2012年5月28日月曜日

原発体制とは何なのでしょうかー大飯の再稼働、瓦礫をめぐる攻防の中で考える


1 原発体制とは何か、についての問題提起(植民地主義と捉える)
開沼博が『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)の中で福島の歴史と実態の研究を通して、原発体制とは何かを示唆してくれています。私は瓦礫の広域処理の問題を通して、その問題が生まれる背景を考え、それは原発体制の中での事故によって発生した問題で、そもそもその原発体制なるものは地方と現場労働者の犠牲の上に成り立つ差別社会であること、その差別社会こそまさに植民地主義によって作りだされたものではないか、そしてそれは戦前からの植民地主義の問題と向かい合い克服するべきものとして取り組んでこなかったからではないか、という問題提起をしました。

2 提起に対する反応
それに対して匿名のコメントがあり、私の主張は「根拠がなく」、「公害」と同じというものでした。それに対してTwitterとFacebook上での意見がありましたので、公開させていただきます。他に今は「一刻をようする要請活動の広がりが求められ」「皆さんの関心を、理論的なことに向けたくない」ので私との議論の公開を延期しようという提案でしたので、了承しました。

その他には、「私は、崔さんの体験と原発の問題は深い関係があると思います」、「原発問題で集まった人達で、いろんな議論をすべき」問題であり、「今、日本の民主主義が問われている問題でもあると思います」ということで長文のコメントがありました(本人の承諾の下でブログ上に公開)。

3 再提起ーそもそも民主主義とは何か
私は大飯の再稼働、瓦礫という目の前の差し迫った問題に緊張している今だからこそ、そもそも原発体制とは何か、について議論をし考えを深めていなかければならないと考えます。それは観念的な営みではなく、まさにこれまでの植民地支配の清算を訴えてきた運動と、戦後の原発体制がともに植民地主義によるものであるという共通理解の下でつながり、原発体制に対する運動を地域間、国際間で拡げていくのに要請されているからです。そしてその営みをさらに深めることによって、戦後日本とは何であったのか、アメリカの国際戦略の下での「独立」の実態を見極め、沖縄問題を始めとして今の問題に対処するのに必要不可欠なことなのではないのかと考えるのです。

このことは、日本の戦後の『<民主>と<愛国>』(小熊英二)、及び韓国の民主化闘争の意味を問うものになるように思います。韓国の民主化闘争を通して原発体制が実は着々と作られていたという事実、韓国の民主化闘争の象徴とも言うべき金大中の政権下でも原発が作られていたという事実をどのように捉えるのかという問題につながるように思います。海外の読者を含め、みなさんの御意見をお願いします。

さらに私の問題意識を付け加えるならば、原発体制からの離脱をいち早く表明したドイツについて、それは民主主義の成熟度の問題であり韓国は見習うべきであるという金鐘哲の指摘( 「原子力事故、次は韓国の番だ」ー3・11韓国における講演の紹介 http://www.oklos-che.com/2012/03/3.html ) はそのまま日本社会にもあてはまるのですが、しかしそのドイツ(及びヨーロッパ)の成熟した民主主義は一体、どのような国家であるのか、それは過去から続く植民地主義を克服したものであるのか、という問題につながるように思うのです。

この点はさらに皆さんのご意見を伺いながらさらに考察を深めていきたいと思います。私は、韓国の民主化闘争も国民国家の枠内に吸収されるしかない質、課題をもっているのではないかと考えています。

参考までに:「東アジア史と日韓関係」池明観先生の講演会に参加してー新たな課題の発見http://www.oklos-che.com/2012/05/blog-post_06.html


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Twitter上のコメント
@f_yosizawaこんにちは。平素から植民地主義に関心を持っていると、原発体制は植民地主義以外の何者でもないと分かるのですが、そういう意識のない人に理解させるには、このような対話を続けるしかないのだと思います。

@f_yosizawa そうですね。これまでの過去の植民地支配の清算を訴える人が 必ずしも今の原発反対運動をしないのは、それが植民地主義で日韓両国とも批判しなければならないというように理解していないからだと思いますが、いかがでしょうか?

@che_kawasaki 温度差はあるにせよ、戦後補償運動をしている人には原発問題が同様の問題を抱えているのが分かっていると思います。ただ、労力の問題もあり、運動として両方できる人はなかなかいないのでは?と思います。むしろ、両方できる人が両者の関連を訴え続けることが大切かと。

@f_yosizawa 了解です。私にどこまでできるかわかりませんが、努力したいと思います。よろしくご協力ください。

Facebook上でのコメント
至って明快な崔さんの主張に「公害と同じ」との難癖は、よほど逆鱗に触れたのでしょうか。それとも在日コリアンへの敵意の表明でしょうか。

こういうヘイトスピーチが蔓延する日本の国民であることが恥ずかしく申し訳ないです。

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1 私の主張への批判

26日の私のブログの記事について批判がありました。韓国の大法院(最高裁判所)で画期的な判決がでましたー瓦礫問題に関わる若いお母さんたちへ http://www.oklos-che.com/2012/05/blog-post_26.html#comment-form

瓦礫問題→3・11福島の原発事故→戦後日本の原発体制→原発体制の実態→戦後日本の国是の形骸化→それは、日本社会が植民地支配の清算をせず戦争責任を全うしてこなかったからではないのか?という私の主張は「意味不明」で「根拠がなく」、「根拠の無いモノの見方を撒き散らすのは、公害と同じです」という内容です。この匿名さんが原発や瓦礫のまき散らしに反対している人なのか、どうかわからないのですが、私の方で返事を書きました。以下、公開いたします。

匿名2012年5月27日 21:11
貴殿が投稿されている団体のMLから来ました。
1-5の瓦礫の問題や原発の問題は、未だ良しとしましょうか。
これと6(=植民地支配の清算)を結びつける根拠が全く意味不明なので、どこかで分かり易く説明して下さいね。個人の意見を述べるのは自由ですが、根拠の無いモノの見方を撒き散らすのは、公害と同じです。

投稿、ありがとうございました。ところであなたは私の1-5に関しては、「未だ良しとしましょうか」と書かれていますが、実際のご意見はいかがですか。この点に関してはまったく私の意見に同意できない人も多いのです。なんといっても、再稼働を賛成する人が4割もいますし、瓦礫を全国で引き取り焼却することに賛成する人は多いですから。私は一緒に瓦礫問題に取り組む、若い女性たちを念頭に置いて書いていますので(タイトルにそのように記しています)、まずこの点のコンセンサスがなければ、植民地支配の問題を私が説明してもあなたは納得されないでしょう。

2 社会科学の主張はすべて仮説です。
社会科学の主張はすべて仮説です。「根拠」ということで何を念頭においていらっしゃいますか。誰か著名な学者が言っているとか、雑誌か本で書かれているのかということをお知りになりたいのでしょうか。私が寄稿したものもいくつかありますが、それでは納得されないでしょうね(笑)。もしあなたが瓦礫や原発問題に関して実際に取り組んでいらっしゃるのでしたら、その背景を説明しようとする私に、「根拠の無いモノの見方を撒き散らすのは、公害と同じです」と言う必要があったのでしょうか。「説明してくださいね」で終わってくれればよかったですね(笑)。「人権の実現についてー「在日」の立場から」という拙論を読んでいただいたら私の主張の骨子は理解されると思います。(「在日」の生き方と地域問題への関わり方ー病んでいるのは日本人社会 http://www.oklos-che.com/2012/04/blog-post_08.html )

私の主張をストーンとそのまま受け入れる方もいらっしゃいます。その主張は、瓦礫問題ー3・11福島の原発事故ー戦後日本の原発体制ー原発体制の実態ー戦後日本の国是の形骸化のその背景に関する、私の仮説です。それは例えば、開沼博が『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)の結論部分で、彼の分析を説明する言説として植民地主義という概念を使っているのですが、それと通底する問題意識です。ただしその概念の説明から入るとすればそれだけで一冊の本になるでしょう。

野田正彰は植民地支配との関係で説明していませんが、趣旨は私と同じです。戦争責任と正面から向かい合ってこなかったことが戦後の日本をダメにしていると書いてますね。『戦争と罪責』岩波書店, 1998.8

3 植民地主義について
まずあなたが植民地主義、植民地支配なるものをどのように捉えていらっしゃるのか、私にはわかりませんが、西川長夫の『〈新〉植民地主義論―グローバル化時代の植民地主義を問う』(平凡社 2006年)、『国境の越え方―比較文化論序説』(筑摩書房 1992年/[平凡社ライブラリー] 2001年)あたりを読まれたら、私の論理の展開(背景)を理解されると思います。植民地のない、植民地主義を主張する西川さんから、私は個人的にも大きな影響を受けました。彼は植民地主義の問題を内在化させ、自分自身の問題として捉えます。

上野千鶴子さんは読まれますか。彼女から学んだことも多くあります。「祈り」についてー上野千鶴子さんの退官に思う http://www.oklos-che.com/2011/03/blog-post_8944.html 確認をしたわけではありませんが、西川さんも、上野さんも私の、原発体制と植民地主義とを結び付け、その清算がなされてこなかったことが原発体制を生んだ、そしてその原発体制との闘いは差別をうみだす社会構造にまで切り込まなければならないという主張に関しては、にやっと笑って、否定をされないでしょうね。研究者はそんな言い方をしないものです。小熊英二も書物では決してそのような言い方はしないでしょう。しかしそれは当たり前のことと思っていると思いますよ。

4 現実の闘いが先行する
実際の社会の問題と闘うということは、研究者の説明とか、解説では埒があきません。それは闘いにおいて参考にされるべきものであっても、マルクス主義者がこれまでマルクスの思想や理論を絶対化してきたようなことはもはや許されないでしょう。思想や主張はすべて仮説であり、それは現実の闘いを分析し、追体験する中で生み出されたものです。まず現実があり、闘いがあるのです。あらゆる思想、理論は現実において検証されるべきものだと思います。まず現実の闘いが先行するのです。

ということでいかでしょうか。まだ許していただけませんか(笑)。上記の内容に関して、参考文献なども読んでくださり、また反論をいただけるのでしたら、匿名での投稿、歓迎します。

4 件のコメント:

  1. 匿名の方からのメールです。

    至って明快な崔さんの主張に「公害と同じ」との難癖は、よほど逆鱗に触れたのでしょうか。それとも在日コリアンへの敵意の表明でしょうか。

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  2. 原発問題で集まった人達で、いろんな議論をすべきだと思います。
    原発の問題は、今、日本の民主主義が問われている問題でもあると思います。

    経済施策上も同じです。
    経済的ないきづまり状態の中で、財政の危機や、日本経済の危機を弱いものへの
    押し付けと搾取、さらにそれを基礎に、海外へ打って出ることで存亡をかけていいる人々がいると思います。

    震災や福島事故での棄民政策、消費税、TPP、沖縄に象徴される軍事力の増強(戦える国造り)。
    これを基礎に、海外進出にかけているのだと思います。
    まさに、現代的な帝国主義の施策、政治、経済、軍事、思想なんだと思います。
    そのために、統治の強化、軍備増強、核技術をささえる技術も必要。
    むろん、海外への進出の目玉として原発も必要。

    そのために、ナショナリズムに元ずいた差別、国内的には格差が必要なのでしょう。(格差が必要と言わずに、自己責任とか応益負担などと言い替えていますが)

    TPPや消費税、戦争のできる国造りと同じ戦略の中で、無謀な原発存続が計られようとしています。
    根っこは同じ。
    これを議論し、この歴史の流れを問題にしなければ、原発の安全論議やエネルギー論議だけでは、原発は止まらないでしょう。

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  3. 崔さん

    ご意見をとの要望がありました。

    私は瓦礫・放射能汚染の問題は、自民党政府・東電・原子力有識者等の、原子力村原発推進グループによる、安全神話と管理運営の怠慢が主たる原因と考えます。

    崔さんは、日本の植民地主義の清算が済んでいないのが根本原因との意見と思いますが、私も1927年生まれ、敗戦時18才の戦中派で、戦争の惨禍と不条理は心と体に染み込んでいる者です。

    その立場で植民地支配国民・従軍慰安婦等の経済的補償や人権問題に十分な取り組み
    のない日本は、同じ敗戦国ドイツの戦後処理と比較して、戦後67年、未だに戦争の総括が行われていないのは情けない思いです。一刻も早くドイツにならって戦後処理の清算を済ませ、近隣諸国と友好状態を実現すべきと心から思うのです。

    かかる視点で福島原発事故は、安全神話と純粋にビズネスモデルの崩壊と捉えて、植民地主義との繋がりは理解に至りませんでした。

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  4. 崔さん、ご苦労様です。被差別労働者や植民地経済の問題
    は、日々実感している人がいる一方、なかなか見えない人も
    多いと思います。「見えない」のが、多分一つの特徴でしょ
    う。そこで、あくまで一つの切り口ですが、次のような講座
    があるようです。先日川崎で会った中川さんからの情報です
    けど・・・。

    <(不二越闘争)関連講座>
    「東電のアジア侵略史」(仮)
    講師:村山和弘(第2次不二越強制連行・強制労働訴訟を支
    援する北陸連絡会事務局)
    日時:6月9日(土)18:45~ たんぽぽ舎(千代田区三崎
    町2-6-2ダイナミックビル5F)

    不二越闘争についてはコチラ=>
    http://www.fitweb.or.jp/~halmoni/

    以上

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