2012年9月22日土曜日

投稿(岡田 卓己):暗礁に乗り上げる日韓関係


韓国在住の岡田 卓己(おかだ たかし)さんを紹介します。
彼の肩書(元神奈川の中学校教員、現韓国啓明文化大学(韓国・大邱市) 外国人専任講師)よりも、私は是非、彼の教員を辞め韓国に留学して韓国に住み、さまざまな運動に関わるのか、その「思い」を彼が私に送ってくれたメールの中から抜粋して紹介したいと思います。


>私も、「共に生きることは、共に闘うこと」という問題意識を共有します。
>独島・竹島問題にしても、釣魚台・尖閣列島問題にしても、日本・中国・
>韓国の偏狭なナショナリズムを自国民に煽り立てています。

>私が韓国に来た問題意識は「自民族中心主義を相対化し、国民国家の壁を
>越えることが課題」(日本に於いても韓国に於いても)と考えたからです。
>特に日本人としての私は、侵略戦争と植民地支配の歴史を直視しその清算
>のために闘うことを通して以外、「未来志向」などというものは成り立
>たないとの考えを持ち続けています。
>だから韓国に来てから、「慰安婦」問題、在韓原爆被害者や2世・3世
>問題、勤と、必死に連絡を取り共に活動してきました。体が一つしか
>無く、どれも満足に活動できていないことが心残りですが。

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暗礁に乗り上げる日韓関係
―過去の歴史を直視し清算する
日本側の努力こそが必要―

韓国啓明文化大学教員
岡 田 卓 己

八月一〇日、李明博大統領は突然、独島・竹島を訪問した。日本政府は直ちに駐韓日本大使を召還し、竹島・独島の領有権問題を国際司法裁判所に提訴するという。日本のマスメディアは、日本との「未来志向」を謳った李政権初期からのこの変化を、親族・側近の汚職などで離れた韓国内の民心をつなぎ止めるため「独島カード」を切ったとし、日本政府のいう「日本の固有領土」論をなんの検証もなしに繰り返した。これに対し韓国のメディアは、独島の韓国領有権を前提にしながらも、「[社説]大統領が独島を訪問して得するのか?」(ハンギョレ八月一一日)「外交的観点で冷静さを失った李明博…かえって『紛争地域』に」(同八月一三日)などと冷静な対応を見せている。

この、李大統領の独島訪問とその後の経緯から、何が見えてくるか。
第一に、一九世紀末からの日本によるアジアへの侵略と植民地支配について、公式謝罪・賠償など過去の歴史への清算ができていない上での「未来志向」なるものが、いかに脆弱であるかを示している。被害を受けた諸国の民衆は、日本が行った侵略と植民地支配を決して許してはいない。この清算をしっかりと行うことこそが、日本がアジアの一員として生きていくことへの前提となっていることを、再度明らかにしている。

第二に、領土問題での対立は、双方に偏狭なナショナリズムを増幅させ「戦争への火種」となるが、この問題の友好的な解決には冷静な対話と歴史的な検証が必要となる。日本のマスメディアは、政府・外務省の「日本の固有領土」論を鵜呑みにし、全く自己検証を行っていない。この点では、一九〇五年に日本が「無主地」を根拠に日本領土に編入する以前、一八七七年(明治一〇年)に明治政府が決定した「太政官指令」が極めて重要だと思われる(註)

●過去の清算を求める韓国の世論
韓国では昨年より、植民地支配の被害者の救済、特に日本政府・企業による戦争犯罪についての謝罪と賠償を求める動きが活発になっている。その背景には、被害者たちが高齢化し、被害者への直接の救済は、今が最後の機会になるという認識が広まっていることもある。

昨年八月三〇日、韓国憲法裁判所は、日本軍「慰安婦」被害者と原爆被害者について「韓国政府が日本政府に対し、韓日請求権協定2条の外交上の経路(1項)もしくは仲裁委員会への付託(2-4項)を行わず、被害者を救済してこなかった行政権力の不作為は憲法違反である」という内容の判決を下した。この判決を受け、李明博大統領は昨年一二月の日韓首脳会議で「慰安婦」問題についての二国間協議を申し入れたが、日本政府は応じようとしていない。日韓協定では、「外交上の経路」を通じて解決することができなかった場合、一方の国からの「公文」によって仲裁委員会に付託することができる。その仲裁委員会は日韓両国がそれぞれ任命した委員と、その二人の委員が合意する第三国の委員一名によって構成され、両国は「その決定に服すること」とされている。

日本政府が二国間協議をあくまで拒否する場合、韓国側が日本に公式文書を送付することによって、仲裁委員会に付託されることになるが、国際世論は、国連人権委員会・勧告(二〇〇八年)や下院慰安婦」決(二〇〇七年)をはめ、国の議会では、日本の戦争犯罪と最悪蹂躙非難する決を上ているので、は日本に対し公式謝罪と賠償をめる決定を可能性い。公式謝罪と賠償をあく拒否しつける日本政府の外交は、この点でも全にいきづまっている。

さらに昨年九月一六日、韓国の国会企画財政委員会と企画財政部(「部」は日本の「省」に相当)は、韓国の公共事業体や地方自治体の入札から日本戦犯企業を制限する一三六社リストを発表した。先進自由党の李明洙(イ・ミョンス)議員を中心とする与野党一七名の議員の発議によるもので、企画財政部が該当する公共事業体や地方自治体に部令(省令通達)を発送し、事実上入札を制限することになった。この措置は、朝鮮女子勤労挺身隊など多くの強制徴用に対して謝罪も賠償も行っていない三菱重工が、人工衛星アリラン3号打ち上げの受注を受け、被害者や市民から強い批判を受けたことに応えたものであった。

さらに、二月二九日には戦犯企業二次リスト五八社の発表もあった。二次リストの発表前に「不二越強制連行訴訟北陸連絡会」は、「不二越も戦犯企業に含めるように」と李明洙議員に要請行動を行った(筆者も参加)。これらの入札制限は、民間企業を拘束するものではない。昨年一〇月、韓国東西発電が唐津(タンジン)火力発電所に必要なボイラーやター
ビン、発電機発注の契約を三菱重工・日立製作所と結んだことに対し、国会議員や市民たちは道徳的責任を負うよう強く要求した。これについて韓国東西発電は、

・第二次世界大戦後のドイツの全産業界が戦後補償に参加した前例を二社に提示
・強制動員問題に対する韓国社会の批判的な世論を説明
・品質などを協議する過程で、事業責任者に被害者に対する持続的な支援策を要求する

などの活動を行っていくと表明。しかしながら一月三一日、韓国西部発電(東西発電とは別会社)は三菱重工・丸紅コンソシアムに九〇万kw級平澤(ピョンテク)複合火力発電所二期工事を発注し(毎日経済新聞一月三一日付)、勤労挺身隊被害者たちの怒りをかった。今後、戦犯日本企業が韓国で経済活動を行う際、市民たちの抗議を受け大きな足かせとなるであろう。
そして五月二四日、韓国大法院(最高裁判所)は、広島三菱徴用工原爆被害者裁判、新日鐵韓国人徴用被害者裁判について、原審(ソウル高等法院)の「日本の法理を認め、原告らの請求に対して日本判決と矛盾する判断はできない」という理由から「原告の請求権が消滅した」という判決をし、原告請求権を原審す判決をした。この判決の期的な特は、

・請求権協定は、日本の植民地支配の賠償を請求するための協定ではなかった
・国家が条約を締結し外交的保護権を放棄するだけに止まらず、国家とは別個の法人格を持つ国民個人の同意なしに、国民の個人請求権を直接的に消滅させ得るとみることは、近代法の原理と相容れない
・日本の国家権力が関与した反人道的不法行為や、植民地支配に直結した不法行為による損害賠償請求権は、請求権協定で、個人の請求権はもとより、大韓民国の外交保護権も放棄されなかったとみるのが相当

などの論旨がしっかり展開されていることである。特に注目されるのは、植民地支配の源泉無効を主張し、韓日請求権協定と韓国憲法の立場は相容れないとした上で、日本の国家権力が関与した「反人道的不法行為」については、一般の法的な債務関係とは違って、個人請求権のみならず韓国政府による外交保護権をも行使せねばならないとされているところだろう。具体的な賠償額や賠償方法は原審によって決められることになるが、韓国内に法人財産がある日本の戦犯企業は、差し押さえを含む損害賠償を行わなければならない「危険」に絶えずさらされる。

こうした韓国内で日本政府や戦犯企業の責任を追及する声が高まる中で、七月六日には三菱重工と名古屋三菱・朝鮮女子勤労挺身隊訴訟を支援する会との間で二年間一六回続けられた交渉が決裂した。

この交渉の中で三菱重工は、裁判所で認定された事実、「日本に行けば働きながら女学校に行くことができ、お花やタイピングなどの勉強もできると、国民学校を卒業する年齢(一二・三歳)の幼い少女たちを騙して動員したこと(名古屋高裁は「強制連行」に相当すると認定している)」「タコ部屋同然の監禁状態で、少女たちを長時間労働させたこと」「賃金を支払っておらず、その未払い賃金の供託さえも行っていないこと」など、ほとんどの事実を認定した。

しかしながら三菱重工は、「日韓請求権協定で解決済みであり、裁判で勝訴した」ということを唯一の「根拠」に、元原告・被害者であるハルモニたちに一円たりとも金銭が渡ることを拒否し、韓国青年への奨学金制度の創設などという謝罪・賠償とは直接関係ない欺瞞的な提案を行いつづけた。被害者側は、三菱重工が積極的に戦後賠償基金の設立を行うことなど、様々な柔軟な提案をしたが、三菱重工はすべて拒否した。最高裁判決以降の和解交渉の開始にあたり、「双方が誠実な態度で交渉にあたる」との約束を反故にし、「被害者へのいかなる賠償にも応じられない」との三菱重工側の頑なで不誠実な態度は、直接抗議行動を中断させるための時間稼ぎとも言えるだろう。

こうして支援する会は、八月一〇日より原告ハルモニや光州(クワンジュ)を中心に活動する「勤労挺身隊ハルモニと共にする市民の会(以下「市民の会」)」とともに、三菱重工本社前での毎週金曜日の抗議行動を再度開始した。
また、朝鮮女子勤労挺身隊として最大の一〇八九名を強制動員した(株)不二越に対する裁判は、昨年一〇月二四日に最高裁で棄却されたが、六月八日には不二越訴訟北陸連絡会は原告・「市民の会」とともに抗議行動を行った。韓国の「市民の会」は、これまで名古屋三菱重工の勤労挺身隊被害者の支援を中心に活動してきたが、不二越の勤労挺身隊被害者ハルモニへの支援も開始し、昨年暮れの不二越富山本社への抗議行動に続き、六月八日は初めて東京本社前での北陸連絡会との共同抗議行動を行ったことになる。


【写真の挿入2枚】
【写真説明】
68日、不二越・勤労挺身隊被害者ハルモニや「勤労挺身隊ハルモニと共にする市民の会」(韓国)とともに、不二
越東京本社前での抗議行動
(写真提供レイバーネット日本)

韓国内での日本の侵略戦争と植民地支配の責任を問う活動の進展、とりわけ五月二四日の大法院の判決に触発され、今後被害者たちによる韓国内での日本政府や戦犯企業に対する損害賠償訴訟が次々と提訴され、勝訴していくことが予想される。このとき、韓国で経済活動を展開する日本企業はどうするのだろうか。「日韓関係が暗礁に乗り上げている」などとマスメディアでは報道されているが、この原因はとりもなおさず過去の清算を果たしていない日本側の責任である。韓国国会は昨年、与野党合意で日帝徴用被害者のための「強制動員被害者支援特別法」を制定し、基金を管理する財団を近日中に設立する
予定だ。

日韓請求権協定の「供与・貸付金」を受け取り、韓国第一の製鉄会社に成長したポスコも、被徴用工に対する支援基金に一〇〇億ウォンを「出資」すると報道されている(ハンギョレ五月二六日)。日本政府と企業は、遅ればせながらでも戦争責任の謝
罪に基づいて「戦争・植民地被害者賠償法」のような法律を作り、直ちに基金財団を設立すべきである。憲法裁判判決や大法院判決を引き出した弁護人の一人であった、崔鳳泰(チェ・ボンテ)弁護士は、日本側企業に対して、「財団に寄付した企業に免責を補償す
ることで、日本企業が前向きな対応を取れるようになってほしい。(三菱重工・新日鐵などの)会社側がそうすれば訴訟を取り下げたい」と発言している(毎日新聞五月二七日付)。
【二〇一二年八月二〇日 記】

(註)この六月に発行された、嶺南大学・独島研究所発行の雑誌『獨島研究』に、拙稿「一八七七年 太政官指令『日本海内 竹島外一島ヲ 版圖外ト定ム』解説」を発表した。日本政府は一八七七年に「竹島(独島)は日本の領土ではない」という指令を決定したと解釈できる。この太政官指令全文と国立公文書館所蔵の公文録・太政類典の原文写真版(漆崎英之氏提供)を http://www.nikkan21.net にて公開するので参照願いたい。また、本稿で取り上げた多くの資料も、このURLにて公開する予定である。



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