2015年12月7日月曜日

原発メーカーの原発製造等と輸出の「公序良俗」違反性ー澤野義一教授の講演レジュメ

12月5日大阪天王寺でもたれた学習会とそのあとの食事会で、私は、澤野教授のメッセージをしっかり理解できました。これでメーカー訴訟における本人訴訟団の主張を明確に裁判所に伝えることができると確信します。

今回のメーカー訴訟は世界で初めてのもので、原賠法でメーカーの免責を謳いメーカーを守る世界的な法整備がなされているところで、メーカーの責任を追求するどのような法理論が可能か、これが今回のメーカー訴訟の一番むつかしいところです。

澤野教授は、原発は憲法違反というストレートな主張ではなく、原子力基本法をベースとする原子力関連の法律(複数)は、原発が制定当時の理想的な電力源とみなされていた時と異なり、スリーマイル島、チェルノブイリ、福島と30年間で3度起こったシビアアクシデント(過酷事故)によって、原発の安全神話は完全に崩れ去り、圧倒的に多くの世界中の市民が原発を危険視し、また原発が核兵器と深く関わっている事実が明らかにされるにつれ、立法事実が明らかに変わってきたことを強調されました。

したがってそのような原発を製造し輸出する原発メーカーと原発事業者との契約は民法90条の「公序良俗」に反する不法行為であり、その結果、原発の通常運転及び過酷事故に起因するさまざまな現象に世界の市民が不安、恐怖を感じて基本的人権が犯されたとして精神的損害を理由に原発メーカーに賠償金を請求することは、憲法の前文や国際人道法、民法709条的などに照らして十分に根拠があるという主張でした。

私たちはメーカー訴訟において、上記の法的根拠を示しながら、実際に原告がどのようにして精神的損害を被ったのか、このことを明らかにする証拠論文と、証言に全力をあげていきたいと考えます。メーカー訴訟の当事者だけでなく、多くの反原発を掲げる方々のご協力、ご支援をお願いします。                                 
                原発メーカー訴訟の会・本人訴訟団 事務局長   崔 勝久



2015/12/5 澤野義一

原発メーカーの原発製造等と輸出の「公序良俗」違反性

1 論旨
原発の製造・販売・稼働・補修等を目的とする原発メーカー(東芝等)と原発事業者(東電等)の原発ビジネスは、反社会的な「公序良俗」に違反する法律行為(契約)で無効であり(民法90)、その無効については法的利害があれば誰でも主張できる。かつ当該ビジネスによって生じた原発被害(精神的損害等)に対しては、原発メーカーに対しても損害賠償請求ができる(民法709条等)。また原発メーカーの海外企業との原発輸出ビジネスも「公序良俗」に違反する法律行為(契約)であり、かつ政府の国際協定による輸出許可は違憲。

2 「公序良俗」に違反する法律行為(契約)は無効の意味
 私人間の契約でも無効とされる事例―犯罪行為、性道徳に反する行為、個人の自由を極度に制限する行為、経済的公序違反行為、憲法上の権利・自由(原理・価値・秩序)を侵害する行為など。
無効な法律行為の主張―基本的には誰からでも主張できると解されているが、通常は契約当事者から主張。問題は契約当事者以外も可能か⇒原発メーカー訴訟の課題。
 私人間の契約に憲法が適用されるさい間接適用か直接適用かの論議もなされている。
  私人間契約には契約自由(私的自治)の原則が妥当し憲法適用を消極視してきた経緯
 百里基地事件最高裁判決(1989)―地主が自衛隊に土地を売る契約は憲法9条に反し公序良俗に反するか。「私法上の契約には特段の事情がない限り憲法9条は直接適用されないが、公序良俗の一部をなす(間接適用)。公序良俗違反の判断基準は、許容されない反社会的行為であるとの認識が一般的に確立していること。契約当時このような認識は確立しておらず公序良俗に違反しない」。問題は原発ビジネス契約の場合はどうか
⇒百里事件は国と私人関係、自衛隊が問題となる事例で、私人(企業)間関係と原発を問題とする事例とは異なる。また判決の論理によっても原発稼働は反社会的との世論が多数なので違憲判断も可。人権侵害契約を公序違反行為とした判決例では裁判官は新しい判例を切り拓いている。
 
原発ビジネス契約の場合の「公序良俗」違反性―新たな問題提起
 当該契約内容を原告が知るのは困難なため、裁判所を通じ被告メーカーに提出を要求する必要。⇒東芝に対する「質問書」について本人訴訟団が提出
「公序良俗」違反の理由―原発(稼働)は①犯罪行為と②憲法的原理や人権侵害行為に該当。①は原発事故の業務上過失致死傷罪等(検察審査会の見解)、原発の国際犯罪性(田中利幸説等)。②は多様な人権侵害と憲法9条侵害による違憲性(憲法総体の侵害)
原発稼働による多様な人権侵害―生命、生存、身体、居住・移動、職業・労働、財産、教育等に関する個別的人権のほか、恐怖と欠乏からの自由、平等権、平和的生存権など。これらの人権侵害は民法では権利侵害の被害・損害として財産的・精神的賠償請求が可。総称として「包括的利益としての平穏生活権」(吉村良一等)、「生命権的人格権」(大飯原発福井地裁判決)、「原子力の恐怖から免れて生きる権利(ノー・ニュークス権)(原告訴状)など。
精神的損害の独立した請求―単なる不安感か。原発事故の場合は一定の不安感についても請求しうると解すべき。危険を抽象的にでもはらむ原発(稼働)の場合に差止めが認められるとすれば(大飯原発福井地裁)、原発事故が発生し存続している限り損害は認められるべき⇒本人訴訟団・第1準備書面参照
原告適格者は、原発ビジネスが無効だとすれば、精神的損害を立証・主張する意志のある者すべて。海外にいる者も含まれる。その論拠は、原発の恐怖から免れて生きる平和的生存権の享受者は憲法前文によれば「全世界の国民」。
原発の憲法9条違反性―①原発の核抑止力・核潜在力は9条が禁ずる「武力による威嚇」手段や「戦力」に該当。また戦争を引き起こす原因となる「構造的暴力」にもなり平和的生存権侵害⇒コスタリカ最高裁は原発容認政令が非武装永世中立憲法に反し違憲無効と判示(2008)。憲法で原発を禁ずる例としてオーストリア。
②原発政策は違憲の日米同盟の一環。日米原子力協定を前提に2012年の原子力基本法改定で、平和目的に「安全保障」を追加し軍事面が表面化。その関連での原発輸出ビジネスの推進は福島原発事故後の日米原発政策⇒2014年第3次アーミテージ報告。
  1955年原子力基本法は制定当時違憲視されていなかったとしても、現在では正当
な立法事実が失われ違憲無効で原発稼働は不可(立法事実変遷論は最高裁も認める論理)。
   原子力基本法が違憲なら原賠法も違憲で、原発メーカー免責の法的根拠はない
 
4 原発メーカーの原発輸出の「公序良俗」違反性
原発メーカーの原発輸出の問題―何のリスクも負わないで大きな利益を追求()、途上国に対する現代的植民地主義、現地住民に原発被害を与える恐れ、核不拡散条約に反する核の海外拡散による世界平和への脅威。安倍政権は原発輸出ビジネスを経済成長戦略の一環として、輸出国政府との原子力協定を締結して援助。その背後に上記の日米原子力政策―アメリカの了解が前提。
  2国間原子力協定締結の際の日本の原発メーカーの免責。ベトナムの例。日本の原賠法と同様。
国内的に公序良俗違反の原発ビジネスを海外輸出ビジネスで展開することは公序良俗違反で国際信義(憲法前文)にも反し違憲。政府が原子力協定(条約)に基づいて許可することも違憲()

   国内的に違法・違憲の法律行為を条約で容認することは、内閣の外交権を逸脱し(憲法73)、違憲の条約締結を禁ずる憲法98条にも違反。またプラント輸出(国際技術移転)契約に関する外為法が原発を許可しているのは違憲。

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