2013年5月15日水曜日

地域の変革と国際連帯の運動によって日本をよりよい社会へ

地域の変革と国際連帯の運動によって日本をよりよい社会へ
―(その1)福島事故は脱アジアを掲げ近代化を求めてきた結果―

                         崔 勝久(チェ・スング)
NNAA-J事務局長、原発体制を問うキリスト者ネットワーク(CNFE)共同代表)

韓国人である私が、何故、日本の反原発の運動をするようになったのか、そしてどのような考えで、何をしようとするのかをみなさんにご紹介させていただきます。読者のみなさんは、それが在日の特異な意見でなく、日本人にとっても、また韓国人にとってもアジア、世界の人にとっても共通する、ひとつの生き方、人間としてのあり方を求めるものであるということをご理解いただければ幸いです。

(1)今は、どのような時代になってきているのか
 私は昭和20年、日本の敗戦の年に大阪で生まれました。戦後68年、3・11の大震災のあと、日本はまさにこれまでとはまったく次元の違う方向に進みつつあると毎日実感しています。今日のように東京の真ん中のデモで「朝鮮人を殺せ!」というようなことが叫ばれ、それを都知事によって「品がないが、合法」で「法律的に取り締まるものがない」(3月31日 産経新聞)と、放任されるとは夢にも思っていませんでした[]

同時に、北朝鮮の拉致問題や核実験・ミサイル実験を理由にした日本政府、各地方自治体の朝鮮学校に対する露骨な差別・抑圧政策が行われています。みなさん、外国人への抑圧が始まるのは社会としてはよくない兆候です。国内の外国人への抑圧からはじまり、領土問題や外国の「過分な干渉」を理由にして国民のナショナリズムを喚起し国内体制を固め、徐々に自国民の自由を縛り、国家主義的な政策を行うのは、植民地主義の常套手段です。
そのために憲法の「改悪」が準備されています。改正手続きを簡単にする憲法96条「改悪」が今回の参議院選挙の目玉になるでしょう。菅官房長官は「憲法96条が参院選の争点に」(48 読売新聞)と発言しています。
憲法「改悪」を画策しようとする人たちは、日本の戦後復興は「平和と民主主義」と表裏一体でしたがその憲法で保障された「平和と民主主義」の内実を問うのでなく、憲法そのものが占領軍から押しつけられたものだと主張します。日本維新の会は、「日本を孤立と軽蔑の対象におとしめ、絶対平和という非現実的な共同幻想を押し付けた元凶である占領憲法」と綱領に明記しました。維新の会は自民党と組み、憲法「改悪」に必要な国会議員の確保をねらいます。

維新の会の代表で元東京都知事の石原慎太郎は、「国家の発言力をバックアップするのは軍事力であり経済力だ」と朝日新聞のインタビューに答え、「核武装」も示唆しています(4月5日)。憲法「改悪」論者は原発の再稼働、海外輸出を進めようとしていることに要注意です。

かつて中曽根康弘元首相や、米国CIAの協力者であったことが明らかになった故正力松太郎(毎日新聞 2011年4月20日)らがアメリカの「核の平和利用」政策の先頭に立って日本の原子力発電を実現させ、それは期せずして安全神話によって美化され正当化された、潜在的核保有政策[]であったのです。

3・11以降でも、自民党現幹事長の石破は「核の潜在的抑止力を持ち続けるためにも、原発を止めるべきではない」と正直な発言をしています(SAPIO誌2011年10月5日号)。原発は国家の安全保障、世界の核戦略と強く結びついていることを忘れてはいけません。そのことは、2012年6月20日に、「原子力行政の憲法」とも言うわれる原子力基本法が改正され、「我が国の安全保障に質する」と記されたことからもお分かりになると思います。

(2)私の現状認識
安倍政権は今度の参議院選までは本音を隠し経済政策だけにターゲット絞り、国民の70%を超える高い支持を取り付け、選挙の後は戦後の根本的なレジューム・チェンジ(体制変革)[]を行うでしょう。彼の目指すのは、まさに戦前の栄光ある大国日本なのです。植民地戦争をしてきた過去を否定するのでなく、それを新たに評価しようとしています。

ですから彼の目には、従軍「慰安婦」も、強制連行され無給で働かされた人々や、在韓被爆者らの植民地支配の犠牲者のことは見えません。戦前の植民地支配は清算されていないという歴史認識がないからです。韓国の憲法裁判所は、日本政府と交渉して解決して来ようとしてこなかった韓国政府の不作為は憲法違反という判決を下しています[]。韓国の新たな大統領はこのボールを間もなく日本に投げかけるでしょうが[]、このままでは日本政府だけでなく、マスコミも一般市民もその問題提起を受けとめるよりは即自的な反発をすることが予想されます。

多くの人は、1965年の日韓基本条約の請求権協定[]によって、全ての問題は解決されたはずなのに韓国はしつこくこの問題を追及する、そしてそのつど謝罪を求めてくる、気持ちはわからないでもないがやり過ぎだと思っているのではないでしょうか。しかしその協定の第3条に「両国の間に解釈をめぐる紛争があるときは、まず外交上の経路を通じて解決を図る」と記されていることは知らされてないようです[]

ついでですが、竹島問題もまたまさに韓国併合の過程において島根県に編入されたもので、歴史を無視した日本の固有の領土という日本政府の主張を韓国人が認めることはないでしょう。そのような歴史的な清算がなされていないところで、これから日本は最も近い隣人である韓国とどのように付き合っていくのでしょうか。今いちどみなさんに考えていただきたいと思います。

同じく北朝鮮に関しても、安倍政権は拉致事件を起こしたけしからん国だという認識でアメリカ・韓国と組み、北朝鮮を力づくで抑え込もうとします。しかし北朝鮮こそ、戦後68年、日本が戦前植民地支配した国の中で唯一、未だに国交正常化をしていない国なのです。私はいろいろと考えてきましたが、結論的に、日本は北朝鮮に対して戦前の植民地支配をしたことに対する謝罪をまずして、力ではなく、徹底した対話を進めながら拉致問題を解決していくしかないと思うようになりました。それ以外の方法はありません[]

尖閣諸島の問題によって日中関係も深刻です。日本が実質支配をしているので領土問題は存在しないと主張し政府が島を買い上げたことで、この問題を棚上げして将来の人たちの英知に託そうとした周恩来たちの判断を反故にしてしまいました。

アジアの一国である日本は、韓国と喉に骨がささったままになっている問題に向き合わず、北朝鮮そして中国を敵に回して、これからどのような道を歩むのでしょうか。

(3)私の歴史認識
明治以降の日本は西洋列強に開国を迫られ、西洋に追いつき追い越せと植民地主義によるアジア侵略を進め、そして戦後は廃墟の中から国民もこぞって豊かで科学的な社会を求めてきました。被爆国でありながら原発を嬉々として受け入れたのは、そのためです。原発は最先端の科学であり、未来の豊かさのシンボルであったのです[]。福島事故は脱アジアを掲げ近代化を求め続けた日本のたどりついた姿です。

しかし実際に福島事故を経験したからには、「神話」を剥ぎ、日本の近代化の根にある問題を直視しこれまでの過程を根底的に洗い直し、日本は新しい出発をすべきではないのでしょうか。そのことによってのみ、福島事故を二度と繰り返さず、新しい社会のあり方を見つけ出し、そのヴィジョンを全世界に示すことができるのです。あまりにも大きな代価でしたが。

しかし日本国民はまたもや、アジア諸国を敵対視し、自国内の外国人を差別抑圧し、さらに経済的に株価を上げ円安を進めて会社の実績を上げると国民の給与も上がるだろう、消費生活も活性化されるだろうという安倍政権の政策を支持し、豊かで強い日本を志向する方向に進もうとしています。本当にこれでいいのでしょうか。

アメリカは核による世界支配を貫徹するために「原子力の平和利用」を掲げ、日本に原発を売り込んだのですが、その際に、原子力メーカーの責任を不問にするという法律を日本に作らせました。原子力損害賠償法(原賠法)です。福島第一原発の第一号機もまた世界最大のコングロマリットである、ジェネラル・エレクトリック(GE)社が建設したものです。しかし日立、東芝を含めそれらの原発メーカーに福島の被災者たちは補償金を請求できないようになっています。PL(製造物責任)法によると事故が起こった場合、理由に拘らずメーカーが責任を取ることになっているのですが、原賠法においてはその責任を免責するとされているからです。

私はこの事実を知ったとき、江戸末期の黒船を思い出しました。西洋列強による開国の脅しに屈した日本は、数十年後、まったく同じ方法で韓国、台湾への開国を迫りました。原発大国になった日本は、今度は海外への原発輸出を謀るのですが、そのとき自分達がアメリカから強いられた方法と全く同じように、輸出国に原発メーカーの免責を立法化させます。

 メーカーの免責を保障させながら、3・11以降も日本政府の後押しで、原発メーカーとして今や世界のトップ企業になった御三家の日立、東芝、三菱重工は世界中に原発を売り込もうとしています。日立は国民投票で反対されたにも拘らずリトアニアに、三菱重工は地震国トルコへ、東芝はフィンランドへ[10]、その他ヨルダン、ヴェトナムも決定済みです。そう言えば、日立は英国の原発メーカーを買収し、最大3基原発を建設する予定です。

それに台湾の首都台北の30キロ圏内にGEを頭に日立、東芝、三菱重工が建設した4基の第四号原発があるのですが、住民の反対で完成したものの運転はできない状態が続いています。まもなくその存立の是非をめぐって住民投票が行われます。台湾の動向は注目です。住民の粘り強い運動によって次の政権を与野党どちらが獲っても、台湾政府は原発廃炉宣言をする可能性が出てきました。そのためには更なる運動が必要になって来るでしょう。微力であってもなんとか彼らの運動に寄与できる連帯運動をしていきたいものです。

東芝はスリーマイル事故以来40年近く原発建設がなかったアメリカで2基の建設をすることになり、また、子会社のウエスチング・ハウス社と組んで中国で10基の原発を建設しています。さらにマイクロソフトのオーナーであるビル・ゲイツは東芝に私財数千億円を投資し、小型で安全、廉価を旗印にした新型の原発を共同開発し、中国と大型契約をしようとしています[11]。今後増大する中国での原発製造はすべて東芝が引き受けることになるでしょう。

韓国もまた今でさえ21基の原発は世界最大の密度なのですが、2030年までにそれを倍増し、さらに世界の新規原発製造の20%を確保すると李明博前大統領は国策として2010年に発表しました。新しい大統領は未だその政策をどうするのか明らかにしていません。

韓国は先進国の仲間入りをめざし、民主化闘争を経て豊かな国造りに邁進するうちに、原発を輸出する国になりました。貧しい地域と被曝労働者の犠牲の上で成り立つ原発体制は国内植民地主義であり、原発輸出は原発メーカーの事故の責任を免責させ、相手国国民に大きな犠牲を強いるということから戦後における新たな植民地主義であると考えると、韓国は自ら植民地主義的政策によって他国への加害者の立場になってきたのです。石油、石炭の天然資源がなく、さらに輸出立国として発展するために原発輸出は不可欠と前大統領は宣言したのですが、圧倒的に多くの国民は原発の輸出に問題があるとの認識をもてないでいるようです。

 このような状況の中で私たちはNo Nukes Asia Actions(NNAA)を昨年立ち上げました[12]。現在、韓国、台湾、モンゴル、日本、アメリカの市民が参加しています。日本においては再稼働反対と同時に原発輸出反対も掲げられなければならず、原発体制に反対するには各国、各地方において市民が力を合わせる、国際連帯運動をしていこうということを主張しています。

 4月下旬に私は台湾を訪れ、彼らの運動との共通課題を話し合います。6月後半には韓国の全原発立地地域を巡るツアーを行い、日韓双方で30名の参加者が予定されています。住民と話し合い、お互いの抱える問題を率直に話し合うことになるでしょう[13]

 10月は、福島原発を起こした原発メーカーのGE,日立、東芝を相手にして裁判を起こし彼らの社会的、道義的責任を問います。原告は世界中から募る方式を採用します。次号ではNNAAの具体的な活動について記したいと思います。その中で国際連帯運動と共に、地域(region)での活動がいかに大切かについて触れます。
 私たちのモットーは、Act and think, locally and globallyなのです。

(月刊『社会運動』398号(2013.5)市民セクター政策機構発行)




[] 日本の首都東京のど真ん中での信じられない光景に驚きます。
http://www.oklos-che.com/2013/02/httpwww.html
[] 日本はアメリカの従属の下で原発体制を作りはじめたー武藤一羊さんの著書を読んで
http://www.oklos-che.com/2012/12/blog-post_11.html
[] 武藤一羊さんの講演内容:今の運動に欠けているものは何か
http://www.oklos-che.com/2013/02/blog-post_4576.html
[] 韓国の大法院(最高裁判所)で画期的な判決がでましたー瓦礫問題に関わる若いお母さんたちへ http://www.oklos-che.com/2012/05/blog-post_26.html
[] 「慰安婦」問題での政府の不作為を違憲とした、韓国の憲法裁判決定の意味すること
http://www.oklos-che.com/2011/12/blog-post_13.html
[]両国は日韓併合1910)以前に朝鮮、大韓帝国との間で結んだ条約(1910明治43)に結ばれた日韓併合条約など)の全てをもはや無効であることを確認し、第3条では日本は韓国が朝鮮にある唯一の合法政府であることを確認し、国交を正常化した。また日本の援助に加えて、両国間の財産、請求権一切の完全かつ最終的な解決、それらに基づく関係正常化などの取り決めを行った(ウィキぺディアより)。
[] 竹島(独島)の領土問題についてーこの問題の本質を考える
http://www.oklos-che.com/2012/08/blog-post_28.html
[] 二回目の朝鮮戦争はあるのか?外交関係は小説より奇なりー黒崎輝『核兵器と日米関係』を読んで、日朝関係の将来を予測する
http://www.oklos-che.com/2013/03/blog-post_10.html
[] 加納美紀代『ヒロシマとフクシマのあいだ―ジェンダーの視点から』(2013 インパクト出版社)
[10] 2013128日月曜日
ムーミンとサンタの故郷、フィンランドから東芝に抗議に
http://www.oklos-che.com/2013/01/blog-post_28.html
ムーミンとサンタの故郷、フィンランドから東芝に抗議にーその2、ハンナさんのお話し
http://www.oklos-che.com/2013/01/blog-post_31.html
[11] 2011128日木曜日 「ビル・ゲイツと中国が新型原子炉の実験」の意味すること
http://www.oklos-che.com/2011/12/blog-post_1505.html
[12] No Nukes Asia Actions (NNAA) 出発にあたって:原発輸出と闘うべき理論的根拠の確認 http://www.oklos-che.com/2012/11/no-nukes-asia-actions-nnaa.html
[13] 韓国全原発地域訪問ツアーに参加しませんか
「在日」2世。20歳半ばで「日立闘争」に出会い、川崎を中心に地域活動を始める。3・11以降は「国籍・民族を超え協働によって地域社会の変革」を提唱。「原発体制を問うキリスト者ネットワーク」(CNFE)共同代表、No Nukes Asia Actions(NNAA)事務局長。

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