2012年12月11日火曜日

日本はアメリカの従属の下で原発体制を作りはじめたー武藤一羊さんの著書を読んで


武藤一羊『潜在的核保有と戦後国家』(社会評論社)の第一章だけを紹介しました。これは3・11以降に書かれたものでこれまでの武藤さんの問題意識の上で改めて原発体制とは戦後日本にあっていかなるものであったのかを記したものです。是非、ご一読ください。

①武藤一羊『潜在的核保有と戦後国家』(社会評論社)から。「だからこそ」批判。どうして原発が日本に、「被爆国だからこそ平和利用」という理屈。武藤は「論理の媒介されぬこの情緒的結合」を批判、これが「戦争責任をうやむやにし、植民地責任を免れる最も便利な手段となった」と批判。

②武藤一羊:1953年の国連で提案された原子力平和利用は、アメリカの「世界的核支配を確実なものにするためのもの」。最初から「軍事利用の付属物以外の何物でもなかった」。東西冷戦下での米ソの「紐付き原子炉建設の囲い込み」、それが日韓台の原発建設の出発ということか。ゴミの処理法もなく。

③武藤:平和利用といっても使用済み核燃料の処理方法はなし。処理方法を考えないで原発建設を進めたのは、軍事が人を殺戮するだけで後処理を考えないというとの同じ。やはり、原発と核兵器は表裏一体。原子力発電は「核発電」と言うべき。原子力と核の使い分けは意図的か。平和ボケから来る原発建設。

④平和利用への幻想:56年の第二回原水禁世界大会での宣言文は、原水爆の廃絶によって、原子力平和利用の時代を迎えたいとある。原子力への幻想は、「戦後の左翼からリベラリストに至る進歩的知識人」の間の科学技術の発展を肯定する近代主義に根差したものであった。反原発運動はこの反省から。

⑤出発点ー核武装能力のための原子炉導入:米国スパイであった正力と中曽根によってビキニ被災医の翌日、原子炉建設予算が通過。国会での趣旨説明は原子兵器に関すること。原発は最初から平和利用ではなく、核武装の第一歩として位置つけられていた。中曽根による改憲・再軍備・核武装のシナリオ。

⑥原子力平和利用は三つの原理と呼応:1.米国の世界的覇権支配、2.戦前の日本帝国の継承性、3.憲法の平和と民主主義。ソ連の核実験に賛成する原水協とすべての核実験に反対する原水禁に分裂(65年)。共産党は原子力の平和利用に賛成してきたこととこの分裂の総括をしていない。

⑦反核運動と原発反対運動の住み分け:72年の原水禁の大会で核実験反対と、環境汚染という位置付けでの原発・再処理反対を掲げたが、原水協は原発問題を取り上げず。しかし原水禁においても反核は核兵器、原発は環境問題と分けて認識するという限界をもっていた。

⑧「国家安全保障のための原子力」という公理:70年代から拡大した原発は、国家安全保障政策の核、本体に位置つけられる。公理は説明を要せず。原発は、「核兵器形態をとっていない軍事的要素」であって、エネルギー政策として提示されたのはカモフラージュか。安全保障に資すると今年明記される。

⑨戦後日本の安全保障:1.日米安保による核の傘、2.戦争遂行能力の保有。3.憲法による非武装と民主主義の三つの要素の絡み合い。米国は日本の核武装を許さず。英国とは違い日本は米国に隷属。米国の核の傘から離れ国防軍をつくりNTPからの脱却のストーリーは最初からありえない構図。

⑩佐藤栄作の「核カード」:64年の中国核実験。65年のベトナム戦争、71年のキッシンジャー中国訪問、72年の沖縄返還。この間に佐藤は米大統領に個人的に中国に対抗するための核の必要性を告白。キッシンジャー・周恩来会談で両国は日本の核武装反対の声明文をだす。日本の核カードは不発。

⑪原子力と安保:原発体制はエネルギー政策の衣をまとっても、「核兵器製造の技術的・経済的ポテンシャルを保持」するためあった。原子力は民間産業として成立しない要件を欠いたまま、市民社会の洗脳の為に核燃料サイクルを謳う。高速増殖炉の建設稼働はそのため。ここに原発の存在理由の秘密あり。

⑫60-70年にかけて安保・沖縄・原子力は米の覇権システムの下で国家安全保障の骨組みに統合。池田の所得倍増、経済成長による生活向上の夢が人々の意識から「安保」を薄めそれに米軍基地の沖縄移転。沖縄は日本の0.6%だがそこに米軍の四分の三が移転される。安保隠蔽構造の本質はここにあり。

⑬核カードの落し所:佐藤栄作の核カードは、潜在的核武装能力の保持に留まる。米は日本の安保破棄・核独自武装がないことを見抜き、さらに経済的に抑え込む作戦に。さらに2003年ブッシュは、北朝鮮の核武装は日本の核武装を止められないと、日本の核カードを中国に使用。日本は米の属国。

⑭従米コンセンサス構造:日本の国家安全保障のための原子力=潜在的核武装としての原子力は、従米コンセンサス構造に組み込まれている。米が日本の核武装を承認する時は、軍事・経済政治的にも「日本を完全に米国の下に組み敷くことで初めて」可能になるだろう。さらに進む米への従属。

⑮日米安保条約を友好条約に変えるというゴール:福島原発の破綻のもたらすもの。安全保障の強化か、米従属の継続か。アジア全域の非核化・非軍事化を進める平和保障関係の成立に向かう。その要は米軍基地の完全撤廃。民主レベルの国際連帯。日本はその方向に進めるのか?

2 件のコメント:

  1. 「アジア全域の非核化・非軍事化」を進めるための思想の
    核はなんだろうか?欧米合理主義か?博愛主義か?アジア人の一人として考える。アジア人のキリスト者とはいかなる者なのか?

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  2. 私はむつかしく考えません。既に私たち自身、欧米合理主義的な考え方を学んできており、英語は読めても漢文は読めなくなっています(私の場合)。アジア人キリスト者の前に、そもそもキリスト者とはなにか、ということさえ自明ではありません。洗礼を受けた、ドグマを信じている、教会生活をしている等など。私自身はそのようなことに関心はありません。ただイエスが言うように、すべてを捨てて自分の十字架を担いイエスに従うのみです。
    私はそれぞれの歴史、社会環境の中で、ひたすら人間らしく生きるということを追及すればいいと考えているのです。その生の軌跡を後で人は分析して博愛主義だとか、欧米合理主義に影響されているとか言うのでしょう。己のその生を既存の思想や理論で枠付けすることも説明することも必要ないと考えています。
    よいお年をお迎えください。

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