2012年1月23日月曜日

韓国の核発電と市民運動ー李大洙(イ・デス)


韓日市民運動交流会2012年1月

韓国の核発電と市民運動

韓日100年平和市民ネットワーク運営委員長
李大洙(イ・デス)

はじめに
1987年6月の民主化抗争から10年後の1997年12月、金大中政府はIMF経済危機の中で登場し、IMF早期終結と韓国民主主義の伸張、南北首脳会談とノーベル平和賞受賞という大きな成果を収めたにもかかわらず、新自由主義的な諸政策による雇用不安と各種の後遺症を残した。続いて2002年12月、盧武鉉政府が登場し、権威主義的政治の解体と国家均衡発展、戦時作戦権の(米国からの)回収準備、社会福祉と教育自治の拡大、済州(チェジュ)4.3事件の謝罪、強制動員真相究明委員会の設置、第2次南北首脳会談開催など諸々の改革的な政策を推進したが、民主党の分裂事態を招くなど選挙介入疑惑で大統領に対する弾劾危機を経験し、続く国会議員総選挙では市民の力で反転したりもした。

2007年12月の大統領選挙では、圧倒的支持により李明博(イ・ミョンバク)候補が当選し、一方的な米国産牛肉輸入に対する国民的なろうそくデモによる抵抗、ニュータウン開発と4大河川事業、親財閥政策と金持ち減税などの政策を推進し、社会福祉の縮小、金剛山(クムガンサン)観光の中断や天安(チョナン)艦爆沈と延坪島(ヨンピョンド)砲撃などの軍事的緊張、中産層の解体と貧富格差の拡大がなされている。巨大中国登場の中で、新しい冷戦の雰囲気が醸成されているが、一方では北アフリカと中東での民主化の風、ウォール街の占領示威を契機として全世界的に広がる99%運動は、変化している世界での新しい局面となっている。ヨーロッパ市民運動から出発した緑の党は、脱原発運動を促進する先駆的役割を果たしており、韓国でも創党が推進されている。

一方、双龍(サンヨン)自動車と韓進(ハンジン)重工業での解雇反対闘争は、国民的な共感を受け、大企業の不道徳性を浮き彫りにし、「労働者の生存権が尊重されなければならない」という、重要な社会的合意を形成した。またフクシマ以後、ドイツ、スイス、イタリアなど先進各国は脱原発を表明し、具体的には2020年または2030年と原発閉鎖時期を明らかにしており、今後の全世界的な脱原発運動に青信号が点ったといえる。

1.選挙連合の試みと労働-市民連帯の可能性
2009年4月、人口1,200万人の京畿道(キョンギド)教育監(日本の教育長に相当)補欠選挙で、市民団体と野党の支援による選挙連合を通じて、進歩的なキム・サンゴン教育監が当選する成果を成し遂げた。李明博政府の執権以後、初めて政治的勝利と変化の可能性を見せたということを意味する。2010年6月、地方選挙での野党連合の躍進、2011年10月のソウル市長補欠選挙での朴元淳(パク・ウォンスン)候補の当選、そして「百万民乱」、「革新と統合」(市民団体の名称)などの既成政党外の政治運動が民主党と統合して民主統合党(韓国労総の支持)を結成し、統合進歩党(民主労働党、国民参与党、進歩新党の一部、民主労総の支持)の結成を通じて、韓国政界が再編されている。あたかも、地球のマグマが地表面を突き抜けて溶岩を噴出するようである。

特に2010年6月の地方選挙と、2011年10月のソウル市長補欠選挙を通じて、野党の躍進の中で地方自治時代の基盤が強化され、住民参加の活性化、市民の政治的覚醒の拡大、半額授業料を主張して高額の授業料と金持ち大学の既得権化を拒否する若年層の政治関心と参加の急増、権力に屈服するKBSやMBCなど公営放送の限界の中で、ポッドキャスト(PodCast)1位の「ナ コムス(私はセコイ)」(訳注)の登場とSNSの急速な拡散と影響力増加とが、相互に影響を与えながら進行している。一方、釜山の韓進重工業の解雇に対抗し、クレーンに籠城中であったキム・ジンスク氏を支援するための希望バスの登場は、国民的共感を得て、政界が韓進会長の証人喚問などで問題を追及する中、韓進重工業解雇労働者の復職に関する合意が成立し、労働運動家キム・ジンスク氏の309日間のクレーン籠城が終了した。
(訳注) 「ナ コムス(私はセコイ)」の「ナ(私)」は、李明博や既得権層を指し、彼らの内実を鋭く風刺する PodCastインターネットラジオ http://mozoh.tistory.com/423

平沢(ピョンテク)の双龍自動車解雇者とその家族の相つぐ自殺という現実から登場した「希望のテント」、自営業の没落、貧富格差の加速化、社会葛藤の増幅、政治的不満の急増によって政治的な激変が予想される。無償給食住民投票の不成立によるオ・セフン ソウル市長の辞任で実施された10月の補欠選挙において、ハンナラ党議員補佐陣の選挙管理委員会のホームページへのDDos攻撃(訳注)、ハンナラ党の全党大会での「金封筒」散布事件などで、ハンナラ党は党解体という絶対的な危機状況に陥っている。

(訳注)計画的なサーバへの集中アクセスによって、サーバをダウンさせること。投票日当日の朝に実行され、これによって投票所の場所を知ることができなくし、若者たちの投票率を下げようとした疑惑がある。
一方、チュニジア発の市民革命が北アフリカと中東の民主化を促進させている。そして、米国ニューヨーク・ウォール街占領デモの拡散は、今日の知識情報化社会においてSNSを通じて急速に広がっている。情報通信と交通の発展の基礎の上で可能になったのだ。既に、20:80の社会から1:99の社会に変わっている今日、世界が68年革命以後、不道徳な金融資本の象徴であるウォール街占領デモと並び、韓国の「私はセコイ」インターネット放送の威力は、もう一つの世界的関心事になっている。

2.福島原電事故の影響と原発輸出
2011年3月11日、福島原発爆発の初期には、(韓国では)大々的な報道を通じて衝撃と緊張感が造成された。そして、ソウルの一部地域で放射能物質が含まれたアスファルト問題が露見し論議が続いたが、初期に政府と原子力安全委員会では「安全で問題はない」という発表で一貫し、さらに進んでUAE(アラブ首長国連邦)への原発輸出の成果を誇示した。さらには、原発ルネサンスを標ぼうし、「原発を成長産業として育成する」として、脱原発時代と逆行している現状だ。最近では、(フクシマ以降世界で初めての)原発追加建設候補地として江原道の三陟(サムチョク)と慶尚北道の盈德(ヨンドク)を選定した。

韓国は、東海岸の蔚珍(ウルチン)、月城(ウォルソン)、古里(コリ)と、西海岸の霊光(ヨンガン)に原発団地が作られており、総電力生産量の30%以上をまかなっている。特に、1978年4月建設された釜山広域市張機(チャンギ)郡にある古里原発の場合、寿命延長と老朽部品交替の不正が発覚し、老朽原発の閉鎖要求が強まっている。隣接した、360万人が生活している釜山(プサン)、110万人の蔚山(ウルサン)での活動が本格化している。中央集権的な朴正熙独裁政権下で、米国の支援と牽制の中で、1970年代から原子力発電所建設が試みられ、一方では核兵器開発との関連疑惑が絶えず提起されてきた。大量の電力を基盤とする産業構造、電気の過度の使用が日常化された状況、李明博政府によって気候温暖化の代案として提示されることさえした原発について、深刻性の認識はまだ低い状態だ。

3. 韓国の脱原発運動の再始動
環境運動レベルでは、脱核・反核運動が90年代から展開されてきたし、原発候補地域を中心に原発建設反対運動が地域毎に行われてきた。一方、核廃棄物処理場の設置反対運動は、西海岸の安眠島(アンミョンド)と扶安(プアン)で阻止する成果を上げたが、中央政府の主導で慶州(新月城)廃棄場設置が決定されてしまった。慶州は新羅の首都という長い歴史を持っているが、政治的には保守政党の基盤である嶺南(ヨンナム)地域にあり、遅れた地域という特性がある。しかし福島原発事故以後、慶南・釜山の古里発電所をはじめとして、地域毎の原発反対運動や、環境運動との連帯、関連団体を中心として脱核連帯運動が幅広く出現している。

古里原発再稼働中止を要求するバスツアーを進行し、全国的な関心を集めることもした。その後、各界各層へと広がりを見せ、脱核エネルギー教授の会をはじめとして、2012年1月中に脱核法律家の会(ひまわり)、核ない世界のための医師会(反核医師会)、地域レベルでは京畿道の市民社会団体を中心に「1万人宣言」の試みなど、各種の宣言と連帯活動が進行中だ。一方、民主統合党は「原子力発電所の再検討」を綱領で決定したが、まだ具体的な方案を提示していない。最近では、朴元淳ソウル市長が、エネルギー使用の低減および再生可能エネルギーを広める政策を通して、原発1基分の電力代替計画を発表した。

4.韓国の緑の党創党の準備と期待
90年代からの緑の党についての関心と、この間少しずつ進行してきた緑の党創党準備が、福島原発事故を契機にはずみをつけ、2011年10月30日創党準備委員会が発足し、5カ所以上の道・広域市で各1000名以上の党員を集める創党を目標に活動中だ。脱核と脱土建を前面に押し出し、11月5日の京畿緑の党創党準備委員会を皮切りに、釜山、ソウル、忠南(チュンナム)、済州(チェジュ)などで広域地区党の創党準備委員会が活動している。2012年2月の創党(法的には5月初めまでが期限)を目標にし、1月中旬現在1800名以上の党員を集めた。6ヶ月内に、党員1000名以上の5カ所の地区党が存在してはじめて、中央党を創党できる現行政党法の敷居を越えられるか否かがカギだ。

創党と2012年4月の国会議員総選挙への参加を通して、院内進出(2%で政党維持および国庫補助金が可、3%得票で比例1席)を当面の目標にして活動をしている。現在準備中の綱領は、地球緑の党憲章が提示している生態的な知恵、社会正義、参与民主主義、非暴力、持続可能性、多様性尊重などの価値を基盤として、韓国の現実に合うように修正補完する方式で準備している。緑の党員は、特に若い層と女性の参加が多い。そして、全世界的なネットワークを整えている緑の党を通した、アジアと地球的市民連帯、政治連帯の活性化を期待できると思う。

5. 反李明博選挙連合形成と朴元淳ソウル市長の当選による変化
去る2009年4月の京畿道教育監補欠選挙での反李明博の民主的市民候補の当選と、2010年6月地方選挙での野党の躍進を通じて、地方自治が一段階発展する様相を呈した。争点化した学校無償給食問題の投票無効によって行われることになった、2011年10月26日のソウル市長補欠選挙で、市民運動出身の無所属・朴元淳市長が当選した。既成政党が候補を出さずに支持する選挙連合を通した、ハンナラ党vs反李明博市民連合の対決構図は、いわゆる日本・東京の「国立市長選挙方式」でもあった。

市民運動の政治参与と既成政党の限界と変化の必要性を提起しており、2012年国会議員総選挙と大統領選挙の様相を予告することでもある。民主統合党と統合進歩党の政党間の統合をもたらし、選挙連合の必要性を確認させてくれ、この過程で自らの躍動性と国民的関心を触発する国民参与型選挙戦という新しい試みをしている。朴元淳ソウル市長の当選後、ソウルでは無償給食の全面施行と拡大、市の非正規労働者の正規雇用、市民参与の拡大、漢江再開発などの土建経済の中断、原発1基の電力代替計画発表など、大きな変化が表面化している。緑の党(準)は、このようなソウル市の計画を積極的に歓迎し、追加的な方案も提示してきた。

6.21世紀 脱核の意味
米国による原爆開発と広島と長崎への原爆投下、それに続いてソ連が原爆を開発することによって、人類は原爆の時代に本格的に突入した。そして冷戦が激化し、東西両陣営間の武器開発、特に核兵器競争は水爆開発につながり、さらにいくつかの国家が原爆を保有することになり、米ソ間大陸間弾道ミサイル開発と配置など、軍事的緊張を拡大していった。そうした軍備競争の過程でソ連は敗れ、ソ連邦は解体されてしまった。

原子力の平和的利用という名目で始まった原子力発電所建設は、貧しい辺境地域に建設されることが一般的だ。そして、原子炉冷却のため原発は海岸に設置・運営されてきた。人類共同の資産である海が、深刻な危険に直面することになる。そうした海洋汚染は食物連鎖を経て、人間の食卓に影響を及ぼすことになる。そして、貧しい農民と漁民らが原発に就職したし、あげくの果てに、原子力発電所事故が起これば特攻隊として投入されることにさえなった。首都圏または大都市圏vs農村・漁村周辺地域という対比的関係を形成することになる。そして、都市と農漁村という収奪的関係を形成することになる。原発が設置・稼動する地域は、中央政府の補助金によって財政充当がなされることとなり、地域の自活力を喪失させ、地域の経済力を支える内包的な自らの産業基盤を持てなくなる。こうして生産された電気は、都市と産業地域で使うことになる。2次世界大戦後、冷戦と体制間競争の手段となった核兵器の廃絶と、大量生産と大量消費を可能にすることに寄与してきた原子力発電を中止し、21世紀には平和な地球のための持続可能な発展方式への転換が必要だ。

原発依存は、石油依存文明の危機からの転換とともに、人類の新しい挑戦となっている。文明的な転換が必要だという主張が大きくなっている。石油に依存する都市産業社会は、派手で豊かな繁栄と、便利な生活が普遍化しているが、その「繁栄」は先進一部国家の特権集団だけに付加集中してきたし、その少数者は金融資本主義の発展とともに「1%勢力」となり、その危機とともに「99%」からの挑戦を受けている。

7.韓日関係の新しい局面
2011年8月、韓国憲法裁判所で「日本軍『慰安婦』と原爆被害者問題解決に向けて、国家の努力不足は違憲」という判決が下され、外交通商部は日本と交渉することを要求されており、李明博大統領も野田総理との韓日首脳会談で「慰安婦」問題解決を促すほどになった。1000回の挺身隊水曜集会を記念して日本大使館前に少女の像も建設されたことは、清算がなされていない過去の歴史によって現代の困難がもたらされるという事実を確認している。

一方、盧武鉉政府下で進行された、韓日会談文書全面公開を契機に、1965年韓日協定の再検討(源泉無効)を要求する運動も登場している。経済成長を基盤とする中国の急激な浮上の中で、米国、日本、韓国(南韓)を一方の軸に、中国とロシア、北朝鮮(北韓)をもう一方の軸として対立し、新冷戦的な秩序が東北アジアに形成されているという憂慮が大きくなっている。東アジアは長い間、歴史と文化、相互交流の伝統を共有してきたが、時には戦争と植民地支配で綴られた時期もあった。そこで、歴史問題が困難に陥らず、経済的利害関係や国家の利己主義を越えて、東アジア共同の平和な未来を構想し、実践できるようにしなければならない。脱核のための市民連帯は、新しい東アジア平和共同体を形成するのに重要な方案となるだろう。

8.脱核連帯を通した東アジア平和の可能性
原子力発電所は、個別企業次元では推進が難しい超大型事業であり、強力な権力集団あるいは巨大な政治・経済・軍事複合体(核カルテル)によって推進されてきた。核発電(原発)と核兵器に依存する危険な社会を克服するためには、核カルテルの解体を含んだ持続可能な発展を企図できる民主的で平和的な政治権力の登場が重要だ。そういう政治権力の登場は、市民の覚醒と組織化された政治参与を通じて実現することができる。

韓国は2012年4月の国会議員総選挙、12月の大統領選挙が予定されており、政治的な激変が生じると予想される。これまで李明博政府下で進行されてきた、各種の土建政策が挑戦を受け、財閥と検察改革を要求する国民的要求が巨大な流れを形成している。福島事故以後、日本全域で起こっている大衆的な脱原発・脱核運動は、新しいだけでなく大きな流れを形成することになると期待される。日本だけでなく、原発に依存している東アジア諸国家の市民たちの連帯と、さらに選挙など民主的な政治的意思決定の過程を通して、国家的次元の脱核政策へと転換されなければならない。

チュニジアのジャスミン革命の火種が北アフリカと中東地域に波及し、民主主義と人権が実現される方向に進む事例を生き生きと見せている。最近、中国広東省の農村地域でも、地方政府権力者らの横暴に対して戦った農民たちが勝利をおさめ、周辺地域に広がっている。あらゆる戦争を体験したヨーロッパの様々な国々が、ヨーロッパ連合(EU)という経済的・政治的統合体を形成することができた経験を教訓にしなければならない。難しい過程はあるが、現在の人類の集団的進歩の一つの姿が、ヨーロッパ連合を通じて成し遂げていることを見てとれる。そして、米国とヨーロッパの支配を受けたラテンアメリカでの、国家連合の摸索のための試みにも、やはり関心を持たなければならない。

終わりに
韓国と日本の市民運動は、地球化の地方化と、知識情報化社会が同時的に進行している21世紀に見合った、多様な市民運動を展開している。一次的には、該当国家と地域を中心に進行するが、挺対協の示威をはじめとする歴史清算のための連帯、そして今後の「まち作り」、特にその中でも社会・経済的基盤を強化することが可能な市民運動レベルで共同して接近しつつある。韓国の場合、協同組合基本法の制定、協同組合の拡大と社会的経済の活性化などを摸索し推進している。

そして、地域での市民力量の強化を支援する韓日市民の自治ネットワークの必要性が増大している。特に2012年は、全世界的に政治的変化が大々的に推進することが可能な選挙の年だ。地球的次元での民主主義と人権、脱核平和を実現できるかどうかの次元での市民連帯と協力が切実だ。そうした中で、1月14-15日に開催される横浜脱原発世界会議に続き、3月23-24日「韓国のヒロシマ」として知られる陜川(ハプチョン)で開催される「非核・平和大会」は、こうした歴史的流れと市民運動の発展により、韓日市民連帯からさらに飛び出し、東アジア脱核平和市民運動創出のひとつの契機となるであろう。

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