした。16時間勤務が4時間に変更されたり、週5日勤務が週4日や3日に変更される内容で、賃金は元の額の1/2、または1/3になります。総務部長(企画室長)は、「2を選択しても、仕事を続けられますか?」との私の問いに対し、「それはあり得ない」と回答してきました。会社は、私達非正規社員に、ただでさえ少ない賃金の大幅削減を、解雇をちらつかせながら強要してきたのです。これは、事実上の退職強要とも言い得る暴挙です。

 この時は、政局の変化もあり、辛くも、解雇も労働条件の不利益変更も回避されました。しかし、今回、日本郵政は、就業規則の「65歳定年制」を理由として、再び、解雇を強行してきたのです。
 
【経営失敗の責任をとらない日本郵政経営陣】
日本郵政は、JPEX設立の際、その統合の時期を、中元繁忙期に設定しました。そのことがゆうパックの配達遅延を招き、それにより、お客様離れが起こりました。私の勤務する支店でも、それまで、ヤマト便と分けあっていた、大手ショッピングセンターの中元・年末繁忙期のゆうパック引き受けがなくなりました。その時、鍋倉事業会社社長は、「一部、不慣れな職員がいた」として、混乱の原因を社員に転嫁しました。しかし、現場の人間なら誰でも、統合と中元・年末繁忙期をぶつければ、混乱することは予想できます。その上、この統合は、明らかに準備不足でした。

この統合失敗により、日本郵政は、1日5億、計900億とも1千億円とも言われる赤字を出しました。

その失敗の記憶も消えぬ今回、日本郵政は14,000人の解雇を強行し、又しても、36協定違反(労基法違反)・郵便物滞留・タウンメールの廃棄等の混乱を引き起こしました。この混乱は、国会での質問を招く事態に至りました。混乱が起こってから船橋支店に視察に出向いたり、「タウンメールは全戸に配り終えた」と言い抜けるのでなく、そのような事態を事前に回避するのが経営陣の役割ではないでしょうか。前回の失敗の轍をやすやすと踏んでしまう日本郵政経営陣には、絶句せざるを得ません。

一度ならず二度までも、このような経営の失敗を引き起こした日本郵政と事業会社等郵政グループは、経営の失敗の事実を認め、責任を取るべきです。日本郵政グループの度重なる経営の失敗は、長年かけて培ってきた、お客様の「郵便局」への信頼を根底から揺るがす行為であると同時に、近視眼的思考による愚策によって、結局は、自分たちの首を絞める結果を招いていることを理解するべきです。それこそが、「皆様の信頼にお答えした安心のサービスを提供できるよう努め」(「日本郵政グループの新年のあいさつ」より)ることの第一歩だと思います。

私達は闘います!
元来、働くことに正規も非正規もあるはずがありません。同じ仕事をするのに、何故に、正規・非正規という2種類の雇用方法をとるのかと言えば、それは、非正規という名の下に、低保障・低賃金で雇用でき、勤務時間等の労働条件も会社側が自由に設定でき、極めつけは、会社が不必要と思えば、「期間満了」の一言で自由に解雇できる、会社の安全弁としての労働者を確保しておきたいという、企業の超エゴに他なりません。

これは、労働者を「生きて生活するもの」としてでなく、「いつでも交換可能な部品」として扱うものであり、人権侵害そのものです。

私達は、生存権と労働権をかけて、非正規社員への解雇攻撃に対して、闘っていきます。皆様のご理解とご支援をいただければ幸いです。
以下の通り、第1回公判が開かれます。多くの皆様の傍聴をお願いいたします。
【郵政非正規社員の『定年制』無効裁判】
1回公判
  201229日(木)1310
  東京地裁620号法廷 
(原告意見陳述があります)

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