2011年12月13日火曜日

「慰安婦」問題での政府の不作為を違憲とした、韓国の憲法裁判決定の意味すること

12月12日、川崎市の議員会館で「川崎から日本軍『慰安婦』問題の解決を求める市民の会」の学習会があり、弁護士の大森典子さんのお話を伺いました。大森さんは中国人「慰安婦」訴訟弁護団団長で、『歴史の事実と向き合ってー中国人「慰安婦」被害者とともに』(新日本出版社)などを出版されています。
大森さんのレジュメに沿って講演内容をご紹介します。

1.韓国憲法裁判所のしくみ
韓国の憲法裁判所は日本とは異なり、通常裁判所から独立した存在で、違憲問題が取り扱われるとき、その判断を求めた裁判所に判断をだすようになっています。その決定・判決には法的拘束力があり(憲法裁判所法75条)、政府はその判決に従わなければなりません。

2.8.30決定の背景
今回、韓国政府に対して、政府は「慰安婦」問題に対して公権力の行使をする「作為義務」を負っているのであり、「新しい手続き」をしてこなかった「不作為」に対して違憲の判決を今年の8月30日に下しました。

これまでは日韓両政府とも、1965年の日韓基本条約の請求権協定によって、「両締約国は、それぞれの国及び国民の相手国および相手国国民に対する財産、権利、利益および請求権に関する問題が完全かつ最終的に解決されたことになることを確認する」(2条1項)と主張してきました。日本政府はさらにそのことを徹底するために、「請求権協定の実施のための特別措置法」(1965年法律第144号)を制定しています。第一条 大韓民国およびその国民の財産、権利、利益は請求権協定署名の日に消滅したものとする(請求権協定には、「財産、権利、利益および請求権」とあるのですが、この法律には最後の、「請求権」が抜けていることに注目)。

日韓の「請求権協定」の正式名称は、「大韓民国と日本国間の財産及び請求権に関する問題の解決と経済協力に関する協定」になっていて、その第一条では、「日本は韓国に3億ドルの無償援助と2億ドルの有償援助を行う」となっています。即ち、本来「請求権」と「経済援助」という別々のものが一緒になって、「抱き合わせ」で締結されたのです。そこには、ベトナム戦争を始めたアメリカが、日韓両国の国交正常化を強制した背景が伺われます。

3.韓国憲法裁判所の決定の内容
判決の主文です。「請求人らが日本国に対して有する日本軍慰安婦としての賠償請求権が「大韓民国と日本国間の財産及び請求権に関する問題の解決と経済協力に関する協定」第2条1項により消滅したか否かに関する韓日両国間の紛争を、上記協定3条が定める手続きに従い解決せずにいる被請求人(韓国政府ー崔)の不作為は違憲であることを確認する。

協定第3条には、「両国の間に解釈をめぐる紛争があるときは、まず外交上の経路を通じて解決を図る。それで解決ができない場合は、両国と第三国の委員を加えた仲裁委員会を2か月以内に立ち上げ、その決定に服する」とあります。

即ち、これまで金学順ハルモニによって「衝撃」の、日本軍による性暴力告発があって以来、日本は勿論世界的な元「慰安婦」に対する支援があったのですが、日本政府は一切謝罪せず、「請求権はすべて消滅」した、「解決済み」の立場を崩しませんでした。一方、韓国政府は、「慰安婦問題のよな国家権力が関与した反人道的不法作為による損害賠償権のような請求権は消滅」していないという立場をとるようになり、ここに両国間には客観的に、「解釈の紛争」は存在するということになります。

韓国政府のこの主張の背景としては、大森さんの「推測」では、明らかに、1949年、サンフランシスコ条約前の「ジュネーブの四つの条約」(130国が加入)による、「放棄できない、させられない」「反人道的な行為については責任を負うべき」という箇所と関係していると見られています。

4.憲法裁判所決定以降の韓国の動きと日本政府の反応
憲法第98条第2項では、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要ととする」とあり、上記協定の3条「両国の間に解釈をめぐる紛争があるとき」は「仲裁委員会」をもちその決定に従わなければならないとなっているのです。

韓国政府は、9月15日と11月15日に、日本政府に正式に協議を申し入れ、仲裁手続きをすすめるための予算を計上しています。一方、日本政府は「解決済み」と言って、両国の間の「解釈の紛争」があることを認めず、正式に交渉に応じるとも応じないとも答えていません。

5.私たちのなすべきこと
大森さんの結論は、日本は「人権の鎖国状態」と嘆きながら、「請求権の消滅」の判断をめぐる議論ではなく、「慰安婦」の年齢が高くなっているということから、両国の交渉の中で解決(和解)をすることです。その「消滅」とは、被害者に「請求権は残っている」という立場を日本政府が認めている以上、両国の「解釈の紛争」があることを認め、それをどちらが正しいかという議論をせず、外交的判断によって解決をすることが唯一の解決策であり、これがラストチャンス、もう時間がないということでした。

大森さんは、韓国憲法裁判所の決定を広く日本人に知らせ、日本政府に誠実に協定に従って協議に応じるように要求しいきたい、そしてこの機会に「慰安婦問題」の最終的な解決を図りたいというものでした。

すこし専門的な用語が多く、読者のみなさんにはわかりにくい部分があるかもしれませんが、よく読んでいただければご理解いただけると思います。一方が問題はあると言っても、相手側はもう解決済みだとはねつけるパターンは、仲裁の方法が明記されていても何ら解決にいたらず、独島(竹島)問題でも同じです。しかし明日、1000回目のデモをソウルで行うハルモニのことを思えば、民主党の政権下で是非、解決してほしいと願わざるをえません。

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